第2話
ファミレスというものは素晴らしい。
なんてったって、冷房が入っている。そう、冷房が。
家との快適さの違いに感動しつつ、私は亜理紗の話を聞いた。
どうやら彼氏と別れたらしい。まあ、案の定って感じだ。
「彼氏と別れたからってなんで私んとこに来たわけ?わざわざ弟にまで聞いてさ。」
「美樹が既読スルーするからだろ!電話もしたのに!何で出ねえんだよ!」
「そりゃあ、生きるので精一杯でしたから。」
「適当言ってんじゃねえ。」
返事したくないに決まっている。こういう時はろくなことにならない。
亜理紗という生き物はいつも私を巻き込んでハチャメチャなことをしでかす。
今回は長年の付き合いで身についたセンサーが危険を察知したわけだ。
「まあ、この際既読スルーしたことは許してやるよ。今日は頼みがあってきたわけだ。」
「え、断る。」
「まあ、まずは話を聞けって。あたし、しばらくは美樹ん家で___」
「ことわああある!」
「そういわずにさ、ほら、あたしたち長い付き合いだろ?」
「はあああああああああ。」
長い溜息が止まらなかった。だから、ご飯おごるって言ったんだな。少しでも恩を売ろうってわけか。
_____食べてしまったじゃないか。一番高い物を。美味しく。
「ほら、ご飯おごってやっただろ?」
「・・・言うと思った。実家に帰るか一人暮らしかしたらいいじゃん。」
「いやー、ほら、実家には帰りたくないじゃん?親の反対押し切ってあいつんとこ行ったわけだし。それにほら、一人で暮らせるわけないじゃん?あたしが。」
亜理紗はズボラ選手権があれば優勝できるほどズボラである。
「でも、エアコンないし。」
「あたしが買うから問題ねえって。金はあるからよ。」
二年前、起業して亜理紗はいわゆる社長ってやつだ。金だけはあるってか。その才能を生活圏でも生かしてほしいものだ。
「彼氏と仲直りしてよりを戻したらいいじゃんかあ。それか、新しい恋とか。亜理紗ならすぐみつかるでしょ。」
「俺より稼げるやつは無理、とか言うやつとよりなんか戻せるかよ。それに、しばらくはそういうのはいらね。今やってる事業が最高に楽しくってさ。」
「はああああああああああああ。」
本日2度目のため息を止められなかった。
当時、小学校の頃から亜理紗は周りからモテていた。それに、このさっぱりとした性格も男子からの評判は良かった。ただ、女子からは口調が悪い、野蛮だ、という子たちも少なくはなく。私は数少ない女友だちだった。
好かれている男子たちを誘えばいいものを、事あるごとに誘うのは私で、最終的には亜理紗と一緒に大人たちから説教をくらう始末。なぜ私が、と何度思ったことか。
ただ、なんだかんだ人情はあつく、後でお詫びということでジュースやお菓子を奢ってくれたり、私が忘れ物をしたときは、周りのクラスに掛け合って借りに行ってくれたりもした。そういう一面に私はほだされてしまったのだろう。長年コミュ障の私が、25歳になった今も連絡をと取り合っている友だちは、正直言って亜理紗くらいだ。
今までのことを思うとお引き取り願いたい。しかし、ご飯を奢ってくれたことへの小さな恩となんだかんだ頼ってくれることへのむずむずした嬉しさが、これから訪れるであろう面倒事を避けたい思いを上回ってしまったようだ。
「_______家のこと少しはやってよね。」
「よっしゃああ!ありがとな、美樹!そうと決まったら、さっそくエアコン買いに行くぞ!」
また、ほだされてしまった・・・。
あの夏へ、もう一度 たこ夜気暑 @tako69
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