第12話 草原で会話


「……みたいな感じかな。私が言えるのだと」


 町を目指して西に移動する道中で、エレナから聞いたあれこれをまとめると。


 まず、俺の居た森のある国の名前は蒼国シグルガルドというらしい。そして彼女は冒険者。聞く話によれば、冒険者とは力自慢の何でも屋のことを言うらしい。


「冒険者はね~、かっこいんだよ。剣と魔法でオークとかサイクロプスとかドラゴンとか、そう言うのをばったばったと倒してみんなに褒められる。私もそんなかっこいい冒険者になりたいんだ」


 冒険者を目指した理由を訊けば、エレナはそう答えた。


 おかげで俺の中での冒険者のイメージは、怪物に立ち向かう勇者のようなものになってしまったのだけれど、生憎とこの世界の勇者は、あの俺を殺そうとした中学生である。


 勇者コウキ。


 魔人族を排斥している張本人で、俺が復讐を誓った相手。もしもこの先も、あんなふうに魔人族を虐殺するというのなら、いずれ相対する相手だ。


 だから俺は、エレナの話を何とも言えない顔をして聞いていた。


「かくいうユーリはどうして旅してるのさ。見たところ7歳ぐらい――」

「10歳だ」

「あ、10歳なんだ。でも、どっちにしても旅をするには若すぎる気がするんだけど……」


 まあ、エレナの言わんとすることもわかる。若人が歩くには、この世界は危険すぎるからな。


「しきたりだよ。10歳になったら旅をする。ただ、まだ始まったばっかりでね。何分、右も左もわからない」


 一応、俺の身の上にはついては誤魔化した。魔人族であることはもちろん、すぐそこの森の奥で過ごしていたことや、親が死んだことなどなどの色々を。そこまで口が回るわけではないので、嘘をつくなら丸ごと隠したほうがいい。


「ああ、聞いたことある。確か……ルーサラ村だっけ?」


 おい、マジでそう言うしきたりの村があるのかよ。


「いや、俺は違う村の出身だ」

「そうなんだ」


 誤解を招く前に否定しておいて、いったん話はここで中断だ。


「っと、もうすぐ町だね」


 森から歩いて数十分。景色に溶け込むようにして遠くに見えていた町が、すぐ近くにまで迫っていた。


 それに気づいて、彼女は大げさな身振り手振りをしながら、俺のことを歓迎してくれる。


「ようこそ特に何もない草原の町ハドラへ。正真正銘なんにもないところだけど人だけはいるから。ま、ゆっくりしてってよ」


 初めての町。初めての人間。初めての人付き合い。


 異世界に来てから初めて訪れた町は何にもない場所らしいけれど、俺からしてみれば今までに見たことのなかった異国情緒広がる町だった。


 だから、好奇心に満ち溢れた声で言う。


「ゆっくりしてくつもりだよ」

「よろしい。どうせだし、町の案内もしたげる……あ、そうだ。冒険者の登録とかってしてるの?」


 ありがたいことに町の案内を申し出てくれたエレナは、思いついたようにそんなことを聞いてきた。


 生憎と俺は冒険者ではない。何分、生まれてこの方、森の外に出たことがないので。


「いや、してないが……」

「そうなんだ。なら、登録した方が色々と楽かも」

「そう言えば、冒険者と言えば働きに応じて金がもらえるんだったか。確かに、それが本当なら是非とも登録しておきたいな」


 エレナとの話では、冒険者とは魔物を倒して金を得ると聞いている。母さんに鍛えられた分、魔法の腕には自信があるからな。


 それに、金は何かと必要だ。少なくとも、家にあった金は大した額ではなかったので、旅をするには何かしらの食い扶持がいる。


 復讐を果たすためにも、やはり金銭は必要不可欠。ならばこそ、金を手にするチャンスを逃すつもりはない。


「それじゃあ、先輩としてしっかりと案内してあげようじゃないか!」


 ふふんと得意げにするエレナの案内によって、俺の冒険者ギルドへの訪問は決まったのだった。

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