第49話 案内と歓迎
「俺はユーリ。見ての通り魔人族です」
名乗りには名乗りを。ジューダスと名乗った彼に対して、俺はまず一礼してから名乗る。
「こっちがエレナ。人間です。そして俺の後ろに隠れてるのがクルエラ。こちらは獣人族です。そして後ろの魔物がガルガンチュア。俺の友達です」
もちろん、仲間たちの紹介も忘れない。特にクルエラなんて先ほどから威嚇しっぱなしだからな。
「なんともまあ、奇妙奇天烈な集団だな。まあいい、俺としてはお前らが期待通りの人材であることを願うだけだ」
「期待通り?」
「そりゃそうだ。俺は別に、優しいわけじゃねぇからな」
にやにやとした顔でそう言うジューダスさん。それから、彼は俺たちに背を向けて言う。
「ついてこい。寝泊まりのできる場所に連れてってやる」
◇◆◇
森人族の国の端っこからジューダスさんに連れられて、俺たちは森の中を移動していた。
がさがさと藪の中を進んでいるものの、足元を見る限り人が使うような道を進んでいるらしい。そんな中、振り返ることなくジューダスさんは言う。
「一応説明しとくぞ。俺たち森人族は、さっきの通りかなり内向的な種族だ。排他的とも言うな。とにかく他の種族とは距離を置きがちだが、別に敵対したいからってわけじゃない」
「まあ、それはわかりますよ。種族間の問題は多いと思います。別に、森人族じゃなくとも」
「おうおう、なかなかに聡いガキじゃねぇか。……っと、片角の魔人族ならそうもなるか」
俺の返答が気に入ったのか、面白そうに振り返るジューダスさん。ここで彼は、ようやく俺が片角であることに気づいたのか、物珍しいものを見るような目を向けてくる。
「片角だとそう言うもんなんですかね?」
「魔人族ってのがどんな社会性を持ってるかは知らねぇが、忌み子の末路なんて大体おんなじだろ」
「あー……」
言われて思い出したけど、そういや俺って忌み子だったっけな。九王伝説に準えて、九種族すべてに協力を取り付けるぐらいの気持ちでいたけど、魔人族とは無理かもしれない。
同族のよしみで一番簡単に終わるとすら思っていたのに……。
「ともあれ、俺たちはそう言う異種族間の差異が、他の種族よりもちっとばかし強烈だ。何をしてるかって意味じゃねぇ。因縁って意味でだ」
森人族の特徴。他の種族との大きな違い。
「永く生きるってのは生きた分だけ因縁を作るってことだな。だが因縁ってのは当事者が死ねば自ずと消える。ただ、残念なことに俺たちはそれが少しおせぇんだわ。一人が平気で五百年とか生きるからな。生きる時間が違う」
ああ、なるほどそうか。
普通、どんな確執があろうとも三世代もあれば薄まっていく。因縁という教育だけが残り、そこにどんな感情があったのかなんて関係なくなる。
けど、森人族は違う。
人間が三代変わる間も、彼らはずーっと変わらずに生きているんだ。そりゃ、他の種族と付き合い切れるわけがない。どちらからしても。
ちなみに魔人族は2、300年は生きると聞いている。そう考えると、母さんっていくつだったんだろ。
「さて、問題だ。俺がここで何を言いたいのかわかるか、ユーリ?」
「森人族は執念深いって理解でいいんですかね?」
「大正解だぜユーリ」
俺の答えに、満足そうにジューダスさんが笑う。それから、道を譲るように彼は先に進めと先を示した。
「問題を起こさないのが、この国で他種族が生き残る秘訣だぜ。ようこそ、森人族の国へ」
示されたとおりに前を進めば、途端にそこから視界が開けた。そして現れたのは、森の中の家々。何十メートルもある大木と一体になった村。
「人は少ないが、気難しい森人族唯一の国だ。ゆっくりしてけよ」
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