出会い

親友と彼女

 いつも通りの一日だった。

 朝起きて、アラームから五分過ぎた時計に飛び起きた。そのあと、慌てて服を着替えて外に出るが、灰色に空が曇っていたから「傘持ってくべきかな……」なんて悩んだりしつつ、電車に間に合わなそうで結局持たずに走り出す。6月の蒸し暑さも相まって、シャツが背中に張り付くのが気持ち悪い。それでもなんとか授業には間に合って、昨日アニメでオールしたせいで重い瞼を擦る。教授の話が脳を通り抜けるままに、なにも内容はわからないまま日が暮れて、なんとなく帰宅する。

 特筆する程のことはない。強いて今日がいつもと違う特別なことがあったとするならば、まぁこの後のことだ。


 大学からの帰り道、最寄り駅の改札をくぐるとたまたま親友と行き合った。


「あれ、圭じゃん!うぇーい!」

 大学デビューの金髪センター分けの彼は、すごくニコニコしながら僕の元へ走ってきた。もう夜の10時だっていうのに、金髪が眩しい。てか何このキラキラ男子。誰こいつ。

「どちら様ですか?」

「いや圭酷くない!?」

 そう言うと、瞬はむすっとした表情で僕の顔を見てきた。見た目はかなり派手に変わったけど、その真っ直ぐな瞳だけは健在だった。

 瞬とはもうかれこれ小学校の頃からの腐れ縁だ。夏休みに一緒にノリで十キロくらい歩いたり、そのあとお金なくなってカップラーメン二人でわけて食べたり……。あの頃は二人で泥だらけになったものだが、今や瞬はかなりのイケメンである。

 月明かりに照らされた横顔が男のくせにすごく綺麗で、なんだか腹が立つ。

「大学デビューのくせに……。イケメンは死ね」

「え、まってめっちゃわかるわ!」

 俺の呟きにニコニコしながら瞬は食いついてくる。イケメンってお前のことだよ、無自覚野郎。呆れてため息が出たが、ふと自分の口角が上がっていることに気がついた。

 良くも悪くもコイツは純粋なやつだ。昔はかなり荒れてたけど……まぁそれはまた別の話。今は俺の大切な親友だ。気軽に何でも話せる関係っていうのが、すごく楽だった。最近大学どうだ、とかあそこのラーメンがうまいぞ、とかそんな話をしながら駅からの道を歩く。「そういえば最近性癖を投稿するとブックマークされるんだ」って話を面白おかしく話したら、「それは草!」と返してくれた。正直、瞬が犯人なのではと疑っていたのですこし拍子抜けだ。じゃああれは誰がやってるんだよ……。そんなことを喋っていたら僕の家の前まで着いてしまった。僕の家は、瞬の家よりも駅に近いのだ。

「それじゃ、またな」

「おう!またなー!」

 瞬はまた、ニコニコしながら僕に手を振る。僕も小さく手を上げてから背を向ける。すると後ろから、アニメみたいな可愛い声がした。

「瞬! 今帰りー??」

 思わず振り返ると、その女の子はミディアムくらいの黒髪を揺らして、瞬の背中にぎゅっと抱きついた。

「「……え?」」

 思わぬ展開に、僕も瞬も思わず目を丸くしてしまった。多分この瞬間、時が止まってたと思う。

 夏の訪れを感じる生暖かい風が彼女の頬を触れるのに目を奪われていると、彼女の瞳は僕と交差する。

 小さく微笑んだ顔を見て、僕の心臓が跳ね上がった気がした。

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