第23話 情報と切札
〇依頼二つ目『エリアルスパイダーの腹部の持ち帰り』
「い、糸が、糸がぁぁぁああ!!!」
「エレナ! まだ脱出できるはずだ!」
「うっ、まって、なんとか、〈ファイア〉!」
「うわぁ! エレナちゃん森! 森が燃えちゃってる!」
「俺が何とかするのでリーデロッテさんはエレナの救出を――〈レイニーブルー〉!!」
結果『失敗』
〇失敗理由
エリアルスパイダーの空気中に飛ばされた蜘蛛糸に対応しようと火魔法を使い森に引火。普通ならここまで炎が広がることはないが、運悪く蜘蛛糸を伝って燃え広がった。
また、肝心のエレナは蜘蛛糸から脱出ならず。
〇依頼三つ目『ミニヤーガの卵を持ってきて!』
「た……高くない? 高すぎないここ? ねぇ、ユーリ。絶対高いと思うんだけど」
「仕方ないだろ。ミニヤーガは20メートル以上の空杉の上にしか巣を作らないんだぞ。しかも相手は自由に飛べる。こうやって魔法も使わずに地道に木登りしなくちゃいけないんだ」
「それに、最低限魔法さえ使えればこのぐらいの高さだったら痛いで済むしね~。骨折してもギルドに任せないっ!」
「そ、そう……あ、やっと巣まで来た。あとちょっと――」
「おい、ちょっとまて」
『ギェエエエエエ!!!』
「あ」
「あ」
「あ」
結果『失敗』
〇失敗理由
巣を目前にしたエレナが急いで登ったが、運悪く卵を温めている鳥小屋の鳥ミニヤーガがこちらの方を向いていた。その後の対応も悪く、足場が不安定な巣の上で戦おうとしたエレナを捕獲して離脱する。
〇依頼四つ目『ホルホルスタインの牛乳』
「ねぇ、このホルホルスタインってどこにいるのかな? というかネーミングセンス……」
「依頼によるとここら辺に居るはずだが……どこだ?」
「一応お姉さんはお口チャックしとくね~」
「ああ、ありがとうございますリーデロッテさん。……しかし、ここら辺、全然魔物が居ないな」
「なんか地形も変だよね。すっごい凸凹してるけど……ん?」
「地面が、揺れた……おい、なんか嫌な予感がするぞ。俺の嫌な予感は当たるんだ」
「あ、これお姉さんも不味いかも~」
「「「ぎゃああああああああ!!!」」」
結界『失敗』
〇失敗理由
地面を潜航する乳牛ホルホルスタインの縄張りに知識なく潜入した結果、三人とも地面からの突進攻撃を受けてしまう。これには流石の筆者も不覚――
「――をとった……っとこんなところか」
草原や森をあくせくと走り回った一日の終わり際。太陽も沈み切った夜に、宿屋のベッドの上で今日一日の出来事をそうまとめた。
結果は全滅。一つの依頼も不注意が原因で失敗したエレナは、半べそをかきながら帰路についた。
……余談であるが、失敗した依頼は俺が処理した。もちろん、その依頼で得た報酬は宿代やメモ帳、インク代となっている。
閑話休題。ともあれ、今日はすべてが失敗に終わったけれど、何も収穫がなかったわけではない。何度やってもめげずに努力するエレナの姿が見れたのだ。あれだけ頑張れるなら、そう遠くないうちに戦いに慣れ、危機感を覚えてくれるだろう。
「エレナについてはこのままでいいとして……問題はこっちだな」
さて、メモにまとめた内容を振り返った俺は、一旦エレナに関するあれこれをざっと横に措いてから、本来の目的について集めた情報をまとめた。
本来の目的。
勇者への復讐。
「とりあえず、こんなところか」
集まった情報の中でも重要度の低いものから上げていこう。まずはこれ。掲示板に貼られていた、一枚の行方不明者の人相書き。
『尋ね人【アドベル・マイヤーガ】』
白金等級冒険者であり、魔人族狩りで知られた人間だそうだ。
そして、俺の母さんを殺し、俺が殺した冒険者でもある。
既に彼の遺体はこの世にはない。あの時、魔法が使えない中で揺らめいた黒い炎によって、彼の体は消し炭になったのだから。なので、アドベルが見つかることは今後一生ないだろう。
可哀そうだとは思うけど、悪いとは思わない。
だって俺は悪だから。いざという時の覚悟は、できている。
そんなわけで、次の情報。
国内での金等級以上の地位を調べてみたところ、俺の目的とする高い社会的地位に合致したものだったという朗報だ。貴族とのパイプはもちろんのこと、自由に国境を行き来できる権利まであるとのこと。
至れり尽くせりだ。やはり目指すはここだろう。
そして次。最後に待ち構えた超重要情報。
「勇者コウキが降臨してから10年……か」
俺が死んでから、10年もの時が経っていた。
これは無視することのできない要素だ。育ち盛りの彼らが、俺のように向上心をもってこの世界で力を身に着けるとなると……いったいどこまで強くなっているのやら。
少なくとも、10年分の経験値の差が俺と奴らの間にあるのは間違いない。
それに、魔人族の国は八年前に彼らに滅ぼされたのだそうだ。四人の勇者を筆頭とした人間の軍勢に。
魔法最強と謳われた魔人族。それでも敵わない勇者一味。
ここからわかることは……いくら魔法最強の魔人族に生まれたからと言って、魔法だけじゃ奴らには勝てないということ。
もちろん、勇者コウキのあの性格だ。正々堂々とは言えない手を使った可能性は高い。ただ……俺が奴らと対峙した時に、その手が使われない保証はない。
だから、俺には手札が必要なのだ。
魔人族の才能や仲間とはまた違った手札が。
例えば、そう。
あの時、母さんが殺されたあの日、魔法が使えくなった中でなぜか使えた黒い炎とか。
「結局、あの力は使えてねーんだけどな」
あれから何度か試したけれど、黒い炎を出すことはできなかった。あれがなんだったのか。どういう力だったのか。それは全くわからない。
ただ……いつか勇者たちと対峙する以上は、使えるようになった方がいいことは間違いないだろう。切り札は、多い方がいい。
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