第24話 経過と成果
エレナの特訓が始まって一週間。
ようやく特訓の成果が目を出してきた――と言いたいところだけれど。
「やー! ……ぎゃー!?」
「どうしてそこで引っかかるんだよ……」
ゴブリンとの戦いすら余裕をもってこなせるようになってきた彼女だが、ようやく勝ちと言ったところで、背中を見せたゴブリンを追いかけた結果まんまと罠にかかっていた。
森の中だから視界が悪いのは仕方がないけれど、こう、上手いこと隠されていた落とし穴にずぼっと。
「エレナちゃん。追い詰められたゴブリンが罠のある場所に逃げ込むのは習ったでしょ? 忘れちゃだめだよ~」
「わかってる! わかってるから早く助けて! 落ちて死んじゃう!!」
落とし穴に落ちたエレナに苦言を呈する俺たち二人。しかし、落とし穴の下には見事な刃物が敷き詰められている以上、ギリギリで落とし穴の縁に掴まっているエレナに話を聞いている余裕はなかった。
そんな彼女を救出しながら、今回の改善点を洗い出す。
ただ――
「最後の最後で詰めが甘かった以外は問題なかったと思うんですけど……どうですかね、リーデロッテさん」
「お姉さんも同意見かな~。元々複数体のゴブリンの相手もできてたし、弓矢持ちにもしっかり警戒できたからね。割と銅等級昇格範囲だとお姉さんは思うよ」
「ほんと!?」
俺たちの話を聞いていたエレナは、叱られるとばかり思っていたのか落ち込んでいたのだが、意外にも褒められたことによって元気を取り戻してぴょんぴょんと跳ねながら、緑色の瞳を輝かせる。
そんな瞳を目つぶし。
「ギャッ!?」
「慢心するなエレナ。いつもそうやって依頼失敗してるんだぞ」
「うぅ……はい。わかりましたぁ……」
彼女が調子に乗らないようにするのが俺の仕事。そして、
「まあまあ。そろそろ、銅等級の昇格依頼を受けてもいいころだと思うけどね~」
半泣きのエレナを慰めるのがリーデロッテさんの仕事だ。見事な飴と鞭である。俺の目論見にはこの構図がなかったが、もしやバラズさんの思惑だったりするのだろうか。
ともあれ、銀等級冒険者のリーデロッテさんがそう言うのなら、そうなのだろう。少なくとも、一週間前に冒険者になったばかりの俺には異論を挟めない。
なので、今日のところはこれで切り上げて、ギルドでエレナの銅等級昇進試験の申請を……ん?
今何か、俺の探知魔法に引っかかったな。
「……リーデロッテさん」
「どうしたの、ユーリ君」
「少し警戒を。何かが来ます」
常時発動している探知魔法は、遠くからこちらへと何かが接近してきているのを感知した。大きさは五メートルを超える大物で、木々をなぎ倒しながらこちらへとものすごい勢いで走ってきている。
まごうことなき魔物の反応。
しかし、こいつは?
「接敵します!」
「え、なになに!?」
「エレナちゃんは私の後ろに下がって!」
そして、その魔物は姿を現した。
「なっ……こいつは……」
「あの時の牛!」
現れたのは、いつぞやに追い払った巨大な牛の魔物。
しかし、様子がおかしい。
『ギ、ギガ、ブブブ、ブモガガガアガ』
漏れ出てくると息がどこか不自然だ。動きも歪で生き物のようには感じられない。そして何よりも――
「〈エレキショック〉」
『ブモ……ギギ』
痛みを与える〈エレキショック〉にも無反応。
痛がる様子もなければ、逃げ出そうとする気配も感じられない。唯一、この魔物から感じられる意志は一つだけだ。
『ブモ、ブモ……ブモォォォ!!』
「リーデロッテさん、戦うしかないようです」
「いざとなったら逃げるって選択肢も考えておいてよ」
俺たちを殺す。
異形にして異常の牛の魔物からは、ただそれだけの殺意しか感じ取れなかった。
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