第53話 疲労と休憩
「あー……マジで疲れた……」
そう言いながら両手を上げて伸びをした俺は、そのままの姿勢で後ろにぱたりと倒れ込む。すると、ちょうど後ろに立っていたクルエラが倒れた俺の体を見事にキャッチしてくれた。
「だいじょうぶ?」
「問題はない。って言いたいところだけど……まー、今までずっと警戒しっぱなしだったからな。その分の疲れが出ただけだ」
これまでの移動中、俺は常に警戒の糸を張り巡らしっぱなしだった。もちろん、追手の人間を警戒してのものでもあるけれど。例え人間が居らずとも、この世界の森には魔物という危険生物が溢れている。
そんな奴らに襲われないようにするためにも、やはり気を抜くことはできなかった。
なので休憩。クルエラに身を任せて、俺は全身の力を抜いて寛いだ。そんな折、ここに来るまでじーっとしていたエレナが話しかけてくる。
「お疲れ様、ユーリ。色々任せっきりにしちゃってごめんね?」
「いいよいいよ、これは俺の仕事だから」
むしろ、俺としてはエレナに無理をさせていないかが心配だ。何しろ彼女はまだ12歳の女の子。同族である人間に命を狙われ、逃げるように必死に逃れた長旅の先で、よく知らない森人族の集落に訪れた。
肉体的にも精神的にも、疲労がたまっているに違いない。そんな風に考えていたのだが――
「とりあえず、家の中に何があるか見てくるね! 確か、家の中のものは自由に使っていいんだよね?」
想像以上に元気いっぱいで俺は驚いた。それこそ、ここからが私の仕事だよと言わんばかりの奮起ぶりである。
ここは彼女に任せてしまおう。
とはいえ、エレナ一人じゃ心配だ。もしも積み上げられていた荷物とかに押しつぶされてしまったら、彼女一人じゃ脱出不可能。なので、クルエラにエレナの手伝いを頼む。
「クルエラもエレナの手伝いに行ってやってくれ」
「……やだ」
「やだってなぁ……エレナ一人だと何かあった時に不安だから行ってきてくれ。頼む」
「むぅ……そこまでいうなら」
不満気なクルエラであるけれど、エレナが心配なのはクルエラも同じらしい。なので、渋々と彼女は立ち上がり、家の奥を見に行ったエレナを追いかける――と、思ったところでくるりと振り返ってこちらにきた。
そしてがばりと両手を広げてから、ぎゅーっと俺を力いっぱい抱きしめてくる。
「何してるんだ?」
その行動の理由を俺は訊く。俺とクルエラでは体格差がありすぎて(決して俺の背が小さいわけではない。断じて。断固として。小さいわけではない)、俺の声が彼女の胸元に埋もれてしまって聞こえているかは定かではないけれど。
わずかばかり露出した耳元に、クルエラは囁くように答えた。
「ほきゅうちゅー……」
「補給中か。ならしょうがないな」
「ぎゅー……」
それから十数秒、ぐりぐりと俺を抱きしめた後に、クルエラは満足そうな顔をしてエレナの後を追っかけた。
それを見送ってから。
「……ちょっと横になるか」
旅装のマントを丸めた俺は、それを枕に横になった。前世の畳とは趣は少し違うけれど、異世界の畳も悪くない。そう思いつつ、うつらと俺は寝に入るのだった。
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