第54話 問題が発生


「食器とコップとナイフとフォークと……結構色々揃ってるね~」


 疲れてるらしいユーリに変わって、私は、借りた家の中を探索していた。


 やっぱりハドラに居た時からユーリにはお世話になりっぱなしだったし、こう言う時こそ私の出番、というわけだ。


 本当だったら、年上ってことでしっかりとかっこいい所とか見せれたらいいと思うんだけど……ユーリはしっかりしすぎてる。


 魔人族ってのはみんなあんな感じなのかな? 


「こっちにもいろいろ」

「包丁とかまな板とか調理道具も一式揃ってるね。ありがと、クルエラ」

「ふふん」


 考え事をしつつ家の中を漁っていると、あとから手伝いに来てくれたクルエラが料理道具の入った木箱を持ってきてくれた。


 それにお礼をすれば、自慢げに彼女は胸を張る。年上らしい豊かな胸元がゆさりと重量感たっぷりに揺れてるけれど、その態度はどこか年下の子供みたいでほほえましいものだった。


 年上に見える年下と、年下に見える年上と。そんな二人に挟まれて、私の頭は混乱してしまいそうだ。


 まあ、この二人を子供って枠組で考えること自体が間違っているような気がするので、気にしないようにしなきゃね……。


「だれかがすんでた?」

「かもね。一応、旅人に貸し出す用の家ってこともあるかもしれないけど……」

「森人族、あんまりこうりゅうしない」

「そうだよねぇ……」


 色々家の中を探索してみてわかったことだけど、この家はかなりしっかりと手入れが行き届いたものだった。それこそ、ところどころ埃が被ってたり、クモの巣が張ってたりはするけど……それでも、年単位で放置されてたって感じはしない。


 一月に一回ぐらい誰かが手入れしてる? それとも、ここを使ってた人が居なくなったのが最近だったとか……でも、ジューダスさんの言い方的にそんな感じしなかったよなぁ……と、思いながら、探索で見つけたものを並べていった。


 ちょうど土間が広かったので、風呂敷を広げて出てきたものを一つずつ吟味する。


 保存食はなかったけれど、しばらく暮らす分の調理器具や家財道具は一通りそろっていて、布団やら着替えやらも見つかった。


 しかも丁寧に、男女別々、子供の分まで。やはりここは、旅人を招くための家なのかもしれない。


 だけど、森人族は排他的。クルエラが言ったように、旅人を入れるような器量があるとは思えないけど――


「おい」

「ふぇ?」


 はてさて、そんな風に思案しているとどこからともなく声が聞こえた。クルエラのものでもなければ、ユーリのものでもない。まさかガルちゃんのものなわけないので、完璧に私の知らない人の声。


 誰かと思って振り向いてみれば、土間にあった入り口に一人の男が立っていた。ちょうど、クルエラと同い年ぐらいの――


「森人族……さん?」

「そう言うお前は人間で、そっちのでかいのは……はー、獣人族ってやつか。尻尾もねーし、耳も欠けててよくわからなかったな」


 むむ。

 なんだか嫌な人だ。誰とは言わないけど、よくない人を思い出してしまう。


「誰かは知らないけど、その言い方は失礼なんじゃないのかな?」

「はー、そいつぁ悪いことしたな、人間。悪く思わないでくれよ、ここは俺たちの土地なんだから。俺たちには俺たちのルールがあるんだよ」

「……つまりそれ、人の外見的特徴を悪く言わないと、自分たちは名前も知らない人を呼ぶこともできませんってこと? 可哀そうな話だね」


 ピキリ、と森人族の男の人の額に青筋が浮き出たのが見えた。


 というか、思ったよりも手酷い言葉を言ってしまった気がする。我ながら驚きだ。……あれかな。フバットの生霊にでも取りつかれてしまってたりして……ユーリ、除霊できるかな。


「まあいい。どうでもいい。なんたってこっちには、お前らが大切にしてそうな奴がいるからな」

「……え”?」


 大切に、してそうな、奴?


 ま、まさか……。


「はーははは! あのガキ返してほしけりゃ広場の方に来るんだな! 迷わずにたどり着けたなら、の話だけどよ!」


 そう言った森人族の男の人は、そのままどこかへと走り去っていってしまった。


「クルエラ!」

「みてきた。ゆーり、いない」

「ま、まじですかぁ……」


 どうやらユーリが誘拐されてしまったらしい。……けど。


「なんか、心配って感じじゃないんだよねぇ……」


 なんだかそこまで心配する気にはなれなかった私だった。


「ころす」

「物騒だよクルエラ!?」


 とりあえず、ユーリが居なくなってしまったことに乱心するクルエラを窘めてから、私たちは急いで広場の方を目指して家を飛び出したのだった――

 

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