第32話 別離と再会
「ユーリ君! こっちこっち」
「リーデロッテさん!」
劇場広場の騒動が町全体に波紋のように広がる中、人目に付かぬ道を選んで移動したおかげで誰からも見つかることなく、リーデロッテさんの家にまで俺はたどり着くことができた。
「……あ! ちょっとユーリ君! 角かくして」
「あ、は、はい!」
ただし、ここに来るまで探知魔法を全開にして気を張り巡らせていたこともあってか、魔人族固有の角を隠すことに失念していた俺である。リーデロッテさんに言われて初めてその事実に気づき、急いで全身を黒塗りで隠す霧魔法から切り替えて、角を隠した。
ついでに、両手で抱えている少女の耳も隠すが……どちらも、リーデロッテさんには見られてしまった。
「大丈夫。お姉さん、何にも見てないから」
「……心、読まないでくださいよ」
俺の不安を察したのか、リーデロッテさんはそう言って俺の頭を優しく撫でた。
「確かに、私も魔人族については悪い噂しか知らないし、正直今だって怖いぐらいだけど……私はギルド長を信じてる。……ごめんね。こういう時は、ユーリ君だからって言えればいんだけど……私には、無理だった」
「謝らないでくださいよ。逃避に協力してくれるだけで十分ですから」
「うん、ありがとう。それじゃあ、馬車が置いてあるほうまで行こっか。町の外の方に停めてあるから、上手いこと使えば旅の商人に偽装できるかも」
リーデロッテさんと合流した後、彼女の案内に従って町の外へと移動した。それから、聞いた通りにそこには馬車が停められていた。
ちょうど、馬車がある場所はごつごつとした岩場の影になっていて、町の方からは馬車が見えない位置になっている。ここならば、町民に存在を悟られることはないだろう。
「あ、そうだ」
「どうしました?」
「ギルド長から渡しとけって言われたんだった……はいこれ」
馬車の手前で思い出したかのようにポンと手を叩いた彼女は、ポケットから一枚のカードを取り出した。
これが何か。そう訊いてみれば、
「ギルドカードだよ。冒険者ギルドに所属する仲間の証拠。色々あって発行に時間かかっちゃった」
「え、いや……でも、俺は……」
「ギルド長が言ってたよ。簡単にやめれると思うなよって」
「そう、ですか……」
……敵わねぇな。
ギルドカードは冒険者ギルドに所属することを示す身分証だ。
これがあれば、国境を移動する際も検問を通りやすくなる。これから始まる逃亡生活に役立つことだろう。そんなものを、こんなタイミングで渡してくるだなんて。
あの人には足を向けて眠れねぇな。
「ありがとうございます」
それを丁重に受け取ってから、俺は馬車の中身を確認した。
一匹の馬に引かれた馬車の荷台は布に覆われており、それを外せば幾つかの木箱が載せられている。それの一つを開ければ、保存がきく食料が詰まっていた。
それと――
「あ……ご、ごきげんようユーリ」
「なんでここに居るんだよエレナ」
1つ目に開けた隣の箱の中には、どういうわけかエレナが詰まっていた。これがほんとの箱入り娘か。
「エレナちゃん!?」
「あははー……バレちゃった」
エレナの存在に素っ頓狂な声を上げるリーデロッテさん。その声を聞いて、彼女は申し訳なさそうに苦笑いを浮かべながら箱の中から体を出した。
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