親友の彼女

「え!? ちょ、ちょっと愛莉どうしたの!? は? え!?」

 唐突に瞬は大きな声を出して、その女の子から距離を取った。瞬は鳩が豆鉄砲食らったような表情をしており、本気で驚いていたんだとわかる。

 田舎の夜はすごく静かで、僕たちはぼんやりとした電灯の下で見つめ合った。僕の心臓がバクバクと音を立てる。

 そもそも、この子は誰なんだろう。

 そんな単純な疑問すら、思いつくまでに時間がかかってしまった。それほど僕は、無意識に彼女を見つめ、心臓が奪われてしまっていた。とにかく、僕の性癖にドストライクだったのだ。

 ふわっと広がる黒髪は胸元でくるりと巻かれており、綺麗な内巻きになっていた。艶々とした綺麗な髪で、思わず触りたくなってしまうほどだった。淡い水色のワンピースは、散りばめられた花柄が彼女の柔らかいオーラを引き出している。そんな清楚なイメージなのに、ミニ丈のスカートから覗く太ももは健康的にムチムチとしている。それがなんだか大人の女性のようで、心臓に悪い。 

 そんな女の子が、今目の前で親友に抱きついた。僕の理解が追いつかない。

「えっと、二人は知り合いなのか?」

 やっとのことで出た声は、掠れ気味だった。それはもう、無理やり声帯から出したことがバレてしまうほどに。

 そうすると、その女の子は胸の前で手をグーに握りしめて僕に言った。

「私、瞬くんの彼女です!」

「「は!?!?」」

 僕と瞬の声がハモった瞬間だった。いや、なんで瞬も驚くんだよ。そんなくだらないことを思いながら、心に隙間風が吹く。

 暗闇の中、僕の家の電気が消えて、風が吹く。母親がもう寝てしまったのだろう。そう思ったが、すぐに頭から消えてしまった。

 瞬の彼女……たしかにこいつはイケメンだし、彼女の一人くらいできても不思議じゃない。でも、僕たちは親友なんだからもっと早く教えてくれても良かったんじゃないか? と思ってしまう。

 それと同時に、心臓を鋭利なナイフで一突きされたような錯覚に陥った。彼女は、僕の親友の彼女なのだ。あの可憐なコスモスのような女の子は、永遠に僕のものになることはない。その事実がなぜか心に刺さった。

「はじめまして! 私、愛莉っていいます! 自己紹介聞いてもいいですか?」

 そんな僕の気持ちは知らずして。彼女は僕にグイっと近付くと、そんなふうに僕に話しかけてきた。夜空のように暗く、星のように輝いた瞳が僕を貫く。息を飲み込んでしまったが、僕も返事をする。

「ああ、どうも……。瞬の親友の圭です」

「知ってます!」

 間髪入れずに返事をされた。怖い。

「そういうんじゃなくて、もっと詳しい自己紹介が知りたいっていうか……」

 そういうと、彼女……いや、愛莉は僕を期待のまなざしで見つめた。

「えっと、なにを言えばいいんだろう。瞬といつから仲がいいかとかか? 質問があれば答えるけど……」

 僕はしどろもどろになりながら答えてしまった。女の子とはあまり話したことがないので、緊張した。でも、僕の答えに満足したようで、愛莉は僕に質問を投げかけてきた。


「圭先輩って、パンツはボクサーとトランクスどっち派ですか!?」

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