ストーキングDAYS

エピローグの、その前の

 瞬が家に戻り、鍵をかけた音を確認する。すると俺と愛莉の二人きりが、静かな夜に取り残された。

「……でさ、なんでここにいるの」

 俺は、愛莉を見てそう尋ねた。今日俺たちは会う約束はしていない。しかも、俺は圭の家なんて彼女に教えたわけでもなかった。

「え、そんなの決まってるじゃん!」

 俺の問いかけに、彼女はニコニコして答える。

「『約束』、守ってもらわなきゃじゃん?」

 そういうと、彼女はそのままの笑顔で……氷のように冷たく、言い放った。電灯の光がカチカチと点滅して、愛莉の顔に影を落とす。それは、彼女の過去のように真っ暗で、底が知れなかった。彼女は綺麗で可愛らしくて、誰が見ようと完璧なヒロインだ。しかしそれは、彼女が見せている幻想にすぎない。本当の彼女は、一途でいじらしい、最悪の恋する乙女だ。


 初めて出会ったのは俺のバイト先だった。俺は地元のカラオケでバイトをしていた。いつもみたいにガラガラの店内で、一人で受付に立っていた。シフトが被った人たちは裏でスマホを片手に雑談をしていたが、俺はその輪の中には混ざれなかった。バイト先には俺と中学校が同じだった人がいたようで、「昔の」噂が広まっているようだった。俺みたいなやつに関わろうとしてくるやつはおらず、いつも俺は孤独だった。そんな中で、自動ドアの空いたことを告げるおちゃらけた音楽が俺の耳に入ってくる。

「いらっしゃいませ! 何名様でしょうか……」

 なるべく明るい声で、元気よく……そう言いかけて、俺はそのお客さんを見た。それが、彼女との出会いだった。

 彼女は、黒いパーカーのフードを深くかぶっていた。彼女は僕の前に立つと、胸の名札をじっと観察してきた。俺はふしぎに思って黙っていると、彼女はずいっと俺の顔にスマートフォンを近付けて僕に告げる。

「あなた、【黒タイツフェチリスト】であってるよね?」

 彼女はすごく真剣な顔でそう大きな声ではっきりと俺に尋ねた。そう、「大きな声で」そう尋ねたのだ。

「……えっと、お客様。何のことでしょうか?」

 俺はなるべく平然とした態度でそう言ったが、喉の奥が渇いているのを感じた。心臓がバクバクと音を立てる。なぜ、彼女は俺の投稿サイトの裏垢の名前を知っているんだろうか。というか、誰だ。俺は彼女の顔をまじまじと見たが、かなり顔の整った美少女であるといったことしかわからない。そんな知り合いが俺にいるはずもなかった。

「ふーん。そうなんだ」

 彼女は、俺の瞳をじっと見つめると、にやりと笑った。魔女のような、なんだか不気味な含みのある笑顔だった。するとおもむろに彼女はスマートフォンを見ると文章を読み上げた。


「『今日もしずくたその太ももえちえちすぎるでごわすwww  やばい舐めたいぺろぺろぺろーwww はあ……、死ぬなら制服を着たニーソの女の子に、顔を太ももに挟まれて死にたいわwww てか踏まれたいwww』」


 彼女は超棒読みで昨日の俺の投稿を読み上げた。そう、しかも俺のバイト先で。

 あまりの彼女の変態発言に、裏にいる同じシフトの人たちもだんまりである。気まずすぎる空気が流れ、彼女だけが笑っていた。彼女は「ん? 君の投稿ってばらしてもいいんだよ?(笑)」とでも言わんばかりの表情で、また口を開こうとした。

「お客様‼ フリータイムでよろしかったですね⁉ お部屋までドリンクバーのコップお持ちいたしまーーーーーす!!!」

 俺は思わず甲子園前野球部顔負けの大声を出して、彼女の腕をつかみ部屋まで連れて行った。このままだと、俺の裏垢がばれる。そしたら本当にバイト先で居場所がない。彼女は少し驚いたように肩をびくっとさせたが、その後おとなしくついてきた。多分他のバイトメンバーには不思議に思われているだろうが仕方がない。

 彼女を適当な部屋に入れると、俺はドアを閉めてこういった。


「お前、だれ?」






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