第一章 世界樹の写し木 第7話

 ソラ達はひとまず匂い消しの薬を自身に振りかけ、1度休みをとることにした。手元の腰元に下げている時計を確認するとダンジョン内に入ってから40時間が経過しているのが分かった。


 「40時間もぶっ続けで活動できるなんて相棒も成長したよな。」


 しみじみとした口調が右手から響いてくる。


「一体いつのころの話をしてるんだよ。今なら魔技の技術も上がったし、多分72時間は問題ないぞ。」


 魔力を使った技術には魔術だけではなく魔技と呼ばれる、魔力操作による技術が存在する。緻密な操作を求められるが、それにより肉体強度を底上げし、長時間の活動や逃走劇を繰り広げることが可能となる。


「いいや。それは盛ってるね。その雑な魔力操作じゃ良くて60時間だろ。」


「うるさいわ。」


 ちなみに世界は広く、魔技を極めた物は不眠不休で1ヵ月近く活動できるものや、腕の一振りで山を吹き飛ばすような猛者も存在するという。


 床に座り込んだまま地面に手を当てると、周囲が淡い緑の光を放ち、先ほど同様に急成長していった植物がログハウスのような形状へと形を変えていった。

 

 先ほど使用した術式はアムドゥシアスの能力全てを一時的に使用することができる魔術である。アムドゥシアスの本体は真っ白な毛並みに黄金の角をもった一角獣ユニコーンの姿をした音楽好きの悪魔であるが、その能力は風、雷、樹木の操作と多岐に渡る能力を持っている。

 今回のような樹木が媒体となっているダンジョンにおいては、ダンジョンの構造そのものにまで干渉できる能力であるが、あくまで権能譲渡で本体の顕現ではないため、そこまでの術式出力は確保できない。


「ひとまずはこの中で休憩して、ちょっとこのダンジョンの難易度が想像以上に高そうだから作戦会議といこう。」


 ログハウス内の椅子に腰かけながら相談を始める。全体的に木材で構成されているが、椅子やベットといった体を休める箇所には綿毛のクッションがセットになっており、なかなかに居心地は良さそうな内装である。


「たしかに当初予定していた。危険度 6 のレベルのダンジョンじゃないな。後半に向けて難易度は上がるだろうし、多分相棒が本気でやって攻略できるかどうかって感じだから、危険度 8 くらいはあるんじゃないか?」


「俺の見立てもそのくらい。世界樹本体が持つダンジョンが危険度が 7 だから見誤ったけど、多分ダンジョン自体の難易度はこっちのほうが上だろうね。」


 ダンジョンには魔導書院の探求課が定める 1 から 10 の危険度が存在し、攻略の基準となるよう魔導司書自体にもランクがつけられる。

 相性により前後するが基本的にランクと同等の危険度が攻略の目安となっており、ソラのランクは 8 である。このランクは全体でも上位に位置付けられており、上級探求者と呼ばれるランクである。また 9 と 10 は人類卒業と呼ばれており、世界に数人しか存在していない。

 

「じゃあどうする? 帰還石もあるし一旦引くか?」


「正直悩むな。ラウンドタイプ自体は相性いいし、この階層はハングリーアントの物量がメインだから、嬢王のところまで辿りつければ一階層同様に処理できるし。

 ただ今いるのが二階層の序盤だから、ボス部屋までの遭遇率によっては消耗して力尽きるだろうな。そもそもラウンドタイプのダンジョンなのに、眷属を召喚できる魔物が配置されるのはズルいだろ」


 ソラは力尽きて蟻たちの餌になる絵を想像して少し憂鬱になる。


「最悪の場合でも、いつものやつのクールタイムは済んでるし、行けるところまで挑戦するのもいいと思うけどな。」


「あれはあれでキツイから避けたい。」


「この根性なしが。」


「はいはい、どうせ根性なし……何か聞こえない?」


 正面から木々を無理矢理引き千切るかのような音が聞こえてくる。

 神妙な顔をしながら正面を見据えていると、ひときわ大きな音が鳴り響き、黒く大きな顎と赤い瞳が特徴の巨大な蟻の顔が視界に入ってきた。


「鬼ごっこのやりなおしか?」


 茶化したように右手から声が上がってくる。


「勘弁してくれよ。」


 ソラは大きくため息を付きながら椅子から立ち上がるのだった。










 

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