【声劇台本】レオン・ロー探偵社の事件簿 ~九龍発探偵活劇エクスプレス~(アークホルダー・フラグメントレコード Ⅱ)

家楡アオ

第1話『逃避行ランデブー』(♂:♀:不問=4:4:0)

【台本名】

 アークホルダー・フラグメントレコード

 Fragement.02 レオン・ロー探偵社の事件簿 ~九龍発探偵活劇エクスプレス~

 第1話 副題:『逃避行ランデブー』

 ※テスト前台本です。


【作品情報】

 脚本:家楡アオ

 所要時間:**~**分

 人数比率 男性:女性:不問=4:4:0(総勢:8名)


【登場人物】

 レオン・ロー(羅 仕龍) / Leon Lo

  性別:男性、年齢:??(声の年齢は30~40代)、台本表記:レオン

  <Overview>

   リューネブルク連合王国領九龍クーロン半島の首都『中環セントラル』に探偵事務所

   を営む私立探偵であり、古代人種のひとつ半人半龍の『龍人りゅうじん族』

   の数少ない生き残り。 

   のらりくらりと掴みどころがなく、まるっきり昼行燈ひるあんどんに見える

   印象を与えるが、一方で追跡・偽装・交渉・推理など探偵として

   基本スキルは全て高いレベルの持ち主。


 アンジェリカ・リー(李 心潔) / Angelica Lee

  性別:女性、年齢:20代、台本表記:アンジェリカ

  <Overview>

   『龍頭商会ドラゴンヘッド・ソサエティ』頭領である龍頭ドラゴンヘッドの孫娘で、王立九龍クーロン警察公安局

   刑事部所属の警察官。階級は督察長ていさつちょう(日本警察の『警部』に相当する)

