第3話


「あら?三浦さん!お話が耳に入ってしまったのですが、あなたもカレン様のファンでして?」

と近くにいた中原るりなさんが声をかけてきた。

……

えっ!?急にどうした……あんまり俺らと接点なかったよね……

と心の中で呟く。

「そうだゾ〜。可愛くて最強アイドルで、それで庶民的&家庭的でこんなの惚れない男はいないゾ〜」

「ええ!こんなパーフェクトな方はそうそういませんわ!だけど!カレン様を語る上で忘れている事がなくて!?そう!アキラ様の事を!」

 ファっ!?こいつ!俺の父親のファンだ!

 と心の中で食べていた物を全て吐き出してしまった。

「あ、アキラ様?男の配信者はあまり知らないなぁ……」

と俺はそろそろ話題はやめてくれ……と言わんばかりに話を逸らす。

「遅れているなぁユウキは。男の中の漢!男も惚れるYouTuber。綺羅星アキラの事を知らないのかゾ?」

と三浦はノリノリで俺に布教してきた。

「あれ?今、綺羅星カレンって人の話だったよね?なんで別の人が……」

「別の人なんかじゃありませんわ!」

とるりなさんは食い入るように話を割って入ってきた。

「そう!この方は綺羅星カレン様のお父様!ハイレベルなギターテクニックにその音楽性で数多くのファンを獲得してきたYouTuber!昨今の音楽シーンは歌詞を重視されている中、ハイセンスな音楽性!そして演奏テクニックで時代を切り開くその姿に私も惚れてしまいましたの!」

「へえ……」

「中でも技術力が凄いと言われているのがトレモロアームの使い方ですわ!本来であれば音をビブラートの様に揺らすのが本来の使い方!しかし、アキラ様はその音域を完璧に使いこなし、アームだけで演奏するのですわ!これはギターを完璧に理解している人しかできない超高等テクニック!」

「はぁ……」

「そして、その音楽性も80年代から90年代を思わせるレトロフューチャー感!それに合わせたカレン様のパワフルかつ!繊細な美声が唯一無二!一度聴けば離れられない!何より作詞作曲編曲まで二人でやっている所!それに実際に生で演奏をして音楽を作っていますの!ちまたのアイドルたちは他人が作った楽曲であたかもアーティストを気取っている人たちもいますが!彼らは違う!音楽というものに真摯に向き合い!それをファンに向けて作っている!それに昨今のDTMやオートチューンに頼った……」

(クソっ!この女!めんどくせぇ!)

と心の中で強火な音楽性を持つ彼女の言葉をスルーしながら水筒のお茶を入れて飲む。

 三浦も田所も下を向いてお茶を飲んでいた。

 しかし、るりなさんの猛攻は止まらない。

「それに、音楽性だけではありませんわ!筋トレ配信では初老を感じさせない!あのワイルドなシックスパック!昨今のナヨナヨしたホストみてえなメスオス売りのキャラじゃなくて、ワイルドさを売りにしたあのイケオジ!」

 父さん……なんて濃いファンを作り出しているんだ……

 さっきまでのお嬢様口調がだんだんと崩れていって、なんかめんどくさい感じの口調に変化してきている。

「確かに、アキラの筋肉は男も惚れるゾ!」

 三浦!話に乗るなぁ!

「男性から見てもそう思われますの?」

「もちろんだゾ!空手部として運動をしていた経験のある俺ならあの肉体は尋常な努力じゃできないってわかるゾ」

 三浦はうんうんと頷く。

「もっと教えてくれよなぁ。頼むよ〜どれがオススメだぁ?」

と田所も話に乗ってきた。

 なんだよこの地獄は……

 俺はまるで空気になるかのように席を立ち、「コーヒー買ってくる」と言って離れた。

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