第28話 自分の選択

「ユーリ」


「エレナ?」


「どうしたの、なんか顔暗いよ? ほら、何時ものユーリだったら、なんかこう、かっこつけて斜に構えてクール気取ってるじゃん」


「いつもの俺ってそんな感じなの……?」


「いや、言ってみただけ。でも、なんだか子供じゃないって感じは確かだよ。少なくとも、年下なのに年下に見えない。子供なのに子供に見えない。私にとってユーリは、そう言う人」


「人生経験ってやつだな。旅をしてればいくらでも経験できるぜ」


「え、そうなの!? ならさ、ユーリ。この先、銀等級ぐらいになったパーティーで旅しようよ! 北のグルメ食べに行ったり、東の海に遊びに行ったりさ」


「ははっ、それはいい案だ。ただ、俺は海より山の方が好きだな」


「もしかしてユーリって海の出身だったりするのかな?」


「どうしてそう思った?」


「いやほら、冒険者の人に話し聞くとさ、海が出身地だからもう人生一回分は水平線見たーとか、山出身だからうっそうと生い茂る緑はもうこりごりだーとか。故郷と違うところ行きたくなるのかなって」


「そう言う意見もあるだろうけど、生憎と俺は山生まれだな」


「あ、そうなんだ。……実は、私も海よりも山の方が好きかも」


「そりゃなんでだ?」


「えっとね、私が好きなおとぎ話でさ。一番好きなシーンが冒険者の仲間たちと一緒に山に登り切ったところなんだ。だから、私は大好きなパーティのみんなと山に登りたい。色々大変かもしれないけど、それでも山頂の景色はきっとすごいいいものだから」


「いい夢だな」


「えへへ、そうかな。……後は、ユーリの故郷も行ってみたいかな」


「そりゃどうしてだよ。何にもないぞ?」


「何でもいいでしょ! と、とにかく私はユーリの故郷が見てみたいの。どんなところで育ったのか。そういうの」


「楽しいもんじゃねぇぞ」


「いいんだよ。何にもなくても。楽しくなくても。だってそこはユーリが暮らしてた場所だから。……ごめん。今のなかったことにして」


「無理」


「いやー! ちょっと恥ずかしいからなし! なしで!」


「聞いちまったもんは戻せねぇよ。しかし、俺の故郷か……ま、機会があればそのうちな」


「う、うん……楽しみにしてる。でも、実を言うと行けなくてもいいかな、とか思ったりして……」


「はぁ? そりゃ一体どういうことだよ」


「なんだかここ数日、ユーリって心ここにあらずって感じがしてさぁ……もしかして何かやりたいことでもあるのかなって」


「……」


「ほら、ユーリって私よりも二歳も年下なのにさ。いろんなことできてすごいじゃん。でも、私って色々とダメダメでさ。だからきっと、ユーリがやりたいことの足引っ張っちゃうと思うんだよね」


「それは……」


「いいの。私は気にしない。私は私のわがままで冒険者になってるから。憧れた冒険者になる為にわがまま言っているから。だから、ユーリだってわがままを言っていいんだよ。なんたってユーリはまだ子供なんだから……私より年下だしね」


「わがまま、ねぇ。いいのかよ。俺のわがままでパーティーが解消されたり、俺が居なくなったりしても」


「そりゃもちろん寂しいけどさ。でも、それって私が縛っていいことじゃ無くない? それに、前まで私は、冒険者をするのが否定されて辛かった。私のやりたいことができなくて悔しかった。そんな思いを、ユーリにもさせるなんて無理だから」


「そうかよ」


「そうだよ。だからさ、ユーリ。もしもやりたいことがあるんなら、私のことなんて気にしなくていいから。ユーリがそれでいなくなっても……きっと追いつくから」


「追いつくってなんだよ」


「そりゃ……強くなる、とか? 少なくともユーリのパーティーメンバーだったって誇れるようにはなりたいよね。なんたって私、ユーリの初めてのパーティーメンバーだし……あ、私よりも前に誰かとパーティー組んでたりしないよね!?」


「してないしてない。お前が初めてだよ、エレナ」


「えへへ……ま、そういうことだから。ユーリがどこに行こうとも、どれだけ私を置いて行こうとも、私はきっとユーリに追い付く。そんでもって、ユーリのやりたいことの手伝いをする! 突き放されたって、何度だって同じパーティーになれるように頑張るよ!」


「そりゃありがたい話だな。お代はいくらがいい?」


「お代なんていらないよ。だって私は、ユーリに助けられたから。きっとユーリが居なかったら、冒険者やめてたかも」


「そりゃ買いかぶりすぎだよエレナ。きっと俺が何かをしなくても、お前はいつか銅等級に上がってたし、それ以上にも行けてただろう。きっと、偶然ここに居たのが俺だった、ってだけだ」


「偶然ねー。でも、私その言葉嫌い。もっとこうさ、運命的とかいった方がドラマチックじゃない」


「確かにな。じゃあ、ここで別れてもいつかドラマチックに再会するかもな」


「私とユーリを繋いでくれる運命……って危ない危ない! 何でもないから! 別に!」


「……? まあ、いいか」


「そう。いいんだよ。ユーリはユーリのやりたいことをしても。私は応援してるから」


「……そうか。わかった。ありがとう――」


――ここまで言わせてしまったんだ。


――誤魔化すことは、もうできない。


――だから。


「じゃあな、エレナ」


「うん! 元気でね、ユーリ」


 



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