第45話 奇妙な運命


「……片角の魔人族ねぇ」


 人界のある場所に建てられた城の一室。


 様々な装飾品に満ち溢れたその部屋のど真ん中に居を構えるのは、横に五メートルはある巨大な世界地図が広げられた長机。その周りでは、20代中頃に見える二人の男女が顔を付き合わせていた会話をしていた。


「えーっと? つまり、明確な敵対者が現れたってことでいいの?」

「は、はい。事件を起こしたのは子供……そして、対応に当たった明滅の勇者チナツ様が討たれました」


 チナツが討たれた。その報告を聞いた女性が、ほぅと興味深げに息を吐く。すると、その対面に立っていた男が、怯えるようにびくりと体を震わせた。


 それを見て、女性は言う。


「あーあー、勘違いしないでよ。私はチナツと違うから。気に入らない報告が上がって来たからって腹いせで近くの人間殺したりしないし、自分の死兵に変えたりしない。あんな人格破綻者と一緒にしないでよ」


 チナツと違う。そう言う彼女は、コウキやハルカ、チナツに並ぶ勇者の一人。深窓の勇者カオリである。


 彼女は、世界地図に記される草原の町ハドラのある場所に、頭の片側に角の生えた人形を置きつつ、その隣にチナツによく似たコマを置いてコトンと倒した。


「子供、ね。あなたはどう思うの?」

「は、はい!」


 それから、彼女は参考にするとばかりに、対面に立つ男に意見を訊く。


「おそらくは子供は我らに反攻するシンボルとして起用された魔人族でしょう。それを、複数人の組織でバックアップしていると見るのが常道かと」

「なるほどなるほど……じゃあ、処刑される獣人族を救ったのは?」

「きっと、仲間を募るための布石かと。魔人族と獣人族。どちらも故郷の国を失った同胞であり、それらを集めるためのアクションですね。それと、もう一つ――チナツ様を、森におびき寄せるための囮、と考えることもできます」

「一挙両得というわけね」

「はい。森の中でチナツ様を迎え撃つ布陣を敷き、子供と処刑間近の同胞を使っておびき出し、魔法の一斉掃射――例の子供の裏にいる存在が魔人族であるのならば、勇者も仕留めうることが可能な作戦かと」

「へーなるほどなるほど」


 男の意見に相槌を打ちながら、聞き及んだハドラの一件に対する考察を深めるカオリ。しかし、彼女らの話し合いに突如として横やりが入った。


「その気色悪い人形遊び止めなって言ったよね、カオリ」

「あんたが負けた尻拭いのための作戦立ててるのにその言いぐさは何よ、チナツ」


 会話に割って入って来たのはチナツ。


 明滅の勇者と呼ばれ、ハドラにて捕らえた獣人族の処刑を行い――そして、ユーリたちの戦いの末、ガルガンチュアに捕食されたチナツであった。


 しかも、彼女は五体満足でカオリと男が話していた部屋に現れたのだ。更には――


「まったく……あんた、そんなんだから友達少ないのよ」


 カオリが話していた男は、人間ではなかった。


 それは、木で作られた顔も表情も何もない木偶人形。それが、どこからともなく垂らされた糸に操られて、喋っている。


「言ってるでしょ。こうした方が、私は意見をまとめられるって」

「気持ち悪い」

「あんたこそ」


 死体すらも弄ぶチナツと、人形遊びに耽るカオリ。


 そんな二人は、嫌悪の感情を隠さずにお互いを睨み合っていた。


 ただ、それも長くは続かない。喧嘩をするなんて時間のムダを、二人共したくないから。


「……それで? あんたのわけだけど」

「あー、あれね。結構いい感じの出来だと思ってたんだけど……やっぱ偽物じゃ私の力の半分も出せないから」

「ふーん……悪趣味だこと」


 チナツは殺されたはずなのに、ここにチナツがいる種を明かせば。これも、彼女の異能〈死血肉臨エボリューションターミネート〉によるものだ。


 簡単に言ってしまえば。


「死体を使って自分を複製することのどこが悪趣味なの? 作れば作るだけ人生が倍になるのよ。得なことばっかりじゃない」


 ユーリたちが対峙したチナツは、死体から作られた偽物だったのだ。その証拠に、偽物は高校生ぐらいの見た目であったが、この場にいる彼女はカオリと同じく20代半ばの見た目をしている。


 狂っている、とカオリは言った。


 ただ、カオリにだけは言われたくなかった。


「そもそも、人形の中に人の魂閉じ込めてる奴には言われたかないよ」

「何を言ってるのかわからないな。果てることなく、朽ちることのない体。これこそが究極の美でしょ」


 カオリが対峙している木偶人形はただの人形ではない。誰かの魂が入り込んだ生き人形なのだ。


 それを会話の相手に操っている。


 どちらも悪趣味極まりない。


「とにかく、殺された人間としていえることはないの?」

「絶対に殺してやるってだけだけど? はー……楽しみ奪われてマジ最悪って感じ」

「そう言えば、偽物と記憶を同期できるんだっけね、あなた。だったら、死んだ偽物の記憶とかも読み取れないわけ?」

「無理無理。頭が残ってるならまだしも、なーんにも残ってないんだもん。あの偽物いろんな国回してたから、同期するの楽しみにしてたんだけどなー……まあ、この怒りは犯人殺せばいいとして」


 長々としていた会話を横に措いて、チナツは話しを切り替える。


「仕事だってさ、カオリ」

「仕事って……四人で?」

「四人で。魔人族以来の大仕事だー」


 気だるそうにそう言う彼女たち。実際、カオリはあまり表に出ないし、チナツは偽物に仕事を全部任せている。そのため、本人の出動が要請される事態は、彼女たちからしたら好ましくないのだ。


「ハルカだけじゃダメなわけ?」

「そろそろ自分たちも働かないとかっこがつかないってコウキが言ってた。まったく、貴族連中に媚び売らないといけないこっちの気持ちにもなってほしいもんだ」

「どちらにせよ、資金源はないがしろにできないか」


 ともあれ、勇者のリーダーであるコウキの指示なら仕方がない。


「重い腰を上げますかッと……んで、場所はどこ?」

「えっとねー……」


 重苦しく腰を上げるカオリが尋ねる。


 次に滅ぼす国はどこだ、と。


 その言葉に、気だるげにチナツは答えた。


森人族エルフの国」

「へー……エルフってあれだよね。魔人族の次に魔法が得意って言う長命種。これはこれは、いい魂が取れそうだわ」


 そう言って気味の悪い笑顔を浮かべるカオリに対して、うげーっとチナツが舌ベロを出して気持ち悪そうにするけれど、彼女もまた森人族エルフの死体で色々と作ろうとしている手前、人のことを言えない立場だ。


 ともあれ、人間たちが進行する次なる国は決まった。


 対象は森人族の国。


 森と共に生きる、長命種。


 奇しくもそれは、ユーリたちが目的地とする森の東の果てにある国だった――




※―――


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