第13話 観衆と懐疑


 石畳に囲まれた町の中心部にある煉瓦造りの大きな建物。剣と拳があしらわれた看板が掲げられたこの場所が、噂に聞く冒険者ギルドらしい。


 ここで行われる試験をクリアすれば、晴れて冒険者として登録され、薬草集めからドラゴン退治まで、様々な依頼を受けることができるそうだ。


「おっちゃーん!!」

「おう、帰ったかエレナ」

「帰ったかじゃないよ!! 依頼内容違い過ぎて死にかけたんだから!!」


 そんな冒険者ギルドの扉を蹴って開けたエレナは、全身で文句を表すようにして、奥に見えたカウンター席に座る筋肉質な40代半ばの男へと詰め寄る。


 なんだなんだとギルド内の人たちがエレナへと視線を集めるが、気にした様子もなく二人は話し始めた。


「生きてんじゃねぇか」

「助けてもらったからね! どこの誰! ファイターブルと四メートル近い牛の怪物を見間違えるようなバカは!」

「なに? よく生きて帰ってこれたな」

「助けてもらったからね! 感謝しかないよ!」


 猛るエリンと比べて随分と落ち着いた様子のおっちゃん。一応、エレナの話を聞いて驚いているようだけれど、表情からはあまり感じられない。驚きが顔に出ないタイプなんだろうか。


「そうかそうか。そりゃお礼を言わないとな。それで? 誰に助けてもらったんだ?」

「この子」

「……んん?」


 さて、ここで俺に話が振られる。


「どうも。エレナを助けましたユーリです」

「……こいつに助けられたのか? 四メートルはある魔物から?」

「おっちゃん失礼だよ……」


 カウンターから乗り出して俺のことを見るおっちゃんは、今度こそ目を丸くして驚いた。


 なんだか失礼な指摘をされているようにも聞こえるけれど、まあ見た目が幼いので仕方がない。ただ食い扶持の候補となる以上は、失礼なことを言われても丁寧に、だ。


「まあ、そのことはどうでもいいので、冒険者登録の手続きをしたいのですが……」

「坊主。冒険者資格は10歳からだぞ」

「……今年で11歳です」


 どうやら俺は、実年齢よりも幼く見えるらしい。それなりに年を取った後ならば誉め言葉かもしれないけれど、今言われたところで不都合の方が多い。


 背丈だ。きっと背丈が足りないのが全部悪いんだ。


「はー、見えねぇな」

「ユーリはこんななりで四メートルの魔物を人睨みで追っ払っちゃったんだからね、おっちゃん。別に嘘ついてても問題ないと思うんだけど」

「俺としては、エレナの話の方が嘘臭いんだが……」


 俺の味方になってくれるエレナ。しかし、やはりおっちゃんは疑いの目を俺に向けてくる。


「そんなに実力に気になるなら、試してくださいよ。そのための試験じゃないんですか?」


 冒険者になる為に試験があるのなら、疑わしき実力はそこで試せばいいはずだ。まっすぐとおっちゃんの目を見て俺がそう言えば、観念したかのように頭を叩いて彼は言う。


「むむ、確かにそうだな……よし、じゃあおっちゃんが直々に見てやるか」


 カウンターからのそりとおっちゃんが出れば、またもやざわりと周囲の人たちがざわめいた。


「いったい何が始まるんだ……?」


 先ほどからこちらのやり取りを伺っていたギャラリーを見れば、何か不穏なことが俺のあずかり知らぬところで動いているのは明白だ。


「うーん……まあ、ユーリなら大丈夫だと思うよ」

「エレナ。その大丈夫は全然安心できないんだが……」

「ダイジョブダイジョブ」

「エレナ!?」


 不安を助長するようにエレナが変なことを言い出したおかげで、本格的に何が起きるか不安になって来た。


 ただ。


「おい、早く来いよ」


 おそらくは何かを試すための広い場所へと移動するのであろうおっちゃんの呼ぶ声を聞いて、ええいままよと腹をくくる。


 試験をさせろと言ったのは俺だしな。鬼が出るか蛇が出るか。どちらにせよ、腹の底まで呑み下してやる。

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