第3話 友達な魔物


 転生してから一か月が経った。


「ぎゃあああ!!」

「がうがう~」


 家の近くの森の中で、今日も白い狼の魔物――名前をガルガンチュア――に追いかけられていた。


 なぜ俺がガルガンチュアに追いかけられているのかというと、理由は簡単だ。


「魔法を使ってお友達を作ろう♪」


 母さんが急に言い出したその言葉によって、俺は魔法の勉強と一緒に、前に丸のみにされかけた狼と友達にならなければいけなくなったのだ。


 まさか異世界に来てまで友達とは何なのかと考える日がこようとは。


「ガウッ、ガウッ!」

「ちょ、母さんこれ死ぬ! 死んじゃう!」

「あら~、楽しそうね」

「見て、俺死んじゃう!!」


 明らかにこちらを食べるつもりで襲ってきてるガルガンチュア。その攻撃を紙一重で躱し続ける俺が逃げきれているのは、魔法の力のおかげである。


 風魔法〈ブリーズステップ〉


 その力は走力の上昇。それに、背後の魔法を感じ取れる探知魔法を加えて何とか逃げている。


 しっかりと魔法の練習にもなっているというわけだ。


「ちょ、つ、疲れ……」


 とはいえ、疲れるものは疲れるわけで、魔法の使い過ぎで体内の魔力が無くなると、魔力切れといって魔法が使えなくなってしまう。


 それを見ていた母さんが、パンと手を叩いて言う。


「あ、魔力切れかしら? じゃあ今日はこれでおしまい~。おすわり!」

「ガウッ!」


 母さんにお座りと言われれば、すぐに俺を追いかけるのをやめておすわりした。一か月前に母さんが放ったミサイルのような業火を、今も忘れていない証拠だ。


 あれに比べれば俺の使う火魔法なんてマッチ棒の火程度のもの。相も変わらず、あの域に届く気がしない。


 魔人族というのは魔法に置いて最強の種族らしいけれど、本当なのだろうか? 母さんが特別すごいだけなんじゃないだろうか。


「よしよしいい子ね~。さ、ユーリも家に帰りましょう」

「う、うん……わかった」


 少なくとも、三メートル近い巨大な狼を子犬のようにあやしている姿を見ると、そうとしか思えない。


 でも――


「……〈ファイア〉」


 なんとなく、火を点す魔法を使って手のひらの上に火を浮かべて、嬉しそうに俺は笑う。


 なんとなくだけれど、楽しいのだ。


 魔法が使えるこの世界が楽しいから、文句を言いながらも俺は魔法の勉強をしている。


 できないことができるようになる。地球では空想でしかなかった魔法が使えることの、なんとワクワクすることだろうか。


 母さんのように極められるとは思わないけれど。


 行けるところまで行ってみようと、俺は思った。


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