第18話 燻製
それと解体作業は、まだ終わっていなかった。
僕は〈アワ〉に言われるまま、あばら骨を一本ずつ切り分けていく。
骨の周りの肉をつけたままでだ。
骨付きカルビってことだな。
それから何本かの木を組み合わせて、肉や皮を燻(いぶ)すための、支えを作った。
〈アワ〉の話では、燻製(くんせい)まではいなくなくても、燻すことによって腐ることが抑えられるらしい。
木にロープを括(くく)りつけて、肉とかを焚火の上で燻す訳だが、上手く吊(つ)るせないで、試行錯誤を余儀(よぎ)なくされた。
〈アワ〉もブツブツと言いながら作業をしていたのは、やり方を良く知らないからだろう。
かなりの時間が、この作業に費(つい)やされたと思う。
何とか完成して焚火を燃やせば、白い煙が幾筋(いくすじ)も肉と皮へと立ち昇っている。
でも不思議なことがある。
この部屋はとても大きな部屋だけど、これだけ煙が出ているのに、一向に煙が部屋に充満しないぞ。
それどころか、煙臭さもあまりしない。
「おっ、この部屋はどこかに換気装置があるんだな」
「えっ、換気装置って何のこと」
「〈アワ〉それは。部屋の天井とかに、煙を逃がして空気を入れ替える場所があるんじゃないかって事だよ」
「へぇー、見上げてもそんなのは見えないけど、確かに煙は天井に溜まっていないわね。ほんと不思議な部屋ね」
不思議な部屋か。
不思議と言えば、床が綺麗になっているな。
寝る前には、そんなに綺麗になっていなかったはずなのに、今はもう汚れが何もない。
濡れていたはずなのに、こんなにも早く乾くものなのか。
順調に燻すことが出来るようになったからか、〈アワ〉がまた泉で身体を洗いたいと言ってきた。〈アワ〉は本当に泉で、身体を洗うのが好きだな。
〈アワ〉と言うより、女の子は皆、綺麗好きなんだろう。
泉のそばで服を脱ぎながら、つい考えてしまう。
冷静に考えてみれば、〈アワ〉は真っ裸で、僕の直ぐ後ろにいるんだ。
これはどう言う状況なんだろう。
〈アワ〉が身体を洗う音が聞こえてきて、僕はちょっと困った状況になってしまう。
食欲が満たされて、命の危険が一時的になくなったから、新たな欲望が生じてしまったらしい。
でも〈アワ〉は病気で、しかも感染症なんだ。
しかも会ってから、まだ数日しか経っていないんだ。
友達と言えるかも怪しい関係だし、僕と〈アワ〉はどう言う関係なんだろうな。
泉から帰ってから、皮についている肉を食べることになった。
綺麗に身を剥がすことが出来なかったし、肉がついたままでは革へ加工が出来ないってことらしい。
出来るだけ食糧を持たすため、食べられるものは全て食べようってことだろう。
「皮をなめす一番原始的な方法は、噛むことらしいので、これは一石二鳥なんですよ」
〈らしい〉って、いい加減だな。
でもまあ、皮にはまだ肉や脂肪が沢山ついているし、燻されて少し燻製的にもなっているから良いか。
ちょっとベーコン的な味に変わっているのが、結構いける感じだ。
◇◇◇◇◇◇ 〈アワ〉の視点 ◇◇◇◇◇◇
ぐっすり眠れたんだろう、目覚めはスッキリとしたものだった。
病気にかかってから、こんなに気分が良いのは初めてだよ。
〈はがと〉が何か変な動きをしているのは、とても気分が良いから身体を動かしたいんだろうな。
私はそんな変な動きはしたくはないけど、少しだけ分かる気もする。
朝食は、心臓と肝臓を食べることにした。
内臓は早く食べる必要があるし、栄養もすごく豊富なんだよ。
〈はがと〉にそう言ったんだけど、張り合いのないことに反応がかなり薄い。
まあ、言うことは聞く〈はがと〉だから食べるんだけど、肝臓を食べている顔を見て笑いが堪(こら)えられなくなってしまう。
どこかで見たような顔だと思ったら、隣に住んでいた小さな男の子がお母さんに怒られて、野菜を食べていた顔とそっくりそのままだったんだ。
短い人生で最悪の日みたいな顔をするのは、もはや卑怯(ひきょう)だと思う。
ご飯を食べた後は、解体の続きだ。
処理を終えるまでに三日かかったな。
〈はがと〉へ指示を出して、あばら骨を一本ずつ切り分けていく。
骨付きの方が美味しくって、焼く時にも食べる時にも便利だ。
それと大切な燻製造りだ。
だけど、煙を囲うための箱的な物がないから、少し燻すだけで我慢しよう。
何もしないよりは、うんと良いはずだ。
〈はがと〉と苦労しながら木を組み合わせて、何とか肉と皮を吊るすことが出来た。
焚火をその下ですれば、煙が良い具合に上がっていってくれた。
その時突然に、「おっ、この部屋はどこかに換気装置があるんだな」と〈はがと〉が呟(つぶや)いた。
「えっ、換気装置って何のこと」
私は何のことか分からなかったから、〈はがと〉へ聞いてみる。
「〈アワ〉それは。部屋の天井とかに、煙を逃がして空気を入れ替える場所があるんじゃないかって事だよ」
「へぇー、見上げてもそんなのは見えないけど、確かに煙は天井に溜まっていないわね。ほんと不思議な部屋ね」
んー、〈はがと〉も不思議だけど、この部屋もほんと不思議な部屋だな。
でも煙を逃がすことは普通の家でも常識だから、勝手に開く扉と比べたらどうってことはないよ。
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