第33話 旅路と仲間
町の入り口の近くの岩場。そこに隠されるようにして停められていた馬車の中に居たのは、なんとびっくりこれから別の道を歩むとばかり思っていたエレナだった。
「えーっと……で、エレナ。なんで居るんだよ」
今生の別れとしか思えなかった別れの挨拶を交した手前、流石の俺もこれにはどんな顔をしていいかわからない。
ともかく、なぜここに居るのかを俺は訊ねた。すると、
「私がわがままなのはよく知ってるでしょユーリ!」
と、答えになっていない答えが返って来た。
確かに、彼女が銅等級に固執してるのはわがままらしいし、俺のわがままを尊重してくれたからこそ、俺はこうして獣人族の少女を助け出しに行ったわけだけれど……
「やっぱりユーリと冒険したい! それが私のわがままだから……だから、連れてってよ!」
冒険者は彼女の憧れだ。そして、信頼できる仲間たちの旅路こそが、彼女の夢と聞いている。
なるほど。つまりエレナは、俺を信頼してくれているということか。
「冒険者はね、どんな時でも仲間を信じるんだよ! いろんな苦楽を乗り越えて、その先で夢を見るの。だから私も、私のためにいろんなことをしてくれたユーリを手伝いたい」
そう言ってくれるのはとてもありがたい話だ。正直、俺一人じゃできないことは多すぎる。ただ――
「これでもか?」
そう言って、俺は隠していた角をあらわにした。
「その角……え、まさか……魔人族……?」
魔人族という俺の生まれは、この世界の人間社会では生き辛いと言わざるを得ない。そんなものに付き合わせるだなんて、俺には無理だ。
亜人について一つ聞けば百の醜聞が返ってくる人間社会は、魔人族に与する人間すらも排斥対象だ。俺もエレナのことは信頼している。だから、付き合わせるわけにはいかない。
「嘘でしょ! ユーリって魔人族だったの!? 早く言ってよ、余計に私、ユーリの旅に着いて行きたくなっちゃった!」
だけど、そんなものはエレナには些末な問題だったらしい。
「え、いや……そこは、軽蔑するところだろ……」
「なんで軽蔑しなくちゃいけないのさ。魔人族だよ? ほら、いろんな魔法が使えるかっこいい種族だよ? 九王伝説でも主人公のライバルだったんだよ?」
「九王伝説がなにかは深く知らないけど……俺についてきたら、苦しい旅になる。きっと、うまくいかないことばかりだ。それでも、いいのか?」
「問題なーしっ! そもそも、他種族だからってこの人みたいに酷いことされてるの、私は許せない! それに――」
俺の方に指を指してエレナは言った。
「私たちは同じパーティーでしょ。楽しいことも辛いことも、ずっと一緒だよ!」
エレナの覚悟は固い。そして、その覚悟を俺は否定できなかった。
「わかった、とりあえずこの子を見ててくれるか」
「うん!」
俺の言葉に満面の笑みを返したエレナ。そんな彼女に獣人族の少女を任せた俺は、馬車を出発させるために馬の方へと近づいた。
「……それじゃあリーデロッテさん。お世話になりました」
「うん、元気でね。それと、エレナちゃんをよろしくね」
「ええ、承知してますとも」
それから、リーデロッテさんに別れの挨拶をする。
エレナはついてくるけれど、リーデロッテさんとはここでお別れだ。もうこの町に来ることはない。となれば、これが今生の別れになる。
だから、この二週間の感謝を込めて、俺は彼女に深々と頭を下げた。
ただ、
「ちょっと待て!!」
「……?」
その間隙を縫うように、俺の出立を止める声が響いた。
「え、エレナをどこに連れて行くつもりだ!!」
変声期前の子供の声が聞こえてきた。その声には聞き覚えがある。そう、確か――
「フバット……」
「……この
声を震わせる彼は、剣の切っ先を俺へと向けて現れた。
※―――
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