5
「絶対に行くなって言っただろう!」
僕が家に帰るとすぐお父さんが帰ってきた。そして開口一番、僕を怒鳴りつけた。
「ごめんなさい」
叩かれるかと思って身を竦めたが、お父さんは手をあげることはしなかった。
「どうして行ったんだ? どうして……」
「ごめんなさい……」
もはや謝るしかなかった。他に言葉もない。
「ハルカ、ユウキ君は? どうなんだ?」
「これから警察が捜しに行くって。もう、向かってると思う」
「そうか……」
お父さんはそれ以上は何も訊かず、リビングの椅子に座ってうつむいてしまった。
「タクミ……、今日は早く寝なさい」
「でも……」
「でもじゃない。お父さんだってもっと叱ってやりたいが……、まずは、ユウキ君が無事見つかるのを待つしかないだろう」
「アツシさん、実家には、明日は行けないって電話しておくわね」
「ああ……、そうだな」
「理由は? 何て言おう?」
「本当の事はちょっと……、都合が悪くなったと、誤魔化すしかないだろう」
「そうよね……。わかった、任せて」
「頼んだ」
「あ、そうだ、ご飯は出来てるから、二人とも自分でよそって食べて」
「わかった。タクミ。ご飯食べたらすぐ寝なさい。話は明日だ」
「うん……」
僕はキッチンへ向かった。食欲なんてなかったが、せめて言われた通りにするしか、今の僕には出来ないと思った。
翌日。朝になってもユウキが見つかったという知らせは来なかった。
警察は屋敷の中を隈無く捜したそうだが、ユウキの姿はなかったらしい。
夕方、ニュースでこの事件が取り上げられていた。それをテレビで見て、僕は改めて、自分がしてしまった事の重大さに震えた。
『昨日午後六時頃、K県S市、井上裕樹くん十一歳が、友達と遊びに出た帰りに、行方がわからなくなりました。警察の調べによりますと、裕樹君は、友達三人と近所の空き家に忍び込み、その後、行方がわからなくなった模様です。一緒にいた友人は「中に誰かがいた」と話しているとの情報があり、警察は誘拐の可能性もあるとみて捜査しています──』
誘拐の可能性──?
その言葉に僕は少しだけ驚いた。考えてもいなかったからだ。
なるほど、確かに僕らが見た(見たと思った)のがお化けでないとしたら、もしそれが人間だったとしたら、その人間がユウキを誘拐した可能性はあるかも知れない。
(でも……)
でも、あれはやっぱりお化けだったんじゃないだろうか。
確たる理由は何もなかったけれど、僕はその可能性をどうしても否定できなかった。
もし、扉が開いたのが寝室の方であれば、きっと僕もお化けじゃなくて誰か人間だったのだと思っただろう。なぜなら、寝室から女の人の霊が出てくるという噂は嘘なのだから。でも、あの時開くのを見たのは書斎の扉だった。即ちお化けの仕業である、と言えないことはもちろんよくわかっている。それでも僕は──、あれは、お化けの仕業だった気がしてならなかった。
じゃあユウキは?
ユウキは、お化けに連れ去られたのだろうか?
ユウキは今どうしているんだろう?
ユウキは……。
僕はソファの隅っこに座って小さくなっていた。
お父さんは警察に呼ばれて出て行った。
お母さんはソファの反対側の隅に座って、携帯端末をいじっていた。たぶん、他のお母さん達と連絡を取っているんだろう。
あの時、僕が怖がらず「探しに行こう」と言っていたら、こんな事にはならなかったのだろうか。シンゴに「探しに行こう」と言っていれば……。僕は……。
ユウキが見つかったという連絡が入ったのは、八月十八日の昼過ぎの事だった。
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