第6話

「よし!とりあえずオプションの設定は終わった。これでいつでも配信来ても大丈夫だよ」

 俺は新作ゲームのワクワクに気分を高揚させながら母さんに声をかける。

「うん。ユウキ。配信の準備も出来たわ。

こっちのモニターを見て、そこに配信画面が写っているわ」

 その画面には圧倒的に可愛い16歳ぐらいの女の子。綺羅星カレンが3Dモデルで動いていた。

 その表情は母さんの表情とリンクしていて、技術の進歩って凄いと改めて思ってしまう。

「こっちの画面にはコメントが流れるわ」

「わかった」

「じゃあ、始めるね。これが終わったら晩御飯作るから待っててね。今晩はユウキの好きなハンバーグよ♡」

 母さんは可愛らしくウインクをして、配信開始のボタンを押した。

「みなさーん。こんにちー!綺羅星カレンです!今日は20年以上続く大人気ゲーム。ナイトメア·オブ·ザ·リビングハザードの最新作の体験版の紹介実況をプレイしたいと思います」

 母さんは慣れた様子で配信をしている。

ハキハキ喋っていて、普段の少しおっとりした感じではなく、プレゼンをしているようだった。母さんもなんだかんだ大人なんだなと心のなかで思ってしまう。

「実はこの体験版!まだ配信されていません!ちょうど今から24時間後に配信されます!じゃあ、何で今、私がプレイできているか?フッフッフ。実はなんと今回、このゲームのタイアップソングを私が歌う事になりました!」

えっ!?

 母さん、そんな事やっているの?

ってか、まあ、よくある日本限定の謎タイアップだよな。全世界で人気なゲームでそんな……

「しかも、なんと!この主題歌!全世界共通です!いやー、カレンも世界デビューしちゃいます!」

 ファー!

 一体何を考えているんだ!母さん!

いや!ゲーム会社の偉い人!こんな正体が人妻な母さんが年齢隠してアイドルVtuberなんていうめちゃくちゃな人に何オファーしているんだ!

「いやぁ~。世界デビューって事で、今回の楽曲は全部アメリカ語で歌ったんだけど。発音が難しくて舌噛みそうでしたねぇ」

 母さん!アメリカ語じゃなくて、英語!

コメント欄見て!

めちゃくちゃ突っ込まれているから!

「ちなみに歌詞は全部パパが書いてくれたんだけど、韻を踏みまくっていてめちゃくちゃカッコいいから是非聴いてみてください!じゃあ、ゲームスタートしちゃいます!」

 その言葉と同時に俺はゲームをスタートする。

 ふむ、今回の話は巨大な都市にバイオテロが起きて街中に生物兵器とゾンビが溢れかえった展開で新人警察官が恋人を探す感じか……

 そんなこんなで初戦闘。

俺は黙ってゾンビの頭に初期装備のハンドガンでヘッドショットを打ち込み、怯んだ隙に近接戦闘で追い討ちをかける。

 体験版とはいえ、弾は温存したい。

 コメント欄を見ると『ゲームの基本わかってて偉い!』みたいなコメントが流れて来ている。

 いや、そんなゲームで褒められても……と思いながら、

「いやぁ〜結構難しいねえ」と母さんは返事をしている。

 こなれているなぁ……

 そう思っていると画面をふと見ると……

 ってマ!?

いきなりゾンビ6体来たぞ!

 俺はまだチュートリアルだというのにラッシュがきて騒然とする。

どこかに弾があるのか?いや、これは逃げるのが選択肢……

ってドアが開かねえ!このゲームの難易度!ミスってるよ!通りで1時間も母さんが序盤で詰んでたわけだ!

 俺は敵にハンドガンで応戦するも、すぐさま弾が切れる。

 「あわあわ、弾がなくなっちゃったよ〜。パパ〜助けてぇ〜!」

と母さんは自分ごとのように慌てて焦っていた。

 いや、ゲームに父さんは助けに来ないから!

と心のなかでツッコミを入れる。

 いや、それでもムズい!俺はナイフでゾンビに攻撃を当てるも数の暴力には勝てない。体力ゲージがガンガン削れていった。

 クソっ、やられ……

 その瞬間、ムービーが挟まり、塞がれていたドアが蹴破られ、『大丈夫か?』

とイケボでカッコいい人物が現れ、マシンガンでゾンビたちを一掃してくれた。

 なるほど、ピンチ演出だったってわけか……

 ヒヤヒヤしたぜ……

 ガチガチのピンチに助けてくれるカッコいいキャラ……このキャラは人気出そうだな……

「少し、怪我しているな。待ってろ。回復薬がある。これを使え、弾も少ないが持って行くといい。俺はこいつしかないから9ミリ弾があっても意味がないんだ」

 カッコいいキャラはマシンガンを触り、アイテムを渡してきた。

 ははーん。チュートリアルも兼ねているな。銃に合わせて弾も違う。それを世界観を崩さず教えてくれている。回復薬と弾もくれているし、ここまでがチュートリアルだったってわけか……。

だが…… 

なんかこの声、めちゃくちゃ聞き覚えがある……それにこのキャラなんか似ているな……

「きゃー!♡パパー!カッコいいー!」

ん?

「はい!実は今回のゲームで私のパパこと、綺羅星アキラもこのゲームに参加しています!声優初挑戦です。拍手〜!それにキャラデザもパパに似せてくれてます!パチパチパチ〜」

……

 うわー!!!!!

なんかめちゃくちゃ炎上しそうな案件になってるううううう!!!!!



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