   正義感が強く規律を重んじる性格ではあるも、必要と感じたら柔軟に

   対応することが出来る。古代人種『龍人りゅうじん族』の血を引くも、ヒトである

   成分が多く、龍の成分として頭に龍のツノがある程度。

   〝ある大物人物の贈賄ぞうしゅう疑惑〟を調査をしている時に〝重要な証拠〟を

   掴んだことで殺人の冤罪えんざいをかけられる。


 龍頭(ドラゴン・ヘッド) / Dragon-Head

  性別:男性、年齢:??(声の年齢は30~40代)、台本表記:龍頭

  <Overview>

   九龍クーロン半島最大の黒社会組織『龍頭商会ドラゴンヘッド・ソサイエティ』の頭領とうりょうであり、

   アンジェリカの祖父。

   普段は堅苦しさの無い明るく豪快な人物であり、部下だけじゃなく彼を慕う

   市民たちも一定数存在する。

   一方でおきてを破る者や敵対者に対しては身内であろうと徹底的に叩き潰す。


 サクヤ・ツクヨミ(月詠 咲耶) / Sakuya Tsukuyomi

  性別:女性、年齢:10代後半、台本表記:サクヤ

  <Overview>

   レオン・ロー探偵社の助手1号で、極東国家『サクラ國』出身の剣士。

   常に張りついたような笑みを浮かべており、何を考えているのかが

   全く読めない。

   雇い主であるレオンに対して容赦ない対応をし、マイペースで戦闘狂。


 シャーリィー・チャン(林 青霞) / Shirley Chang

  性別:女性、年齢:20代前半、台本表記:シャーリィー

  <Overview>

   レオン・ロー探偵社の助手2号で、明るく振舞うムードメーカー。

   相棒であるサクヤに振り回されることが多いが、自身も暴走する事がある。

   銃器の扱いが得意であり、スコープなしで遠くの標的を打ち抜くこと可能。

   瘴気しょうき被曝ひばく者である。


 紅棍(ホングン) / Red-Pole

  性別:男性、年齢:20代前半、台本表記:紅棍

  <Overview>

   『龍頭商会ドラゴンヘッド・ソサイエティ』の最高幹部のひとりで、強引で軽い性格の青年。

   元孤児であり、龍頭に拾われたこともあり、アンジェリカとは

   幼馴染の間柄で、彼女のことを『お嬢』と呼ぶ。


 草蛙(チャオハイ) / Grasshopper

  性別:女性、年齢:20代前半、台本表記:草蛙

  <Overview>

   『龍頭商会ドラゴンヘッド・ソサイエティ』の最高幹部のひとりで、理知的で堅物な性格の持ち主。

   頭脳明晰であり、かつてはアンジェリカの家庭教師をしていた。

   性格が正反対の紅棍とは喧嘩する事が多いが、戦闘になると

   絶大なコンビネーションを発揮する。

   なお女性ではあるも男装しており、巷では「男装の麗人」で人気がある。


 白紙扇(バックジーシン) / Schemer

  性別:男性、年齢:20代前半、台本表記:白紙扇

  <Overview>

   『龍頭商会ドラゴンヘッド・ソサイエティ』の最高のひとりで、持ち前の頭脳の高さから

   作戦立案などの参謀的な役割を担う。

   インテリであるが卑怯そのもので、同じ幹部である紅棍ホングンとは

   お互い殺してやりたい程に忌み嫌い合っている。


 ケリー・ウォン(黄 美秀) / Kelly Wong

  性別:女性、年齢:20代後半~30代、台本表記:ケリー

  <Overview>

   九龍クーロン半島の大企業『国際東洋開発集団インターナショナル・オリエンタル・ホールディングス』の

   都市開発部部長を務める女性。

   秀麗な雰囲気を醸し出すこともあるがそれは表面で、

   ヒトを痛めつける事に快感を覚える人格破綻者。


《兼ね役一覧》

 ヤン:王立九龍警察公安局刑事部副部長、アンジェリカ逮捕の

    陣頭指揮を担う。名前は『アルバート・ヤン(楊 霆鋒)』

 九龍総督:リューネブルク王国領九龍クーロン半島総督府そうとくふのトップ。

      名前は『アレキサンダー・エリオット』 

 王立警察官①

 王立警察官②

 商会構成員



【用語説明(簡易版)】

 『アーク鉱石』……莫大ばくだいなエネルギーを持つ不思議な物質で、人体に

          有害となる瘴気しょうきを放つ。

 『アーク瘴気』……アーク鉱石から放たれる瘴気しょうきで、瘴気しょうきさらされた

          ヒトを『被曝者ひばくしゃ』と呼ぶ。

 『アーク・ホルダー』……『アーク瘴気しょうき』への耐性と特殊な能力を持つ存在。


※詳細な設定資料は下記Link参照をお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/16818093073231929525


【台本・配役テンプレート】

 台本名;

  アークホルダー・フラグメントレコード

  Fragement.02 レオン・ロー探偵社の事件簿 ~九龍紛争活劇エクスプレス~

  第1話『逃避行ランデブー』

  URL 


 <配役>

  レオン・ロー:

  アンジェリカ・リー:

  龍頭(ドラゴン・ヘッド):

  月詠 咲弥:

  シャーリィー・チャン / ケリー・ウォン:

  紅棍:

  草蛙:

  白紙扇:

  


※配役検索に役立ててください。


☆:レオン、N②

●:アンジェリカ

□:龍頭、九龍総督

△:サクヤ

◇:シャーリィー、王立警察官②、ケリー

▽:紅棍、王立警察官①、商会構成員

◎:草蛙、N①

▲:白紙扇、ヤン

――――――――――――――――――――――――――――――――――


【0】


☆レオン:――んっ? あっ、どうも、ハジメマシテ~

     ワタクシ、私立探偵のレオン・ローと申します。

     以後、よろしくお願いします。

     浮気調査に、隣人トラブル、失せ物の捜索そうさくに果ては

     飼い犬の散歩などなど……どんなご依頼でもお引き受けいたします。

     えっ? 最後のは探偵たんていとは関係ないって?

     ……探偵稼業たんていかぎょうのみではやっていけないのが現状なのですよ。

     それに地元の皆々様みなみなさまにはおんを売っておくことで、いざという時に

     とても助けられることがありますからねぇ……

     あっ、ちなみに世間様をさわがすような事件の捜査そうさは致しませんよ?

     それは警察の仕事なので。

     えっ? シャーロ――ああっ、王国で大人気の探偵たんてい小説の主人公ですね。

     探偵たんていという存在はね、表に出すぎちゃいけないんですよ。

     舞台で言うと、裏方みたいなもんです。

     ……まあ、ただ目立ちたくないだけなんですけどねぇ。



                (間)



<リューネブルク連合王国領九龍半島・首都『中環』 / 裏路地>


◎N①:リューネブルク連合王国領九龍クーロン半島、首都『中環セントラル』。

    近代的な高層ビル群が立ち並び、きらびやかな多くの

    ネオンと共に街をいろどる。

    多くの人々が往来おうらいし、喧騒けんそうの街に今日もまた

    事件が起きていた。


●アンジェリカ:ハァ……ハァ……!


