第6話 KRONUS
「…待って、それは正気なの?」
「正気だよ」
驚く一哉に、小春は即答する。何せ、実際にそういった力があるのだ。そして、それを何度も役に立てたことがある。
「未来見るって何~?どんな感じ~?」
「えっと…ある時急に視界がぱっと消えて、そこから未来の風景が見える感じ…?説明するの難しいなぁ……」
そういえば、小春は未来視の才能<ギフト>について、具体的な説明をしたことはほとんどないのだった。
一体どのように説明すればいいのかと、迷ってしまう。
「だったらさ~、どんな感じか見せてくんね?」
「アホ」
「今アホって言ったね!?アホって言った方がアホなんだぞカズのアホ~!」
「自分だけが未来を見れるというのに、それを「見せる」っていうのは不可能でしょ。そんな事もわかんないの?」
「ぐぬぬ……でもそう言われてみればそうだ!見せられない!」
「……はぁ。でも、悠希の視点自体は、そんなに間違ったものじゃないかもね。
ほら、これから起こる事を予知して、それが本当に起こったものだとしたら、その未来視は本当だったっていうことになる」
「そうそれ!オレそれが言いたかったの!」
「さっき納得してたじゃん。それで…どうなのかな、白川小春さん」
小春の未来視は、任意で使うことが出来ない才能<ギフト>だ。
勝手に未来を予知し、勝手にそれに沿ったような出来事が起こる。
何も予知が起きないということは、つまり「予知するようなことが起きない」ということを意味する。
要は、予知のしようがないのだ。
そもそも、この力の正体自体も、小春は全く把握できていない。
一体、何故自分にそんな力が備わったのか、予知以外に何かできることはないのかと。
「どうしよう…私の予知って、すぐに出来るものじゃないんだけど…」
「別に君が嘘をついてるとか言ってるわけじゃない。ただ君の力がどこまで信頼できるものなのか、それをテストしたいっていうだけだ」
「そこまでだ一哉。あんまり意地悪してやることもないじゃないか」
張り詰めた空気の中、鶴の一声が事務所内に響く。
「でも……」
「新入りがなかなか信頼できないっていうのはわかるけどな。そういう意地悪は無しだ。…ただ、小春クンの方ももうちょっとちゃんと事情をすべきだな」
「は……はぁ。じ、実は。私の才能<ギフト>って、勝手に予知をしちゃうっていうだけで、予知がしたい時に出来るっていうわけじゃないんです」
「…なんだって?」
その言葉に反応したのは一哉の方だった。
「うん。だから、九条くんの言うような能力の使い方は、私には出来ない。…もっと好きな時に使えたらいいんだけどね」
「そういうわけだ。…本当は僕が誘導する前に言ってほしかったけどね」
「それにしても随分フベンだな~?勝手に予知来ちゃうんだろ?人と喋ってる時とかに来たら困らね?」
「正直…すごく困る……」
歩いている最中、何なら寝ている間だろうと、容赦なく予知が来る。
正直、人によっては気がおかしくなるんじゃないだろうかと、小春はこの力の恐ろしさを何度も体感させられている。
「まあ、この才能<ギフト>とかいうやつ自体が、そもそも正体不明だからな。確か70年前くらいに急に発現したとかじゃなかったか?」
「あー、なんか聞いたことあります。2025年に最初の才能<ギフト>発現者が現れて…みたいな話だったような」
「なら丁度ほぼ70年前だな。テレビか何かで見たんだったか?」
「華月さん。お言葉ですけど今時の人は「テレビ」なんて前時代の機械使いません」
「そうか。今はほとんど動画サイトだもんな」
テレビ、という単語に、確かに小春は聞き覚えがあまりなかった。
一哉の言う通り、前時代の人間が使うものという認識くらいしかなく、
仮に使うとしても動画サイトをデバイスの代わりに見る程度の使い道しかないという話は、どこかで聞いた覚えがある。
「いやー、時代って変わるものだね。僕が子供の頃はまだテレビ番組っていうのはもうちょっと一般的だった気がするんだが、今じゃ誰もテレビなんて見ないものな」
「どんなのやってたんですか。前も話した気がするんですが」
「ん、ニュース番組とか芸能人が喋るだけのバラエティ番組みたいなものだったよ。はっきり言って退屈だったけど、そういう退屈な番組を見る時間すら、何となく日常の一部と化していた感じでな……それなりに悪くなかったよ」
明らかに誰よりも年下にしか見えない華月が、何十年も前の事を回顧している様子に、小春はなんだか不思議なものを見ているような気分になった。
「なんか変なもの見てるみたいな気分みたいだけど、慣れなね」
「…うん、何とか頑張って慣れる……」
「それで、どうするんだい?何もすぐ答えを出してくれなくてもいいけどね。僕は出来るだけ待つよ?10年後とか言われたら待てないかもしれないけど」
「…では、働かせてください!最初は大したこと、出来ないかもしれませんけど……」
いつぞやの予知の内容も、小春の中には引っかかっていたのだ。
何せ、倒れている影の中には、一哉や悠希によく似た姿もあった。
もしかすれば、この探偵社そのものが全滅するかもしれない。そんな悲劇を、予知してしまっていた。
「あとで、紬さんにも伝えておいてください。そういえば、紬さんは今日来てないんですか?」
「確かもうすぐ来る頃じゃなかったか?もし来ないなら連絡してくるが」
「いえ、大丈夫です。それだけ聞けたら良かったので……」
などと話をしていると、ガチャリと事務所のドアが開け放たれる。
そこに現れたのは、黒髪で少し背の高い少女。久遠寺紬の姿が、そこにはあった。
「突然だが紬。白川小春クンが新入りでお仲間になった」
「行動早いですね……!?って。今日はそういや全員揃ってるのか」
「ちなみに迷子になってたから拾って来た。紬の知り合いなら何とかしてよ」
「何とかしてよって言われても、その時多分私家だろうし……。というか、もしかして小春さんって結構方向音痴…?」
「…はい。そんな所、です……」
白川小春にとっての新たな日々が、ようやく始まりを告げたのだった。
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