第63話 勝負の結果
「あ、ジューダスさんじゃないですか」
「ジューダスも来たか! どうだ、この俺が取った獲物の大きさは! 見ろ、ユーリが狩って来たキバイノシシよりも五センチは大きいぞ!」
「三メートルもあるんだから誤差みたいなもんだけどな」
「だが勝ちは勝ちだぜユーリ!」
森人族の国にほど近い森の中で、グラニとの狩猟勝負をしていたところ、狩ってきた大型の魔物の採寸中にジューダスさんがやって来た。
「おうおう、仲良くしてるみたいだな」
「喧嘩するよりはいいですからね」
最初に目に留まったグラニの方に手振りで挨拶をした後に、今度は俺の方に顔を向けて声をかけてくる。
まあ確かに、初日に乱闘騒ぎを起こしておいて、一週間もしないうちに打ち解けているんだからそうも言いたくなる。とはいえ、俺としては別に人を嫌いになる為に生きているわけでもないからな。
敵意には敵意で応えるけれど。グラニみたいなやつは、別にそんなに嫌いじゃない。
「しかし大きなキバイノシシだな。ここまでの大物となると、かなり姑息で臆病だ。広い森からよく見つけ出したな」
「勘だ」
「俺には探知魔法がありますから。グラニは知りませんけど」
それから、ジューダスは俺とグラニが狩った二頭のキバイノシシの巨体に触れながら、ほほうと品定めをするようにそう言った。
キバイノシシは文字通り牙の生えたイノシシで、しかもその牙が七本八本と無数に口外へと飛び出している。しかも、その飛び出し方も殊更奇妙。まるでイッカクのように上あごを突き破って出てきているのだ。
おかげで、こいつらの突進は大木に風穴を開けるほどの貫通力を持っている。まともに受けたら全身が穴だらけになってしまう。
なってない奴もいるみたいだが。
「こいつは……頭蓋骨が陥没してるな。流石はグラニだ。だが、キバイノシシを相手に正面から戦うのは感心しないな」
「下手な心配はこの俺を侮辱するだけだぜジューダス! この程度の相手、俺様にかかりゃこの通りよ!」
ジューダスさんの予想通り、グラニは殺人的なキバイノシシの突進を真正面から受けた上に、カウンターとばかりに拳で対抗し、たった一撃で仕留めてしまったのである。
おかげで仕留めたキバイノシシの顔面は粉砕され、大物勝負だというのに肝心の獲物の体長が縮んでしまっている。
それに気づいていないあたり、つくづくあの誘拐騒動はグラニの仕業じゃなかったんだなと認識させられる。
「こっちは……相当ダメージを与えているな。しかも、的確に急所を捉えている。見た目にそぐわぬ魔法の腕前。流石は魔人族ってところか」
「見た目こそ綺麗ですけど、決め手に欠けたので苦戦しましたよ……」
グラニが一撃で仕留めたのに対して、俺は時間がかかってしまった。食料にするための狩猟なので大規模な魔法は使えなかったのが、30分もキバイノシシを追いかける羽目になった最大の原因だけれど、とはいえ俺の攻撃魔法のレパートリーが少ないのにも原因はあるだろう。
もしくは、小手先の技術でもあればいいのかもしれないなー……なんて。
「ユ~リ~、こっちも狩って来たよ~!」
「おわったー」
「ララ、疲れた」
「ロロは楽しかった~」
「がうっ」
そんな風に話していると、少し離れたところからエレナたちの声が聞こえてきた。
「女子組は兎狩りか」
「というよりも、俺たちが単独行動をしてた感じですかね」
もちろん、最初は集団で動いていた俺たちだ。けれど、グラニが突然「獲物の匂いがする」と言って走り出した。流石に放っておくわけにもいかず、俺がグラニを追いかける。
そうしてこうしてキバイノシシが二体ってわけだ。
「ゆーり、ゆーり……ふぅ……おちつく……」
「おい、クルエラ。さりげなく狩って来た兎と一緒に俺を持つな」
「やだ」
「さいでっか……」
合流して真っ先に抱きかかえてくるのは既にクルエラのお家芸。慣れ切ってしまったエレナはもう何も言ってくれないし、ロロララグラニの三人は気にもしていない。
そしてジューダスさんは。
「お前らを見てると、人間の話も問題なく思えちまうな」
なんだか寒気のすることを言っていた。いや確かに、獣人族と魔人族という異種族で仲良くできているのだから、そうも言いたくなるけれど。
人間となると話は別。いや、もちろん話も通じる人がいることも間違いないとは思うけどさ。バラズさんとか。
人間もみんなバラズさんみたいな人だったら良かったんだけどな。……いや、前言撤回だ。全員があんな風だったらそれはそれで近寄りたくはない。
「人間のことはともかくとして……狩りをしに来たんなら遅かったですね。見ての通り、終わってしまいました」
「遅刻~!」
「罰金~!」
俺の言葉にロロララの二人が声を上げて共鳴する。それから二人は、ぐるぐると愉快そうにジューダスさんを中心にして回り始めた。
「ハイハイ、罰金罰金」
罰金、と言われたジューダスさんは懐から飴を取り出して二人に与えた。何とも用意のいい人だ。普段からロロララはジューダスさんにお菓子でも集っているのだろうか?
「やたー!」
「ララ、クルマキ草味がいい!」
「あー、あったかな……っと、あったあった。はい」
「わーい!」
雨をもらって喜ぶ二人。それから、ジューダスさんは俺の方を見て言う。
「お前も食うか?」
「興味はありますね」
俺も飴をもらった。おお、すごい。口の中がしゅわしゅわする!
「さて、挨拶は終わったところでなんだが……ちょっとお前らに話が合ってな」
さて、全員にジューダスさんが飴を配ったところで、改めて彼は俺の方へと振り返って話を始めた。
どうやら、俺に用があったらしい。いや、俺たちか。この場合は、ここに居る全員に、なのかな。
「とりあえず先に結論から訊いておこうと思うが」
「はい」
「ここに居る奴らで、人間の国に行くってのに興味はねぇか?」
「……はい?」
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