第58話 親玉の登場
「はー……敵意と困惑と……後は何だ? 恐怖ってのは、まあ俺に対してのもんだろうけど。どうにも変な感じだ。んでもって、そこの足元に転がってるのは、まがりなりにも俺の部下のフレベズール君じゃねぇか。……お前がやったのか、チビ?」
「チビ?」
登場早々現れたこの大男は、フレズベール(また名前間違えられてる……)を部下と言ったところから、簡単に彼がここに居る森人族を取り仕切るグラニという男であることがわかる。
そんな彼は、あろうことか言ってはならないことを言った。
チビ、と。
いや、確かに。目算で大まかに見ても2メートル半はある背丈を誇るこの男からしてみれば、大抵の人はチビに分類されるのだろうけれど。
けれど、俺を表す上でわざわざチビと使ったのだ。こいつは。
「チビじゃねぇよ」
「あ、そ。そりゃ悪かったなチビ」
こいつ……!!
ま、まてまてまて。クールダウンだ俺。ここで取り乱されるようじゃ、本当にただの10歳児じゃねぇかおい。
「まあいい」
よくないけど。
「改めて訊くけど、あんたがグラニか?」
「ああ、そうだとも。俺こそがグラニ。見ての通りだ」
何が見ての通りなのかはわからないけれど。ここに居る彼らのリーダーが誰かを示すのならば、間違いなくこの男だろうという程の威圧感を、目の前のグラニは放っている。
だから俺も、負けじと胸を張る。
普段ならばへりくだった姿勢を取っている俺だけれど、誘拐され人質にされ処刑されかけた手前、相手に払う敬意なんてないのだから。
「んじゃあ、こっちも改めて訊くが……そいつをやったのはお前か?」
今度は此方の番と、巨大なグラニは俺を見下ろすよりもさらに視線を下へと移動させて、足元に転がるフレズベールを見ながら言った。
「ああ、そうだ」
「はーん……その角、魔人族だな。なんでこんなところに居るのかは知らねぇが片角ってこたー……どっちにしろ、ちいせぇくせしてただモノじゃない感じはする」
それから彼は、じろじろと俺のことを見回してから、独り言をつぶやくように俺のことを分析している。けれど、図体が大きすぎるせいか声も大きく、スピーカーが取り付けられているのかと勘違いするほどに、その声はよく広場に響いた。
チビという言葉も一緒に。相変わらず人の神経を逆撫でする奴だ……。
「グラニ。用がないならそこをどいてくれないか?」
「ああ、悪いな」
とりあえず、グラニが来てくれたおかげで隙ができた。この雰囲気のまま立ち去れれば、一番きれいに借りた家に帰れることだろう。……フレズベールには嫌われそうだけど。
「用はあるんだ。お前、ちょっと俺と戦えよ」
「……はぁ?」
ただし、俺の前に立ちはだかったグラニがそうはさせてくれなかった。いや、当たり前か。フレズベールが言うには、こいつこそが俺を誘拐した張本人。
国に訪れたよそ者が気に食わないって理由で俺を誘拐し、人質にして立場をわからせようとしていたやつだ。
その一番の部下らしきフレズベールを一蹴しておいて、ただで帰れるわけないか。
だから、俺は。
「やるならやる。ただ、お前らが攻撃してこないんなら、俺は危害を加えない」
「そりゃいい。んじゃあ俺が攻撃するから、全力で戦いあおうぜ」
なんだろう。
知識こそが至上って聞いてたんだけど、なんか森人族、思ったよりも血の気多くない?
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