◎N①:ひとりの女性警察官――アンジェリカ・リーは裏路地にいた。

    彼女はこの街の治安を任された正義の味方であり、人々の尊敬

    と信頼を得ていた。

    ――しかし、今は違う。


▽王立警察官①:いたぞ! こっちだ!!


●アンジェリカ:ちっ! まさか、もうここまで……!!


◎N①:今の彼女は警察に追われる逃亡犯。

    罪状は「殺人」。2人の人間を殺した罪を犯したとされている。


▽王立警察官①:ちっ! 素早いな……こちら、Bブラボー分隊! Bブラボー分隊!!

        対象、アンジェリカ・リーを発見!

        至急、応援を要請ようせいす!

        こちら、ブラボー分隊! 応援を要請ようせいす!


●アンジェリカM:場所がバレてしまった以上は、ここに応援を

         要請ようせいするはず……!

         けど、それまでにこの路地裏を脱出すれば――


◎N①:――だが、現実は彼女に残酷ざんこく結末けつまつをつきつける。


●アンジェリカ:なっ!? 行き止まり……


◎N①:高くそびえ立つ壁が前に立ちふさがる。

    運動神経が抜群ばつぐんな彼女でも、手すりも何もない壁を

    登り切るのは不可能なことだった。

    後ろから複数の足音が聞こえてくる。

    ――まさに絶体絶命の状況。


●アンジェリカ:ここまで……か……


◎N①:――奇跡でも起きない限りどうしようもない。

    アンジェリカはその場で立ち尽くすしかなかった。



                (間)



▲ヤン:――何を一体、そんなふざけた結果になるんだ!!


◎N①:責任者を務める男性警察官が声を荒げる。

    報告をしてきた警察官は恐縮した表情を浮かべ委縮いしゅくしていた。


▲ヤン:あそこは行き止まりの筈だ!

    なのに、どうして跡形あとかたもなく消えるんだ!!


◇王立警察官②:で、ですが……Bブラボー分隊長の報告では――


▲ヤン:そんなバカなことがあってたまるか!

    周囲のどこかに隠れているんじゃないのか!


◇王立警察官②:も、もちろん周囲をくまなく探しました!

        しかし……ちりひとつ何もなく、壁も壊された形跡けいせき

        がないんです……!

        まるで神隠しにあったかのように――


▲ヤン:いくら古代人種こだいじんしゅの血をひく娘であったとしても、

    壁を瞬時に乗り越えられるような能力は無い筈だ!

    考えられることは……くそっ! 協力者がいたのか……

    だから、あれほど裏路地の封鎖ふうさをしろと……!!


◇王立警察官②:…………。


▲ヤン:……おい。


◇王立警察官②:ハッ!


▲ヤン:全捜査員に伝えろ! 何としてもアンジェリカ・リーを捕まえろ!!

    アイツはもう王立警察の人間じゃない! 要人暗殺の首謀者しゅぼうしゃだ!!

    王立警察の威信いしんをかけて、ヤツを捕まえるまでは休むことは許さん!!

    以上だ!


◇王立警察官②:は、はい!


▲ヤンM:――何としても捕まえなければいけない。

     ただの贈賄ぞうわいの証拠ならばどうとでも潰せる。

     しかし……あの組織についてなら話は別だ!

     私の首だけじゃなく、命までも飛ぶ!

     何としてでも捕まえて始末しまつをしなければ……!!



                (間)



<リューネブルク王国領九龍半島・首都『中環』 / レオン・ロー探偵社>


●アンジェリカ:――んっ、私は……いったい……


◎N①:アンジェリカは目を覚ますと、自分がソファで横に

    なっていることに気付いた。

    部屋を見渡す限り、自分は今どこかの事務所にいる

    ことにも気付いた。


●アンジェリカ:ここは、どこだ……?

        私は確か、追われていて……それで、行き止まりに

        追い込まれて……はっ!


◎N①:彼女は思い出した。

    あの絶望的な状況に立たされていた時に——


(回想シーン:開始)


☆レオン:――どうも、こんばんわ~


●アンジェリカ:っつ! だれ――


☆レオン:ひとまず、いっちょ寝ちまってください。


◎N①:声がした方向に振り返ろうとした瞬間、首にチクリと軽い痛みを感じた。

    彼女は薬が投与されたことに気付くも、すぐに身体全体に力が入らなく

    なり、意識が遠くなった。


☆レオン:あっ……やっば……効きすぎてしまいましたねぇ。


(回想シーン:終了)


●アンジェリカ:そうだ……あの感じだと麻酔銃で撃たれたのだろうか……?

