Lilycal SAMURAI Braid

鬱崎ヱメル

チャプター1 新世界秩序

 西暦2045年。ヨーロッパで起こった大国、露と宇克蘭との戦争は戦術核をチラつかせた一方的な蹂躙という狂気の一手により終焉を迎えた。

 力による現状変更は、アジアの巨大国家にも想定外であり、次のターゲットは自分達ではという不審を生み、皮肉なことに、不可能と言われていたアジア圏の結束という夢物語を現実の物とした。

 戦術核攻撃から三ヶ月後、インド太平洋アジア経済防衛圏、 IAEDA(India-Asia Economic Defense Area)が発足。打算と企みによる結束であったが集積回路と経済力の結びつきはIT、機械製造、医療、AIにおける技術革新を促し、人間の「サイボーグ化」を一気に加速させることとなった。

 元々はなんらかの理由で肉体の一部を無くした人々への義手、損なった臓器の置換、全身性の遺伝子疾患患者への全身機械化など、障害を負った人々ための治療が目的で作られた技術であったサイボーグ化だったが、早急な進化に法律整備が追いつく筈もなく、軍事転用され、際限なく進化。

 サイボーグにとって最も重要な電脳化技術を開発したのは、かつて日本と呼ばれた国「ニュージャパン」であった。ニュージャパンは、六割が国外からやってきた労働者である。

 台湾、インド、東南アジア、中国、韓国の労働者、技術者、政治家、そして、サイボーグ化医師を受け入れ、多民族国家にならざるを得なかった。

 ニュージャパンは電脳化技術を積極的に売り出し、その技術を一般に流布。基盤技術である脳を握ったこの国もまた爆発的短期間成長、バブルの誘惑に負け、サイボーグ化技術の量産体系を確立させ、どんな目的を持っている人間であれ、金を積むならば関係なく顧客になることができた。

 全世界へ、弱者を救うはずだった筈の夢の技術を、利益を産むがために資本主義という貪食なモンスターへと売り払ったのである。

 そして、あっという間に技術が拡散し、ニュージャパンによって作り上げられてしまった軍用サイバネテック強化処置がIAEDA正規軍の標準装備として採用される事となった。

 正式採用に伴いアジア各国で、サイボーグ開発競争が激化。倫理観の軽視、飽くなき人間の欲望、トドメに自国優先主義の更なる拡大によりIAEDAは発足から六年で形骸化し、加盟国は力を誇示し続ける露と接近する国家と、アジア海(航路の確保のためインド洋から日本海、オーストラリアを含む一体を一つの「洋」と定めた新しい公海の意)側国家に分たれた。

 しかし、機械化が引き起こすものは軍産複合体の拡大だった。彼らには「良心」などと言う人間的感情は存在しない。被人道的な経営をする企業が成長して行くのは自明の理であろう。

 軍用サイバネテック技術は、小国であっても大国に十分対抗できるほどの戦力を得ることが可能であり、支配から脱するための反逆の兵器でもあった。

 火種は燻り始めていた。得た力に溺れ道を踏み外す者も多い。だが一部には自らを高め、律し、鍛える猛者もいるのだとか。

 サイボーグの作り方がばら撒かれた結果、内戦や小競り合い、ギャング同士の抗争など、戦場が街中に現れることとなり、目を付けた、米最奥手のサイバーアームズ社が企業PMCを設立。自社でサイボーグを作り出し、PMCを派遣し稼ぐ。

 全く新しいモデルケースであったサイバーアームズ社の事業方針は「国」の注目を引き、米は真っ先に国策として推し進めるとの方針を打ち出した。


 そして、PMCは、数多の国家の主たる産業となった。


 外貨獲得、国家経済に及ぼす影響力は上昇。あの専守防衛の某国でさえ「経済のための戦争は、民主国家が生き残るために必要である」と言う経済理論が世論の主たる言説となってしまった。そう、人類の欲望は、「戦争」にすら、商品としての価値を見出したのだ。


 新冷戦と呼ばれる時代の幕開けである。


────


「降下地点に接近した。今回の護衛対象は小国の女性大統領だ。ただ公用車に相乗りして官邸に運ぶだけの簡単な仕事だが、気を抜かずに行け。分かったな、Jウルフ」


 脳内通信でクイーンからのブリーフィングを聞きながら、腕部の運動機能のチェックと脳波への動機速度の再チェックを行う。

「了解した。まずは単独で降下し車列に合流。その後は臨機応変に対応か」

 BS(ビーストスーツの略)を装着する。動物をモチーフにした強化外骨格で、言うなれば武士が身につけていた鎧兜である。

 Jウルフ、彼女は「リリカルセキュリティ社」に所属するサイボーグである。主兵装は高周波日本刀で、新陰流の流れを汲む、我流のサイバー新陰流を使用する。

 Jウルフというコードネームの由来は、絶滅したジャパニーズウルフ。噂によると自爆テロにより両親と右腕を失っており、その復讐として刀を振るっているらしいというのが定説である。

 西暦2045年。ヨーロッパで起こった大国、露と宇克蘭との戦争は戦術核をチラつかせた一方的な蹂躙という狂気の一手により終焉を迎えた。

 力による現状変更は、アジアの巨大国家にも想定外であり、次のターゲットは自分達ではという不審を生み、皮肉なことにアジア圏の結束という夢物語を現実の物とした。

 戦術核攻撃から三ヶ月後、インド太平洋アジア経済防衛圏、 IAEDA(India-Asia Economic Defense Area)が発足。打算と企みによる結束であったが集積回路と経済力の結びつきはIT、機械製造、医療、AIにおける技術革新を促し、人間の「サイボーグ化」を一気に加速させることとなった。

