桃太郎
とある山奥に、夫婦が二人で住んでいた。雪が溶けゆく三月三日、二人の間に子供が産まれた。二人は子どもの虜になり『桃太郎』という名前をつけた。二人は桃太郎を可愛がり、立派に育てた。桃太郎は毎日綺麗な服を着て、整えられた山でたくさん遊んだ。桃太郎は毎日たくさんご飯を食べた。お米も野菜もお肉もたくさん食べた。おばあさんのきびだんごは桃太郎の大好物だった。桃太郎はすくすく育っていった。桃太郎はとても力が強かった。とってもとっても強かった。桃太郎は足も早かった。川の流れより早かった。桃太郎は動いても動いても疲れなかった。桃太郎は木上りが得意だった。雲に触るような木もあっという間に登ってしまった。夫婦はとても喜んだ。農業をする時も狩りをする時も薪を作る時も木の上の果物を取る時も、桃太郎は夫婦を手伝った。夫婦はとても喜んだ。
ある日、その地域で大雨が降った。前が見えないほどざあざあ降りだった。風も強く、外に出るには危険だった。だが、男が一人家を訪ねてきた。息を切らしていたので、雨宿りにでも入ってきたかと思えば、家が流されてしまうと言って避難してきたようだった。山を降りると村があるのだが、この大雨が危険だというのだ。桃太郎は家を飛び出した。夫婦は桃太郎が何をするのか訊きたかったが、自分の声も聞き取れない程雨が降っているものだから、無駄だと思った。夫婦は桃太郎の心配をしながら、男を暖炉の近くに座らせた。
桃太郎はすごい速さで山を降った。桃太郎は目が良かった。前に見える木や岩を避けて降った。桃太郎の体には無数の雨が打ちつけた。桃太郎は強かった。痛む素ぶりも見せず、山を降った。桃太郎はみるみる速くなり、桃太郎の周りには風が生まれた。その風に乗り桃太郎は大きく飛んだのだ。四肢を広げ風に押された。次に地に足をつけた時、そこに村があった。倒木や丸くなった岩が今にも村を襲いそうだった。村人たちは家の中で怯えていた。桃太郎は自慢の力を発揮して見せた。
次の朝、雲はひとつもなくなっていた。朝日が差し込んだのを見て村人たちは安心した。喜んだ村人たちは玄関の外に出て驚いた。村人たちは自分たちの村があった土地を山の上から眺めていたのだ。その土地に家は一軒も見当たらず、散らかった木や岩や泥で埋め尽くされていた。桃太郎のおかげで村は救われたのだ。
桃太郎(人間と鬼) ちゅ @tyu_185
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。桃太郎(人間と鬼)の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
近況ノート
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます