第04話 現行犯逮捕

 ……人生初、警察官に囲まれる。

 揃いも揃った、いかつい顔のおじさんたち。

 これっていわゆる職質……職務質問?


「容疑者確保。15時7分、聖域不法侵入容疑で現行犯逮捕」


 ──ガチャン!


 あ……両手に手錠はめられた。

 職質じゃなくって逮捕、これ……。

 手錠って、かなり重たいんだ……なんて思ってる場合じゃなくって。

 終わった……いろいろ。

 家族へ迷惑かけないよう、思い直していたところだったのに……。


「おまえ、鞄の中を調べろ。この年頃の娘は、ひょんなことで自殺に走りやすい。首吊り用のロープなどがあるかもしれん」


「はっ! ただちに!」


「生命の象徴たる世界樹での自殺は、未遂であっても重罪だからなぁ?」


 重罪……。

 うううぅ……バッグにはがっつり、ロープ入ってます。

 そう言えば世界樹様、と言ってた。

 自分で自分を殺める……。

 それって、自然の中では起こらないこと。

 人間だけが抱えている罪。

 自然から外れている行い……それはやはり、重罪なのかもしれない。


「警部補! 鞄の中には、花輪が一つだけですっ!」


 えっ……花輪?

 麻縄じゃ…………なくって?


「花輪だとぉ?」


「はい、これです。他にはなにもありません!」


 本当……警察官が持っているの、緑の細い茎を束ねて作った花輪。

 ところどころに、小さな白い花が咲いてる。

 でも、圧し潰されたようにぺちゃんこになってて、茎のところどころから汁が漏れてて、不格好な花輪……。

 ……………………。


「……あっ!?」


 わたし……バッグを敷き物代わりにして座った!

 そのときすでに、麻縄が花輪になっていたんだわ!

 世界樹様がきっと……霊力で枯れた植物を蘇らせたっ!

 なんだかんだ言いながら……。

 腰を下ろしたときにはもう、世界樹様は自殺を止めてくれていたんだわ!

 あ、ありがとう……ございます……。

 わたしもう、自殺なんて考えません……。


「ふん……自殺ではなかったか。だが娘、世界樹周辺での植物採集もまた重罪だぞ!」


「いっ……いえ! その縄……じゃなくって花輪は、自宅から持ってきたものなんですっ!」


 縄は家から持ってきてるから……決して嘘じゃない。

 せっかく世界樹様が、自殺を止めてくれたのに……。

 せっかく生きようって思い直したのに……。

 ここで犯罪者になったら、やっぱり家族に迷惑かけてしまう。

 世間の誹謗中傷も……もっと酷くなるっ!


「ここらで摘んでいませんっ! 本当ですっ! 信じてくださいっ!」


「言い訳は署で聞く! さあ来いっ!」


 ──ぐいっ!


 っ……!

 肌へ食い込むほどに手錠引っ張られてるっ!

 痛い痛い痛いっ!

 世界樹様……助けて……。

 もう一度だけ……わたしを…………助けてっ!


「世界樹様ああぁああーっ!」


『ふううぅ……』


「……えっ?」


 世界樹様の声色を滲ませた、大きな溜め息。

 空いっぱいに広がった、大きな大きな溜め息。

 世界樹のあちこちから、小鳥たちが驚いたように飛び立った。

 不思議な溜め息を耳にして、警察官たちの足が止まった。

 ううん……きっと。

 いまの溜め息、街中の人たちが……聞いた────。

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