第2話

 高校生としての勉学を終え、昼食からの昼休み。

(ふう……数学の教科は頭が痛くなるぜ……)

 そう思いながら、弁当を取り出す。

 この私立英愛卓家高等学校には学食もあるが、うちの母親は『息子にはママの手料理を食べさせたい!』というタイプの母親なので毎日作ってくれるのだ。

まあ、たまに仕事で忙しくて、作れなかった時は学食代をくれるが、その時はその時で暖かい食事にありつける。

「おっ、今日も弁当なのかゾ。じゃあ、一緒に食うゾ〜」

「おっすおっす、じゃけん飯食いましょうね」

と三浦と田所が声をかけてきた。

三浦と田所も弁当派だ。

三浦は良いところのお坊ちゃまでお手伝いさんが飯を作ってくれるらしく、田所は「家庭的な男子は男子の特権!」

とわけわからないギャグを言って、自身で料理をして作っている。

 俺も「ああ」と言って弁当を広げた。

 中身は豚の生姜焼きにミニトマト。茹でたブロッコリーに鶏の唐揚げ(モチコチキン)だ。

モチコチキンはハワイ料理。

男が好きなメニューの中に野菜も混ぜている&ちょっと変わったメニューを入れる俺の母親らしい品だ。

「おおっ、美味そうだなユウキの弁当。色とりどりで健康的な感じがするゾ。それになんか珍しそうな料理入っているな。唐揚げだけどちょっと衣が見たことないゾ」

「はえ〜すっごい……なにこれ」

「モチコチキンだよ。ハワイ料理で衣が餅粉なんだよ。それで少し甘めの唐揚げになるんだ。」

「はえ〜。手間がかかってそうだな。面白そう。こんど教えてくれよな〜頼むよ〜」

と田所が俺に言ってくる。

「俺の母さんに今度聞いて……」

「モチコチキンか……所でそれ、この前みた綺羅星カレンちゃんが作ってた弁当そっくりだゾ」

 ファッ!?

と俺はこころの中で驚愕の声をあげる。

「だ、誰だよ。その人は……」

「流行に遅れているなぁ、ユウキは。ほれみろ、大人気アイドルVtuber綺羅星カレンちゃん」

そう言いながら三浦は俺にスマホを見せていた。

 そこには圧倒的美少女イラストがにこやかに微笑んでいる。

うん、うちの母親だ……

そして、動画のタイトルには

 『好きなあの人を射止める♡オススメお弁当メニュー♡男の胃袋はこう掴め!唐揚げ編』

というクソダサタイトルが書いてあった。

「へえ……可愛いね。Vチューバーってやつ?」

「そうだゾ〜。歌にダンスがメインだけど、料理配信とか雑談配信。ときたま、いざというときの護身術みたいな色々な配信をしているゾ。それで、この動画ではおすすめ唐揚げメニューとしてモチコチキンがあったんだゾ〜ほれ、みてみ」

そう言われ、俺はスマホの画面を覗き込む。

 ……

『リスナーのみなさーん。おはようございまーす!今日、作るのは男の胃袋を掴む愛妻弁当!王道を往く唐揚げ編!男の子は何歳になっても唐揚げが大好き♡

完成形はこれになりまーす。

それでは作り方を……

ってパパー。これはお弁当だからつまみ食いしちゃダメー!ってカレンの出来立て食べられないのは辛い?って♡♡♡だーめ。これはお弁当用に味付けを濃くしているから……』

……

 くっそ!母さんが俺の弁当を作る所を動画配信してやがる!

 ってか奥に写っているの今の俺の弁当じゃねーか!

ってか夫婦のイチャイチャ動画じゃねえか!

ってコメント欄が親子で尊い……

なんて出来た娘だ……

 娘さんお父さんを私にください……

ってなんだよ!ちげえよ!二人は夫婦だよ!

 と心の中で冷や汗をかいている。

 ちなみに親子と思われているのを二人は『これで身バレを回避できるね!』

と言って、そう受け止められている事を肯定している。

「すっごい女子力。これはモテるってはっきりわかんだね。ってか次の動画のアジの南蛮漬けとかアイドルが作る料理じゃないな」

「家庭的な所もカレンちゃんの魅力だゾ〜」

 俺とは心情に逆らうように、三浦はカレンちゃんを田所に布教している。

 何なんだよ。この地獄は!

 ってか、まあ、うちの母親。料理が得意なタイプの母親だけどさぁ!

「ってか、そっくりだな……ユウキの弁当の中身と……」

 ファッ!?なんでこの田所はへんな所で鼻が利くんだ!

「そりゃ、ちゃんと細かく作り方も載っているからな。もしかしたら。ユウキのお母様もカレンちゃんの動画を見て作ってるのかもしれないゾ。カレンちゃん頻繁にお料理動画出していて、メニューに困った主婦や一人暮らしの学生。はては高齢者の人も見ているから、よくある話だゾ」

 よかった……セーフ……

「はえ〜三浦〜。この動画のリンク俺にも送ってくれよなぁ〜頼むよ〜。この料理を学んで俺も好きなあの子の胃袋を掴む男子になりてぇなぁ。って事で頼むよ〜」

 ……

クソ!俺の母親が完全に布教されてしまった!

 と俺は弁当を急いでかきこんだ。

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