第20話 提案と野宿
空が赤く染まりかける夕方ごろに、俺たちは冒険者ギルドに帰って来た。それからエレナの問題点に関する話を、暇そうに受付カウンターで管を巻いていたバラズさんに話してみれば、
「やっぱお前、ただもんじゃねぇな」
こんなことを言われてしまった。
「見かけ通りのただの子供ですよ。ただの十歳児です。それ以外のことは必要ですか?」
「その反論自体が十歳児のすることじゃねぇって言ってんだよ。ま、お前が十歳児だろうが百歳児だろうが俺には関係ねぇけどよ」
失礼な。まだ精神年齢は25歳だぞ。そんなに老けてない。
「しかし、死にかけて危機感を覚えるってのは良い案だ。何事も経験経験。そんなこともできずに死んでく連中のことを考えなければ、まったくもっていい案だ」
「だから協力を求めてるんじゃないですか。正直、俺なんかよりもずっと頼りになる大人が必要なんですよ」
エレナの危機感をあおるために必要な死にかけ特訓。これの最大の欠点は、死にかけた上にそのまま死んでしまう可能性が高いことだ。
もちろん、そんな危険なことはしないつもりだが……何事にも例外はある。ヒヤリハットというものだ。
「お前以上に頼りになるとか何の冗談だ?」
そんなこと言われましても、異世界については10歳分の経験値しかありませんよ俺。
「ま、話は分かった。ついでに言えば、エレナが乗り気なのもな」
「ってか、なんでもっと早く言ってくれなかったのさおっちゃん!」
ちらりとバラズさんが目配せすることで、ようやく会話に入ってきたエレナは、開口一番に文句を言った。
気づいていた自分の欠点をなぜ教えてくれなかったのか。
「なんで俺がそんなことを教えなくちゃならねぇんだよ。俺はお前のお母さんじゃねぇんだぞ」
「うっ……でもでも、ギルド長として所属の冒険者によくする義務はあるはずだとおもうけど~!」
「銅等級になってから出直しな」
「うわぁあああん! リーデさぁん! おっちゃんがいじめるぅううう!!」
コテンパンに言い返された結果、向こうの方で事務をしていたリーデロッテさんの方へと涙目になって逃げて行ってしまったエレナであった。
そんなエレナを見送ってから、俺は話しを戻す。
「それで、特別に銅等級依頼にエレナを連れまわす許可と、それに同行する銀等級以上の冒険者を見繕ってほしいんですけど……」
「はいはい、わかったわかった」
うわぁ、なんだこのおっちゃん適当だな。
「ちょうどいいしリーデロッテでいいな。それと、死んじまっても俺もギルドも責任は取らねぇぞ」
「そっちには期待してないんでいいですよ。どちらかと言えば、俺一人だと守り切れるか不安だっただけですから」
「あいよ」
色々と言い合いながらも、エレナを銅等級にするための訓練をする準備は順調に進んでいった。
あとは適当な低難易度の魔物討伐依頼を選んで、装備を整えて出発するだけ。
とはいえ、もう日暮れだ。実行は明日になるだろう
そう思いながら、明日やる依頼を見繕うために掲示板へと移動する俺の背中にバラズから声がかかった。
「あ、それとユーリ。お前今日の宿はどうするんだよ」
「……あ」
完全に失念していた。
「ど、どうしよう……」
町に来たからには寝泊まりのために宿を取るべきだろうけれど、生憎と今の俺には手持ちがない。手持ちがないから冒険者になったというのに、何たる体たらく。呆れて言葉が出ないとはこのことか。
エレナのことにかまけていたから、などと言い訳するつもりはない。何しろ、さっきのスライムの依頼をほったらかしにしていなければ、ある程度の稼ぎにはなったはずなのだから。
情けない話だが、仕方ない。野宿をしよう。まあ、森での生活である程度の知識はあるから、問題はないはずだ――
「あれ、ユーリ君、今日泊まる分のお金ない感じ?」
その時、先ほど逃げ出したエレナを伴ってリーデロッテさんが話しかけてきた。
「恥ずかしながら」
「ならなら、お姉さん家に泊まってきなよ~。ちょうどいま、エレナちゃんとお泊りする話ししてたからさ」
「え”」
リーデロッテさんの家にお泊り?
「え、いや、それは、その」
「ほらほら子供が遠慮なんてしないの。こういう時は大人に甘えなさいってことよ♪」
転生前は25歳だったから俺は子供じゃないだなんて口が裂けても言えないわけで。というか言ったところで子供のたわごとにしか受け入れてくれないことは明らかで。
「あ、ユーリもお泊りするの?」
「……らしいな」
「今日は一段と楽しくなりそうでお姉さん嬉しいな~!」
結果、俺はリーデロッテさんの家にお泊りすることになったのだった――
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