好敵手、または運命
大統領の正面に座る。残りの車両にはSPが控えており、さらに装甲車が前後を挟んで鋭い監視の目を光らせ、軍人が警備を固めている。
「今回は、声を引き受けてくださり有難う。物騒な手紙が来たものでね、念には念を入れてというわけだ。杞憂だと思うがね」
熱量のある女性だ。彼女の制作は女性の保護に重視している。その為、右派と左派との対立は根深いようでSNS上で両陣営共に結集を呼びかけているようだ。
「そのための我々です。しかし、今日はやけに人が多いようですが?」
窓からはプラカードを突き上げる群衆が見える。
「今日は、二年目の所信表明演説なんだ。確かにこの国は先進国ではない。正直に言えば、人権意識も低いかもしれん。だが、今は理解されずとも、必ずこの国は良い国となれる。だから今日も国民に道を示さなければ⋯⋯」
急に車列が停止した。前を見やると、誰かが一人佇んでいた。。
「あれは、強化外骨格、いえ、BS⋯⋯」
装甲車から五人、警備員が降りてくる。
「おい、貴様何をしている。そこを退いてもらおうか」
黒豹を模したバイザーが格納され、素顔が晒される。可憐な顔をした女だった。
「うふふ、それは無理な相談ですわ。わたくし、大統領様を誘拐せねばなりませんの」
警備員が大笑いしながらサイボーグを囲む。その間も不適な笑みは絶やさない。私は、何故か彼女から目が離せなくなった。あの眼は、人斬りの目だった。
「いや、待て。その女には見覚えがる。J、そいつ、刀持ってねぇか?」
八雲に言われた通り腰を見てみる。間違いない、日本刀だ。
「あれは間違いなく日本刀だ。しかもかなり仕事がいい。お前以上かもな」
「へっ!馬鹿言え、アタシは世界一の刀鍛冶になる女だぜ。本題に入るが、あの女、新陰流本家の当主の真道 テイラーで違いねぇ。スゲェな、本物かよ⋯⋯」
初の技量だけで新陰流の正統後継者となったものの、チャリティで訪れていたアフガニスタンで対人地雷を踏み、右腕を肩から丸ごと抉り取られ、表の世界から消えていた。
「遊んでやるよお嬢ちゃん、はあああッッッッッ!」
無業にも正面から切り掛かる。そう、彼女はこんな場所にいるはずはない。誰もがそう思っていた。
「⋯⋯遅すぎて話になりませんわ。新世界秩序の錆となりなさいな」
最小限の動きで刀を抜き、振り下ろし、ゆっくりと納刀した。彼女は、学生時代の競技では、一歩動けば必ず一本を取っていた。美しさ、妖艶さまで漂う所作だった。
「へへへ、素振りなら裏、で⋯⋯」
ずるりと体がズレる。右上から袈裟斬りになっていた。戦闘開始の合図だった。一斉に切り掛かる警備員を背に動き出す。
「まずい!この場を離れろJ、チョウ、方向転換急げ!」
「はい!大統領掴まってください。八雲!迂回ルートを早く送って!」
車列ごと向きを変えて裏路地へと移動する。すぐに理解した。私たちは誘い込まれていた。新たにサイボーグが三人現れた。三者三様だったがローブで姿が見えない。
「⋯⋯分かったぞ、其奴らはイモータルサバイバーを名乗るテロリスト集団だ。陣営を問わず各国の紛争に介入しているらしい。なぜ奴等がここに?」
中央にいる大柄のサイボーグがこちらに一歩踏み出してきた。
「こちら警備隊!このままじゃ全滅、ぎゃああああああ!」
「け、警備隊はもうやられたっていうの?足止めにもならないじゃない!」
もう一度切り返してエンジン全開。だが、車体は動かない。正面に細身のサイボーグが立っていて、チーターのような構造の細い片足でこのエンジンを押さえつけていた。ありえない。足指でグリップできるようにチューンナップされている。
「マズい!動きが全く見えなかった⋯⋯」
大柄な一名が両腕を大きく開いた。腕と呼ぶには、あまりにも大きすぎた。ゴリラのように、異様に腕部全体が大きい。そして勢いよく閉じる。護衛車両が突っ込んでくるのが見える。同時に咄嗟に大統領の体に覆い被さる。
手拍子の要領で手が打ち鳴らされる。尋常ではない衝撃波が巻き起こる。車両が吹き飛ばされ縦方向に回転しながら地面を転がりひっくり返った。
その衝撃に耐え切れるはずもなく、意識を失った。
「おい、しっかりしろJ!どうした、何があった!ジェイ!ジェェェェェイ!!!!」
同時刻、イモータルサバイバーが突如、全世界へ向け声明を発表した。
「我らはイモータルサバイバー、滅び得ぬ生存者である。現在、完全なる平等は戦場においてのみ成り立っている。その死合の中にこそ、思惑も、打算も、血の通わぬシステムも、市場の力学の介在することもない、完全な自由がある。我らは理不尽の生存者。この世界のあらゆる者たちへ、闘争による、新世界秩序を与える者なり!」
新世紀の歌舞伎者が、世界を揺るがす大立ち回りを演じることを誰が予想していただろうか。
Lilycal SAMURAI Braid 鬱崎ヱメル @emeru442
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