 元々はなんらかの理由で肉体の一部を無くした人々への義手、損なった臓器の置換、全身性の遺伝子疾患患者への全身機械化など、障害を負った人々ための治療が目的で作られた技術であったサイボーグ化だったが、早急な進化に法律整備が追いつく筈もなく、軍事転用され、際限なく進化。

 サイボーグにとって最も重要な電脳化技術を開発したのは、かつて日本と呼ばれた国「ニュージャパン」であった。ニュージャパンは、六割が国外からやってきた労働者である。

 台湾、インド、東南アジア、中国、韓国の労働者、技術者、政治家、そして、サイボーグ化医師を受け入れ、多民族国家にならざるを得なかった。

 ニュージャパンは電脳化技術を積極的に売り出し、その技術を一般に流布。基盤技術である脳を握ったこの国もまた爆発的短期間成長、バブルの誘惑に負け、サイボーグ化技術の量産体系を確立させ全世界へ売り渡したのだ。

 そして、ニュージャパンで作り上げられた、軍用サイバネテック強化処置が兵士IAEDA正規軍の正式装備となった。

 それに伴いアジア各国で、サイボーグ開発競争がさらに激化。倫理観の軽視、飽くなき人間の欲望、トドメに自国優先主義の更なる拡大によりIAEDAは発足から十年で形骸化。

 加盟国は東側の国家とアジア海(航路の確保のためインド洋から日本海、オーストラリアを含む一体を一つの「洋」と定めた新しい公海の意)側国家に分たれた。

 しかし機械化が引き起こすものは軍産複合体の拡大だった。彼らには「良心」などと言う人間的感情は存在しない。被人道的なリストラ、

 PMCは、国家の主たる産業となり、外貨獲得、国家経済に及ぼす影響力は上昇。あの専守防衛の某国でさえ「経済のための戦争は、民主国家が生き残るために必要である」と言う経済理論が世論の主たる言説となってしまった。そう、人類の欲望は、「戦争」にすら、商品としての価値を見出したのだ。


 経済開拓戦争と呼ばれる時代の幕開けである。


────


「降下地点に接近。今回の護衛対象は小国ウガンダの女性大統領だ。ただ公用車に相乗りして官邸に運ぶだけの簡単な仕事だが、気を抜かずに行け。分かったな、Jウルフ」


 脳内通信でクイーンからのブリーフィングを聞きながら、腕部の運動機能のチェックと脳波への動機速度の再チェックを行う。

「あぁ、了解した。まずは単独で降下し車列に合流。その後は臨機応変に対応か」

 BS(ビーストスーツの略)を装着する。動物をモチーフにした軽量だが強固な強化外骨格で、言うなれば武士が身につけていた鎧兜である。体格を隠し性差さえないものとする技術だ。

 元は戦場で負傷した傷痍軍人や、事故で傷害を負ったり

 Jウルフ、彼女は「リリカルセキュリティ社」に所属するサイボーグである。主兵装は高周波日本刀で、新陰流の流れを汲む、我流の「サイバー新陰流」を使用する。

 Jウルフというコードネームの由来は、絶滅したジャパニーズウルフ。噂によると自爆テロにより両親を失っており、その復讐として刀を振るっているらしいというのが定説である。

 略されてJと呼ばれる。身長は百七十センチメートル。銀髪の短髪。かなりの筋肉質で趣味はウエイトトレーニングである。

「そうそう、女性大統領のことだけど、国内では人気があるみたい。42歳、2時の母だそうよ。でもかなり革新的な人ね、女性専用地区の整備事業は右派の連中にはウケが悪いみたい」

 オペレーターのチョウ。チャイニーズの母、アメリカ人父を持つが中国語を一切話せない。髪型は長い金髪を結んだポニーテールだ。

「革命家は得てして嫌われるんだよ、はぁ、面倒だよな社会ってのは⋯⋯」

 モニタ室に作業着で居座っているこいつは、高周波日本刀を打った刀鍛冶の八雲 刀剣。女性初の免許皆伝の腕利き。言動は粗暴で、ファッション、丁寧な暮らしとは無縁のズボラ女だ。

 街中で急に「なぁアンタ、刀打ってやるよ」と声をかけられ、勝手に専属の刀鍛冶に収まっているという変人だ。

 何故か今は刀剣と軍事アナリストもやっている。

「現地の情報筋によれば、大統領に殺害予告が来ているらしい。そんなバカな真似はしねぇだろうが、少々面倒なことになりそうだ」

 クイーンが作戦開始を告げる為にやってきた。

「VIPの護衛だ。粗相のないように。だが死ぬなよ、売上にも差し支える。しっかりな⋯⋯」

 降下地点に到着。通信装置、感度良好、機体の姿勢制御問題なし。コードネームJウルフ、降下準備完了、ハッチオープン。熱風が吹き込み砂塵が舞う。カタパルトから打ち出される。

「大袈裟なんじゃないですかい?ただの護衛ですぜ」

「コーヒーの分量をしくじってカフェオレが不味い。何だか嫌な予感がしてきた」

 空中の姿勢制御も問題なし。無事に着地成功。すると目の前に車列が現れ、ゆっくりと停止。残りのメンバーと合流し、運転手をチョウが勤める。八雲とクイーンは上空でバックアップを行う。


 準備は完了。あとは仕事をこなすだけだと思っていた。だが今日、俺の運命を変える女と出会う事になるとは、まだ知る由もないことだった。



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