第四話 応援してますから。
「べーっ!」
あはは、と
「バカだねえ、小鳥売はまだ十二歳さ。」
「まだ
「そりゃあ小鳥売は、良い肌ツヤで、豪華なワガママ
美女と言われないのは、
「まったく、
あはは……、と
「うるせっ! こういうのは早めに言っとくのが良いんだよ!」
と
「四年後か。なあ、四年たったら、オレを選べよ……。」
あたしの後ろから、
「それはない。」
「
あたしは喜んで、大好きな
「ない。おまえはない。」
と言い捨て、
「小鳥売、遅くなってすまない。帰るぞ。」
とあたしの手をにぎって、その場から連れ出した。
背中に、かまびすしい
きゃはははっ!
という声と、
「ちぇっ。ざーんねん。」
という声がしたが、
(強引な
と思うあたしには、もうどうでも良い事だった。
あたしは、このワガママつまみ食い体型のせいで、時々、悪い
今日の岩人はましなほう。
自分の母親がいる場所で、戯れを言っただけだ。
人気のない路地、または、人が多すぎる祭りの時などは、人さらいが出る。
いかにも健康といった肌つや、郷においては珍しいふくよかな体型のあたしは、そういった人さらいの目に、
しかし、心底、危ないと思った事はない。
いつも、真比登や、
あたしの息抜きの、井戸での立ち話も、行きは一人でも、帰りは必ず、
「
あたしが、手をつないで前を歩く
「うん。」
と優しく微笑む。
岩人の甘い顔より、
(大好き。
* * *
真比登の屋敷に戻ってから、
小鳥売は、猛烈に
時々、
「
上目遣いで
(抱きしめてほしい。温もりを感じたい。)
「あたし、さみしい……。」
と、小さく言った。
こう言えば、
「さみしくない。
と言って、家族としてあたしを抱きしめてくれるのを知っているから。
予想通り、
温かい胸。
夏なので、ちょっと汗くさい。
でも、そんな
あたしの額に、
あたしは、
いつまでもこうしていたい。
(あたし……、あたし、多分……。)
多分、
でも、この想いは伝わらないのかな。
いつか、
あたしの事は、
あたし、十二歳だもんね……。まだ、
悔しいなあ。
早く、大人に、十六歳になりたいよ。
そんな事を考えていると、ぽんぽん、と背中をたたかれた。
離れなさい、という合図だ。
聞き分けの良い
「
想いをこめて、微笑む。
「うん、
頭をポンポンしてくれる。
「うん。」
あたしは頷き、
(もう大丈夫、心配しないで。)
と微笑む。
* * *
「おっ、この茹でた卵、
腕を上げたな? 小鳥売?」
母屋にて夕餉。
主である真比登は、にこにこ微笑みながら、機嫌良く食べてくれる。
「はいっ。」
あたしはにっこり笑って、右腕に力こぶを作ってみせる。……あまり盛り上がらないが。
ちなみに、あたしは二人の男に飯を盛り、水や浄酒で
真比登が、
「三人しかいないんだから、無理に食事の時間をずらす事もあるまい。一緒に食べよう。」
と言ってくれたからである。
真比登は、主としては、優しすぎるぐらいだった。
真比登があたしを見た。
「小鳥売、聞いてたと思うが、
「はい……。」
「昼間、男手がない時間帯は、オレの
「はい……。」
「小鳥売? 浮かない顔をしてるぞ?」
「……そんな事は。」
そこで
「何も心配いらない。全部うまく行く。オレが鎮兵となって、強い男となるのを、小鳥売は見守っていてくれ!」
「
あたしは心をしめる心配を吐き出すことにした。
「荒っぽい稽古もあるんでしょ? ひどい怪我をしないか、あたし、心配で……。」
* * *
「なんて可愛いんだ、オレの
と叫びたい衝動を、ぐっと息を呑み込んで耐えた。
(心配するな小鳥売。オレは真比登についていく。おまえを守れる強い
* * *
真比登は、
「大丈夫だ。心配いらない。」
としっかり言った。
(良く言ったな。それでこそ男。
それは小鳥売次第だ。
真比登はさみしくなるが、それで良い。
ここは、雛を守る巣だ。
真比登は、幼い時に拾った二人が、成長し、二人だけでも生きていけるようになるまで、ここで
それで良い。
真比登は明るく笑って、小鳥売を安心させるべく、
「
と言った。
(まあ、はじめっから、歓迎の輪はあるだろうけど。オレがそれなりに鍛えたから、
小鳥売が一瞬、冷ややかに真比登を見た。
(おや?)
真比登がちょっと嘘をついた事を、看破されたらしい。
* * *
小鳥売は見逃さなかった。
真比登が、
「はじめっから荒い稽古じゃないさ。」
と言った時、左眉がぴくぴくと動いた。心にない事を言う時の、真比登のクセである。
(嘘ね。あたしを安心させようと、嘘を言ってるわ。)
あたしは真比登を放っておいて、
心配は、胸から消えない。
でも、
だからあたしは、きちんと、言う。
「本当ね? ひどい怪我はしないでね?
応援してますから。
あたし達二人は、母刀自から捨てられた。
親父は捨てた。
だから、この言葉は、
「ああ、ありがとう。オレは頑張る。応援していてくれ。」
と満足そうに、男らしく笑った。
* * *
↓小鳥売。(以前描いた挿絵です。) https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16818093076214163789
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