第15話 一撃と一撃
期待以上だ、とバラズは思った。
「〈ライトニングブーツ〉」
魔法の発動と共にユーリの足元から迸る電撃。それは無秩序な光を放ちながらも、決して主のもとからは離れようとしない従順な魔法となって顕現している。
なんという魔力操作の技術だろうか。聞いたところによれば今年で11歳になるらしいが、その歳でここまでの魔法を使えるだなんて。
ごくり、とバラズが無意識に息を呑んだ。
(魔力量、魔力操作の精密さ、魔法発動の速度……どれをとっても一級品だ。それになによりも……被害が出ていない)
ユーリが発動した魔法をじっくりと見たバラズは、その規格外の才能に恐れおののいた。
(真に優れた魔法使いとは、自らの魔法で傷つかない魔法使いを指す。炎を使う奴が炎に炙られるなど本末転倒。水に濡れ、風に切り裂かれ、土に削られることも同様だ。しかしどうだ。小僧は足元から迸る雷に焼かれるどころか、周囲への被害も最小限に抑えているじゃねぇか)
無軌道に四方八方へと発散される〈ライトニングブーツ〉の雷であるが、それはユーリの足元から離れた瞬間に霧散して、辺りを傷つけるに至らない。しかし、その足元には立っているだけでクレーターのような跡ができている。
周囲を傷つけるような余波をすべて抑えこみ、足という一部位に全ての威力を凝縮している証拠だ。その一撃が、どれほどの威力を生むのかは計り知れない。
これを、この境地を、10歳そこらの少年が。
「興奮するじゃねぇか」
べろりと、バラズは舌なめずりをした。
「行きますよ」
「歓迎するぜ」
ユーリの声掛けと共に雷の足がバラズへと向けられる。それはまるで雷の槍。空気を切り裂く雷鳴が訓練場の端から端まで轟くよりも速く、その攻撃は完了した。
それほどの速度。それほどの威力。
「っ……!」
「さぁて、次は俺の番だ」
それほどの一撃を、バラズは片腕で受け止めていた。
素手なのに矛と盾を思わせる構えを取るバラズが前に差し出した左腕が、要塞を思わせる佇まいでユーリのすべてを受け止めていたのだ。
そして、盾の左腕に隠れた右腕には、はち切れんばかりの魔力を漲っていた。
間を置くことなく、それは解き放たれた。
「〈イラプション〉」
燃えるような魔力は火魔法の特徴。その輝きは爆発的な力の証拠。すべてを貫く矛のような拳が、ぎょっとするユーリを盛大に歓迎した。
「ちょ……!!」
「やりすぎだろバラズ!!」
火魔法〈イラプション〉の威力は絶大で、その一撃を受けたユーリは、打ち出された大砲の玉のように色々なものを巻き込みながら、訓練場の端の端まで吹き飛ばされてしまう。
その結果には、流石の観客たちも目を見開いて驚き、バラズへと詰め寄った。10歳の子供に使う魔法じゃないと、大人げないバラズの対応に批難が集まるが……ため息をついたバラズは言った。
「やりすぎ? これを見てもお前らはそう言えるのかよ」
そう言いながらバラズが見せたのは、〈ライトニングブーツ〉を受けた左腕だ。
「完全にへし折られてやがる。小僧の攻撃が、俺の守りを上回った証拠だな」
あらぬ方向へと曲がってしまった左腕を見たギャラリーたちは、更なる驚きを表情に浮かべながら、吹き飛んだユーリを見た。
今だ土煙が晴れない訓練場の一角。もちろん、ユーリの方へとギルドの救護員が駆けよっている最中である。あれほどの攻撃を受けたのだ。下手をすれば死んでしまっている――
「痛っ……反撃にしては苛烈過ぎませんかね……」
「ふっ、けろりとした顔で出てきやがって」
しかし、土煙の中からユーリは何事も無かったかのように姿を現した。その姿に大したけがは見受けられず、駆けつけた救護員もぽかんと呆けてしまっている。
もちろんそれは、観客たちも同じだ。
「さて、あいつの合格に異論がある奴はいるか? いないよな。つまりは、そういうことだ」
雷撃と剛力のぶつかり合いを見たものの中に、ユーリの実力に異を唱えるものなどいなかった。
「手続きは後になるが、まずは認めようじゃねぇか。ハドラ冒険者ギルドが長バラズの名の下に。ユーリの試験合格を」
「あ、ありがとうございます!」
こうして、ユーリは晴れて冒険者としての資格を手に入れた。
「ところで、今度は本気でやり合わねぇか? 久々にやる気になっちまった♡」
「や、やめておきましょう……俺の魔法は、人を殺すためのものじゃないですから」
顔を紅潮させて興奮するバラズの申し出を丁重にお断りしてから、精神的にも肉体的にもつかれたユーリは、その場にぱたりと倒れるように座り込むのだった。
※―――
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