第26話 順調と岐路


「ふむ、問題ないな。よし、銅等級昇格だ」

「やったぁあああ!!」


 牡牛の一件から三日が経った。その間に銅等級昇格試験を受けたエレナは、特にこれと言った問題なく試験をこなし、無事銅等級に昇格することができた。


「おめでと~!」

「お疲れ様。ま、こっから頑張ろうぜ」

「手伝ってくれてありがとう二人とも!!」


 リーデロッテさんがエレナの努力を労い、ハイタッチを交す。とてもうれしそうにしている彼女を見ると、こっちまで嬉しくなってしまうので、俺も全力でハイタッチに応えた。


「よし、じゃあ今日はお姉さんが奢ってあげる! さあさ、エレナちゃん。何でも頼んじゃっていいよ~!」

「ほんと!? じゃ、じゃあ――!!」


 祝賀会にと冒険者ギルドに併設されている酒場に移動する二人御w見送って、俺は改めてバラズへと向きなおった。


「バラズさん」

「どうした、ユーリ」

「例の牡牛についてなにかわかりました?」

「いんや。これがぜーんぜんわかんないのよ」


 相変わらずな態度のバラズさん。とりあえず、あの牡牛が何だったのかを聞くべく、俺は彼を問い詰める。


「詳しくお願いしますよ。死にかけたんですから」

「つってもなー、まじでわかんねぇの」


 彼は続ける。


「ギルドの生態調査委員は間違いなくファイターブルの系譜だって言い張っちゃいるが、あんなに巨大なファイターブルが居るかよ普通。そもそも、自重を支えるために肥大化した筋肉で圧迫骨折してるような生き物が、まともな生物なわけがねぇ。だろ?」

「骨折て……」

「四足もれなくぼっきぼきだ。普通なら歩くこともできないはずなのに、筋肉だけで解決してやがったみたいだ」

「なんという脳筋……」


 なるほど。あの時〈エレキショック〉に無反応だったのも、骨が折れている痛みにかき消されたか、ドバドバに出ていた脳内麻薬が痛覚を麻痺させていたのだろう。


 だからといって、納得できる話ではないけれど。


 肉を切らせて骨を断つとはいうけれど、骨を砕いて肉で補うなんて聞いたことがない。少なくとも、骨がある前提で生まれた生き物が、骨なくして生きられるはずがないのだ。それなのに、筋肉だけであの突進。今思い出しただけでも身震いしてしまう。


 それだけの異常。それだけの異様。まさしく、魔物と呼ぶにふさわしいだろう。


「今わかってるのは、とりあえずそんなところだ」

「わかりました。まあ、また聞きに来ます」

「おう、期待しないで待っててくれ」


 相変わらず適当な……まあ、いいや。


 あの牛が何であったにしろ、死人は出ていない。それに、あの牡牛との戦いがあったからこそ、エレナは銅等級に昇格できたのだ。


 あの場で俺を助けた功績。それを踏まえた意見が、銅等級昇格の決め手になったとバラズは言っていた。


 怪我の功名とでも言おう成果だ。


 そして、彼女が銅等級になったということは――


「くそっ……エレナの奴め。銅等級になりやがった……!!」

「まったく許せませんよね!」


 フバットたちから例の如く反感を買うということだ。対抗心を燃やすのはいいが、悪い方に転ばないといいな……。


 とはいえ、何事も順調に進んでいる。


 俺は順調に人間社会に溶け込んでいるし、冒険者としての功績だって上げることができた。一人目となる仲間もでき、ギルド内にも知り合いが増え、様々な情報を得ることに成功した。


 怖いぐらいに順調だ。


 順調すぎたんだ。


「おーい、エレナ。俺も来たぞ」

「あ、ユーリも食べる?」

「今はちょっと食欲がないから、飲み物だけでいいや」

「そう?」


 バラズさんとの話が終わって、エレナの祝いの席に移動する。そこには山のように積み重なった大量の料理を、むしゃむしゃと食べるエレナが居た。ちなみに運んでいるのはリーデロッテさんで、おいしそうに食べるエレナの顔を見てとてもうれしそうだ。


 そんな席に座って、オレンジジュースを飲む。


「あ、ユーリ」

「どうした、エレナ」


 ふと、気づいたように彼女は言う。


「パーティーの約束、まだ残ってるよね!」

「残ってるも何も、俺はいつでも大歓迎だぞ」

「やった! じゃあ、今日から私たちは冒険者パーティーだ! 明日パーティー申請出しちゃお!」


 そうか。銅等級に上がったことで、やっとエレナとパーティーを組めることになったのか。しかし、どうしてこんなにも彼女は嬉しそうにしているのだろうか。


「冒険者と言えば友情だよ! パーティーだよ! 私憧れてたんだから!」

「なるほどな」


 冒険者パーティーというものに憧れていたらしい。そういえば、確かエレナは冒険者に憧れていたんだったか。


 そんな物思いに耽ながら、オレンジジュースをもう一杯。


 冒険者の等級評価は、パーティーでの功績も加味されるため、ソロよりもパーティーの方が昇級しやすいのだそうだ。つまり、これで俺はより目的の金等級を目指しやすくなった。なんなら、白金等級も夢ではないかもしれない。


 そうなれば、王都で庭付きの豪邸を買えるぐらいに稼げるとのこと。確かにそれは魅力的だ。それに、それほどの金があれば、勇者もおいそれと俺に手を出すことはできないだろう。


 何とも順調な滑り出し。


 円滑に世界が回っている。


 なにもかもが、いい方へと転がっている。


 だから、だろう。


「……ん?」


 そんな俺に罰を与えるように、世界が試練を迫って来たのは。


 酒場の壁には依頼とは関係のない張り紙が多く貼られている。劇場広場で行われる講演会や、職人募集の張り紙だ。その中に一つ、最近貼られたであろう張り紙がでかでかと存在感を放っていた。


 そこには、こう書かれている。


『三日後、第二演劇広場にて獣人族ビスタスの処刑を行う』


 岐路は訪れた。




※―――


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