第4話
俺は同じ階にある自販機まで行って何を飲むかと悩む。
あんな話を聞いているとむず痒いからなぁ……
皆は母さんと父さんを凄い何かと思っているようだが、それは違うと家で見ていて実感している。
母さんは年齢を気にせずお茶目だし、たまに皿を割ってドジな所もある。
それに毎日料理の献立に悩んでいるし、寝坊だってする。
父さんが体を鍛えているのは俺が5歳の頃に高い高いをねだって、やってもらった時にぎっくり腰になってしまって、俺を落としてしまってケガをさせてしまったからだ。
もう、あの頃の記憶はほとんどないが、そこから身体を鍛え始めたのは覚えている。
母さんも父さんも人の子。なんでも出来るわけではない。
画面に映る家族とのギャップがとても奇妙な感じがした。
「これでいいか」
俺は微糖の缶コーヒーのボタンを押す。
すると突然、後ろから綺麗な声が聞こえてきた。
「木村くんはYouTuberとか興味ないの?」
その声を聞き逃すはずはない。
振り返ると白金アスカさんが立っていた。
その白銀のような髪が5月の風でなびくと流れ星のようにキラリと輝く。
その瞳はぱちくりと俺の瞳を見つめていて、太陽を見てしまったような感覚になる。
ってか、ファ!?なんで彼女が声をかけてきたんだ!
いや、冷静になれ!俺!こんなにうろたえてたら気持ち悪がられるぞ!
と心の中で高速詠唱し、
「興味って?」と冷静な声色で返した。
「うん、みんなが盛り上がっているなか、興味がなさそうにしてたから」
俺は自販機からどくと、白金さんも自販機にお金を入れてジュースを買っていた。
「YouTuberに興味がないわけじゃないよ。面白い動画は好きだし、インム実況とかよくみるよ」
「へえ。そうなの。大抵の人は彼女たちの音楽を聴いたら夢中になるのに……
木村君も音楽やっているなら彼女たちの音楽は聴いた方がいいよ」
「そんなに?」
ってか、白銀さん、俺がギターとかやっているの知っていたのか!
と心の中でドキドキしてくる。
「うん。嫉妬してしまうぐらいにね……」
白銀さんは聞き取れないほど小さな声でボソリと呟いた。
その時の表情は憧れと羨望と、ほんの少しの妬みの色が見えていた。
「魂を揺さぶるって言ったらいいのかな?彼女たちの音楽にはそれがある。知っている?綺羅星カレンが音楽を投稿する時、複数曲を連続投稿するの。まるでコンセプトアルバムみたいにね。今どきそんな作り方しているアーティストは少ないわ。でもどの楽曲もハイレベル。入口を覗いてしまったら、奥へ奥へと飲み込まれていって、最後は電撃に撃たれるような衝撃。それをインターネットという媒体で出来ているのが本当に凄いの……しかも、新人で……」
今どきの若い人じゃないからなぁ……
そう俺は心の中でツッコミを入れてしまう。
その時、昼休憩の終わりのチャイムが静かに鳴った。
「あっ、ごめんね。話し込んじゃって、授業が始まっちゃうから、いこっ」
「うん、そうだね」
俺は白銀アスカさんと話すという非日常から普段の退屈な日常へと潜っていった。
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