第21話 訪問と覚悟


「お邪魔しまーす!」

「お邪魔します……」

「お邪魔されました~!」


 完全に日が沈み夜が始まる時間帯。俺は年上お姉さんの自宅にお邪魔していた。


 ……いやいやいや!! お邪魔しちゃだめだろう普通!?


 ま、まて、今の俺はただの10歳児。年齢を鑑みれば、何も問題はないはずだ。


 いや、でも。リーデロッテさんのことをそういう目で見てエロガキと思われるのだけは嫌だ! リーデロッテさんみたいな美人に! そう思われるのは流石に凹む!


「どうしたのユーリ」

「目を……俺の目を潰してくれ……」

「本当にどうしたの!?」


 心配してくれるエリンには悪いが、俺はどうしようもないエロガキだ。ほら、今だって悶々と年上お姉さん……そういやリーデロッテさんって何歳なんだろ。


 20代前半には見えるが……そうなると、精神年齢25歳からしたら年下ということにならないか? ……いや、どっちにしても気持ち悪いぞ俺。


 冷静になれ。心頭滅却だ。滾る炎を鎮めるんだ……うわめっちゃいいにおいする。


「エリン……頼む後生だ俺の鼻を潰してくれ……」

「だから本当にどうしたの!?」


 欲に負けそうになる自分自身にセルフ腹パンをかました後に、改めて俺はお世話になる家を見た。町の東にある小さなこの家はギルド職員の社宅に当たる建物らしく、格安で借りることができるのだとか。


 リビングと寝室と部屋が二つ備わっていて、エリンを招いたようによく友達を招くのか、横に広いソファーや広いベッドが備わっている。そのほかには、人形や家族写真などなど、リーデロッテさんのほんわかとしたイメージに相応しい小物が、部屋のあちらこちらに並んでいた。


 これがこの世界における普通の暮らしなのだろうか。


「ちょっと待ってね~。今朝作ったスープあっためるから」

「お気になさらず」


 夕食の支度までしてくれるらしいリーデロッテさんに断りを入れてから、俺はソファーに腰かけた。


 それからちらとリーデロッテさんの方に目を向ける。


 おそらくは火を出す魔道具を使ってスープを温めている彼女は、さながら台所に立つ彼女のようで、かつての俺がついに経験することなく人生を終えてしまった憧れのシチュエーションを見ているようだった。


「……ふっ、涙が出てくるぜ」

「なんかユーリ、さっきからテンションおかしくない?」

「悲しい男の性、というものさエレナ」


 横に倣って俺の隣にちょこんと座るエレナが、先ほどから様子のおかしい俺を見て目を細める。許してくれエレナ。生前の25年間、まったく女っ気のない人生だったんだ。


 こんな時どうしていいかわからない。とりあえずリーデロッテさんに両手を合わせて拝んでおくか。ありがたやありがたや。


「……ユーリ」

「どうしやエレナ」


 そうしていると、胡乱気な瞳のエリンは言う。


「エッチなことはダメだからね」

「悪い、エレナ。早く俺の腕を斬り落としてくれ」

「そんなに自信がないの……?」


 エレナの瞳が呆れを通り越して可哀そうな奴を見る目になっているが、その通りだからやめてくれ。本当に。


「切り替えよう」


 パチンと指を鳴らして思考を切り替える。というか、別のことで気を紛らわそう。


 そう思った俺は、懐からギルドでバラズさんから貰った紙束を取り出した。それを見て、エレナが訊いてくる。


「なにそれ」

「ギルドが配布してる依頼書一覧の写し。希望すれば作ってくれるそうだ」

「へー」


 明日やる依頼を見繕うのに時間が足りないところ、バラズさんから貰ったものだ。これがあれば、家でも次にやる依頼を見定めることができる。


 そんなわけで、エレナを適度に追い詰められそうな依頼を探していると――


「……魔人族デモニス、ね」


 デモニス討伐、という項目を見つけてしまった。


 金等級以上の依頼にあったその文言は、間違いなく俺たち魔人族を魔物と扱い討伐対象にする依頼だ。掲示板には張られてなかった気がするが……なるほど、掲示板にはない依頼も、この写しには書いてあるのか。


 余談であるが、デモニスとはここ最近で呼ばれるようになった魔人族の蔑称だ。なぜそんな呼び方をするようになったのかは知らないが……デモニスと魔人族を呼ぶ連中は、魔人族のことを人と見做さない。俺の母さんを殺した連中がそうだったように。


 だから、魔“人”族とは違う呼び方が必要だったのだろうと、考えられる。


「なんかまた難しい顔してるけど、本当に大丈夫?」

「ああ、すまん。こっちに関して本当に大丈夫だ」


 どうやら、依頼書を見ているだけで俺の顔は随分と険しくなってしまっていたらしく、先ほどよりも心配の色を強くしたエレナの顔がずいとのぞき込んできた。


 ただ、これに関しては心配するほどのことではない。


 気持ちの折り合いはついているから。


 復讐する。俺たちを人として扱わない連中には、容赦はしない。復讐して、止めさせる。


 もう二度と、母さんみたいな犠牲者を出さないためにも。


 勇者だけでも、殺す。


「……勇者じゃない」


 ただ、俺が見つけた魔人族の討伐依頼。そこに書かれていた依頼主の名前は、話しに聞く勇者コウキのものではなかった。


〇依頼主

 アルベルド・アルフォンリッヒ


 誰だこいつ。

 いや本当に誰だよこいつ。


 でも、一つ確実なことは――魔人族を滅ぼそうとしているのは、勇者だけじゃないってことか。


 うーん……面倒くさそうな話だ。ただ、俺がやることは決まってる。


 まずは人間社会での地位を手に入れる。例えば、冒険者ギルドの金等級なんかは貴族からの依頼が来るらしいし、白金等級ともなれば国からも依頼が来るそうだ。


 そこで貴族王族とパイプを作れば、勇者との接触できるはずだ。そして行く行くは、奴ら全員をこの手で殺す。


 母さんとの約束を破ってしまうけれど。


 俺は、悪だから。


 必ず復讐は果たす。


「スープ温め終わったよ~!」

「あ、ありがとうございます」

「来た来た! おなかペコペコだよリーデさん!」

「お待たせしました~。ささ、いっぱい食べてよ」


 今はとにかく力を付ける時だ。そう思いながら俺は、リーデロッテさんが用意してくれたスープをおいしくいただくのだった。



※―――


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