第17話 自分との決別

奴はもういないだろう。殺し損ねたが、次また奴にあって殺してやる。俺はそう決意し残党狩りをした。


「ま...まって...」

「やめてくれ!!こんなとこで...!」

「いやだ...お母さん....」


ごちゃごちゃうるさい奴らを殺し続けて、ようやくあたりが静かになった。一体今日だけで何人殺しただろうか。


「はぁ....」




「ほぉ?ここまでグチャグチャになるとはな。お前結構強い方か。」



何だこいつ?見た事がない。魔力も探知出来なかったし、こいつはただの雑魚じゃなさそうだ。どっちにしろ殺すが。


奴の首を叩き切ろうとしたが、片手で押さえられた。びくとも動かない。


「威圧はいいな。俺を目の前にしても震えないとはな、ガキ?」

「殺すから黙ってろ。」

「フン!やってみな!!」


剣から手を離し至近距離で炎を放射する。相当な火力だが、奴は笑って耐えていた。


「ハハハ!まぁ、及第点と言ったところか。さあ耐えてみろ!!」


奴からの右フック。俺は避けたが奴の二発目は少し頬を掠った。相当な速さとパワーだ。当たったら死ぬかもな。


「これくらいは小手調べだ。避けて当然。次はもっとヤバいの行くぞ!」


言葉通り、奴はギアを上げて来た。明らかにスピードが上がり手数も多くなっている。俺は避けきれずガードしたがそのまま吹き飛ばされ体勢を崩された。


「しまっ...!!」

「フン!じゃぁ耐えろよ!!」


お腹から嫌な音が聞こえた。骨が砕ける音。内臓が破裂した音。その音の通りに俺のお腹の中はそうなっているんだろう。


「がっ....くそ....」

「ヨシ、生きてんな。たくっ、何で俺が生け取りなんかをするハメにな...」


クソ、意識が...こんな所で...


「まぁ、久しぶりに楽しめたしな。今回は目を瞑るとするか。」


____________________


あれから数日、レインはいなくなり行方不明とされた。実際戻っても懲罰はあるだろうし仕方ないがレインは生きているのだろうか?それだけが不安で最近は何も手につかない。


「はぁ...こんなの食ったってな...」


俺たちの国は完全に実力社会だ。俺はカンヘル部隊に入っているからそこそこ良い物を食べれる。あと武器も良い物をくれる。とは言っても今は食欲がないが...


「レイン君のことは分かる。でも今は何か食べないと。」

「ええ...分かっています。」


食べる、というより胃の中に押し込む方が正しいと言ったとこか。無理矢理口の中に食べ物を押し込み水で流し込む。こうでもしないと食べれない。その繰り返し。


「はぁ...ようやく食えたな。」


自分でもこれほど食べれないのは驚いた。やっぱりあいつの事が心配だ。だが痕跡が無いから探すとしても無理だ。


「次の戦場はどこですか?」


俺はモヤモヤした気持ちを一度リセットする為に次の戦場の場所を聞いた。


「ああ、マラサだ。」


マラサ。あそこは俺たちが攻めている国オーガスに近い。となれば相当な戦いになりそうだな。それにあそこは一つの町が基地に変わったと言われてる。となれば攻めるのは難しいだろうな。


「まぁ、分かりました」

「行くまでに準備してくれ。あ、あとカンヘル部隊に一時的だが処刑者が入る事になった。」


奴が?となれば次の戦場にも来るのか。楽が出来ればいいが...


____________________


これで何日目だ?あいつがこのガキを連れて来て4、5日は立ったはずだ。なのにこいつは何も吐きやしねぇ。今は水に沈めてるが...効果は無さそうだな。


「はぁ....はぁ....」

「さっさと吐けってんだよ!!」

「もういい、どけ。」


クソが、面倒なんだよガキの癖に。


「なぁ、何でお前何も吐かないんだよ?こっちは国から命令されて、仕事とはいえ金が掛かってんのよ?はぁ....」


八つ当たりに奴の腹を蹴り上げた。ま、これで吐いてくれるのはゲロだけだ。


「うぐっ...」


これまでどれだけの拷問をしたことか?最初は爪とか手とか折って回復魔法を混じりつつやったが無意味。これで2日は無駄になった。


これがダメならちょっと性癖がアレな奴に送ってみた。それでも無理だったからもっとヤバく大人数でさせたがこれも無理。


薬も、快楽も、痛みも、苦しみも全部無理。はぁ、お手上げといった所か。もはやコイツはただの人形だ。


「あのー?失礼しても良いですか?」

「あ?いいぞ。」


そこにいたのは白いローブを着た変な女だった。俺のカンが言っているがこいつは相当なヤバい奴と見た。


「拷問で困ってるのなら、私に彼をくれませんか?」


こいつにか...まぁ...うーん...やっぱ金が多いからな。


「お断りだ。こっちは国から言われてんだ。」

「まぁ、そう言いますよね。ですから...私はちょっとしたプレゼントを用意しました。」


そう言って渡されたのは両手サイズの袋だった。その中身は金貨だった。明らかに今回の仕事よりも多い金だ。


「お...おいおいマジかよ!」


例えばの話だ。今回の仕事の金は数カ月は贅沢しても困らないぐらいだ。高めのレストランや別の国に亡命できるぐらいのな。


たが渡された金貨はそれ以上だ。レストラン、亡命も難なくできる。なんなら釣りだってできる。


「ああ、良いぜ。持ってけ」

「どうも、ありがとうございます!」


ヤバい奴かと思ったが案外良い奴だったな。これだけありゃあ何すんのも困っちまうな。とりあえず飯でも食いにいくか。


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