第43話 九王と同盟
「……ひがし」
ぽつりとつぶやかれたその言葉を、俺はそのまま繰り返した。
「東?」
「うん。ひがし」
「東に何かあるのか?」
「あじんのくに。どのしゅぞくかはしらない。でも、にんげんじゃないひとたちのくにがあるってきいた」
「ああ!」
さて、東に亜人の国があるとクルエラが言ったところで、びっくりするような大声でエレナが声を上げた。
何かと思えば。
「九王伝説!」
そんなことを彼女は言う。
「九王伝説って……あれか? 確か、お前が好きだって言ってた……」
「そう、おとぎ話!」
九王伝説とは、前々からエレナが時折語っていたおとぎ話の題名だ。彼女が冒険者に憧れた原因の本であり、仲間との冒険を夢見たきっかけ。
その内容は確か――
「九つの種族と共に、大悪を打ち倒す……」
一人の人間の冒険者が世界を巡り、九種族の王たちから力を借りて最悪の敵に立ち向かう話だったはず。それがいったいどうしたのだろうかと思ったが――
「集めればいいんだよ、仲間を!」
興奮するように顔を近づけて彼女は言う。
「人間が周りを攻撃してるなら、他の種族みんなで協力して、やめさせればいいんだよ! ほら、ひとりひとりが弱っちくても、みんなで集まって強くなれば。冒険者のパーティーみたいに!」
一人一人の力が弱くても、みんなで協力すれば強い魔物にも対抗できる。
なるほど、確かに理にかなった話だ。
「だが、既に魔人族や獣人族……後は鉱人族の国まで、人間に滅ぼされてんだぞ」
「生きてるよ!」
だが、九つの種族が結束したところで果たして勇者たちに立ち向かえるのか。そもそも、既に三つの国が人間に滅ぼされたばかりだと俺は言ったが、真正面からエレナはそれを否定した。
「ユーリも、クルエラも生きてるじゃん! きっと、滅ぼされたって言っても、隠れて潜んでいる人たちがいるはずだよ! それに……まだ、亜人さんたちが全滅したわけでもない!」
確かに、そうか。
いくら国を滅ぼしたからって、その国に住む人全員が死んだとは言えない。実際、俺と母さんは戦いが起きる前に魔人族の国から離れていたため生き残ったし、クルエラたちだって滅ぼされたのは数ある獣人族の大きなコミュニティの二つか三つだ。
世界中を探せば、国から離れてひっそりと暮らす亜人達がたくさんいることだろう。
それこそ、クルエラのように捕まり、今もなお捕らえられたままの亜人もいることだろう。
「そういう人たちを助けて集めて強くなれば……勇者たちも、無暗に攻撃してこなくなるかも。そしたら、話し合いができるんじゃない?」
「……そう、だな」
そんなにうまくいくのか? と、俺の頭に疑問がよぎった。
だからといって、それ以外に有力な策が思いつかない。だから、今は。
「わかった。まずは東を目指そう。そこで亜人と接触して……九種族の亜人達、その王たちから協力を取り付ける」
「うん! そうすればきっと……亜人さんたちの迫害だって止められるはずだよ!!」
東に向かう。
亜人の王たちと接触し、彼らに協力を求める。
そして人間に対して交渉する。
亜人の迫害を止めろ、と。
そうすれば、少なくとも今もなお理不尽な仕打ちを受けている亜人たちを助けられる。そうでなくとも、協力を取り付けることができれば、勇者たちと正面から戦える力になる。
その先で――
勇者を、殺す。
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