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『現在、SNS上でちょっと話題となっている『怪談』がある。
先月K県S市でYくん(十一歳)が行方不明となり、その後無事保護された、という事件を覚えているだろうか。その怪談の舞台となるのは、Yくんが行方不明になったとされる屋敷だ。その屋敷は以前から、地元では有名な『お化け屋敷』だそうで、Yくんもその日、友達数人と肝試しに忍び込んでいたらしい。さて、そのお化け屋敷にまつわる噂話だが、調べてみるとどうやら3パターン存在しているようだ。
まず一つ目、これが一番オーソドックスな話のようである。今から三十年程昔、その屋敷には金持ちの夫婦が住んでいた。しかし、事業が失敗し夫は自殺。妻もその後を追って首を吊った。その妻の怨念が霊となって現れる、というものだ。しかし、どうやらこの話は後述する二つ目のパターンとは違って、何の根拠も出典もないようである。
二つ目。これは実際にあった事件を元にした話で、実は一つ目の噂よりも昔から存在しているようだ。今から五十年ほど前──19**年、その屋敷にはSの前社長であるK氏が住んでいた。ある日、社長の雑用係のような事をしていた男性が書斎で謎の自殺。以来、その男性の幽霊が現れる。というものである。この男性の自殺は新聞にも書かれており、一番信憑性の高い噂と言えるだろう。
そして三つ目。これは、正直なところ一番馬鹿らしい内容である。先月行方不明となり無事保護された少年は実は殺されており、その霊が現れる、というのである。実際、少年は報道通り無事に保護されており、筆者が独自のルートで調べたところ、今ではすっかり元気になって学校へもきちんと通っているそうだ。しかし、噂はこう語る。少年を殺したのは某有名政治家の息子であり、それを隠蔽する為に両親へは多額の口止め料を払い、よく似た子供を替え玉に登校させている、というのである。全くもって、馬鹿馬鹿しいの一言ではあるが、このような話がネット上では少なからず支持を得ているのである。もし、この噂を当人であるYくんが見たらどう思うだろうか? ここにネット社会の恐ろしさがあるのではと筆者は考える。』云々。
長々と、こんなくだらない文章がネットニュースにアップされた。
記事は拡散され「『Yくんが見たらどう思うだろうか?』ってお前が広めてんじゃねえか」「これは悪質な売名」「馬鹿らしい馬鹿らしいって、お前の記事が一番馬鹿らしい」と、案の定記者は批判の的とされた。批判を受けて、記事は翌日には削除されたが、すでにコピーされた記事はネットで拡散され続けた。
裕也は、いつ自分の名前が書き込まれるかと怯えながら、この騒動の行く末を見守った。今のところ、自分と啓介の名前は何処にも見られない。だからと言って、安心は出来ないが……。
ふと、あの行方不明になった子供の事が心配になった。
啓介も言っていたし記事にも書かれていたが、この噂はその子の耳にも届いてしまっているのだろうか? 本人でなくても、周りの子供に伝わってはいないだろうか?
自分が広めたのではないとはいえ、自分がキヨに話さなければこんな事にはならなかったはずだ。
今更、自分に出来る事は何もない。
ただ、これを原因に子供が虐められない事を祈るばかりだった。
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