3
翌日、ケンゴの号令でクラスメイトの大半が公園へと集められた。十数人の子供達の前に立つのはケンゴとジロウ、マサ、アツシ。こういった場面においてはケンゴが主役であるのが決まりだったが、今日は違う。皆の中心に立つのはアツシだった。
「俺達は昨日、K御殿の中を探検した!」
ケンゴが言うと、観衆は騒然となった。中には門の外から中を覗いた者もいただろうが、中に入った者はいないはずだ。これだけでも相当な衝撃である。
「そして、このアツシが、屋敷の中でお化けを見た!」
「アツシが?」
「嘘だろ?」
「あのビビりが?」
先ほど以上に大きなざわめきが広がる。
「なあケンゴ、それ本当かよ」
「本当だ。よし、アツシ、お前が見たものを皆に教えてやれ!」
「う、うん」
興奮と緊張に顔を引きつらせながら、アツシは話始めた。
「ぼ、僕は二階の部屋で、女の人の幽霊を……、見た!」
さらに大きなざわめきが空気を揺らす。
「女の幽霊だって?」
「おい、出るってのは男の幽霊だろ?」
「おいアツシ、嘘吐いてんじゃねえぞ!」
誰かか叫んだ。
「嘘じゃない! 俺達もその場にいたんだぞ!」
ケンゴが叫び返す。
「ケンゴ、お前も見たのかよ?」
「見てない。俺は書斎に行ったが、何もいなかった」
「じゃあアツシが嘘吐いてるかも知れないじゃんか」
「俺はアツシを信じる!」
公園中に響き渡る大声で、ケンゴははっきりと言った。
「俺も信じる」
「俺も」
ジロウとマサも声を上げた。
何だかとても嬉しくて、アツシは目頭が熱くなるのを感じた。「ビビり、ビビり」といつも馬鹿にしてきた三人が、今自分を支持してくれている。こんな光景は、つい昨日の夕方までは考えられない事だった。
「なあアツシ、お化けの顔は見たのか? どんなんだった?」
「顔は……、見えなかった」
「なあんだ」と不満の声がぽつぽつと上がる。
それでも、皆のアツシに対する評価は百八十度変わった。
それ以降、アツシが「ビビり」と呼ばれる事はなくなった。むしろケンゴ達三人と共に、クラスの中心的存在になった。周りからの扱いが変わった事で、アツシ自身の気持ちにも変化が現れた。まず自信がついた事で、自分の意見をはっきり言えるようになった。また、時には先頭に立って行動する事も怖くなくなった。
しかし、根っ子から変わったわけではない。幽霊や怪物等に対しては、以前よりも強い恐怖を感じるようになった。それも仕方ない。本当に、お化けを見たのだから。
アツシは誰にも内緒で心に誓った事があった。
自分自身はもちろん、自分に子供が出来たとしても、決してあの屋敷には近寄らない、近寄らせないという事だ。今回、お化けは見たものの、特に危害を加えられる事はなかった。何か呪いを受けた様子もないし、全くもってついていたと言えるだろう。しかし、よく言うではないか「お化けは末代まで祟る」と。
自分が平気でも、自分の子供まで大丈夫かはわからない。
だから決して、自分の子供にはあの屋敷には近寄らせない。
きつくきつく言い聞かせねば、どんな不幸が起こるかわからないのだから……。
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