        眠らさせた後に、私をここに運んだ。

        少なくとも警察関係ではなさそうだし、雰囲気的にも商会しょうかい関係

        でもなさそうだけど……でも、何の目的で……?


◇シャーリィー:あっ! 起きた!!


●アンジェリカ:誰だ!?


◇シャーリィー:うひゃあ!? いきなり銃を向けないでよー!!


●アンジェリカ:警察か? それとも商会しょうかいの関係者か?


◇シャーリィー:とにかく落ち着いて――


●アンジェリカ:答えなさい!


◇シャーリィー:え、えっと私たちは——


◎N①:すると慌てふためく女性の背後から何かが飛んできた。

    それはアンジェリカのほほ間一髪かんいっぱつのところで外れて壁に刺さる。

    あまりの速さに、その正体が一瞬わからなかったが——


●アンジェリカ:なにが飛んで――っつ!


△サクヤ:あっ、外しちゃった。


◎N①:壁に1本の刀が刺さっていた。

    これが飛んできたモノの正体である。


◇シャーリィー:サクヤちゃん! 危ないよ!!


◎N①:事務員と思われる女性は、後ろにいた学生服姿の少女に注意をする。


△サクヤ:大丈夫だよ、シャーリィーには刺さんないように投げたから。


◇シャーリィー:私だけじゃなくて、リーさんにも刺さったらダメだよ!

        大事な警護対象なんだから!!


●アンジェリカ:……何が起きているの、これ?


△サクヤ:お巡りさん。


●アンジェリカ:っつ!


△サクヤ:銃をおろしてくれると嬉しいな?


●アンジェリカ:そんな要求をむわけにはいかない……!


◇シャーリィー:リーさん、私達はアナタの味方なんです!

        アナタを守るように依頼されたんです!!


●アンジェリカ:そんなこと……簡単に信頼できると思いますか?


△サクヤ:あら、いいの?

     いい加減言う通りにしてくれないと……次は

     こっちの刀で、その腕を斬り落とすことになるけど……

     本当に、いいの?


◎N①:サクヤから放たれる殺気に、アンジェリカは身構える。

    対峙たいじする二人の間に緊張の空気が流れる。

    ――すぐにでも戦いが始まってしまうかのような。


◇シャーリィー:あわわわわわわ……ど、どうしよ~!


△サクヤ:フフッ。


●アンジェリカM:来る……!


◎N①:アンジェリカが銃の引き金を引こうとし、

    そして、少女が刀を抜こうとした瞬間だった。


☆レオン:――はい、そこまで~


◎N①:半人半龍の男性が、少女の頭に軽いチョップをする。


△サクヤ:いったぁ……

     女の子に暴力をふるうなんてサイテーですよ、社長。

     ボウリョク、ハンターイ。


☆レオン:はぁ……腕を斬り落とすことよりかは幾分いくぶんマシだと思いますよ。

     それに、こんなの痛くもかゆくもないでしょうが。


◇シャーリィー:うわーん! しゃちょう!!

        帰ってくるの、おそいよー!!


☆レオン:ハイハイ、スイマセンネ。


●アンジェリカ:…………。


◎N①:先程まで緊張が張りつめていた空気が一瞬にして緩くなり、

    その変わり様にアンジェリカは呆然ぼうぜんとしてしまう。


☆レオン:――んっ、起きましたか。

     どうですか、体調の方は?


●アンジェリカ:だい、じょうぶ、です。


☆レオン:すいませんね、リー刑事。

     ウチの助手たちがとんだ御迷惑を。


●アンジェリカ:龍人りゅうじん族……


☆レオン:どうしました?


●アンジェリカ:まだ……生き残りがいたんですね……


☆レオン:ああっ、驚かせてしまいましたか?

     そうです、あなたと同じ龍人りゅうじん族の人間です。

     ただ、私は龍の血が濃いせいで驚かれることが多いんですけどね。

     おかげでシッポもあって邪魔くさい、邪魔くさい。


●アンジェリカ:す、すいません! とんだ無礼を!


☆レオン:いえいえ、ヒトの成分が多い龍人りゅうじん族しか残っていないのですから。

     むしろ、ワタシのような古文書に出てくるような龍人は滅んだと

     言われていますからね。

     もちろん外に出る時はヒトに変装へんそうしていますよ、生きているのが

     バレたら何をされるか……あっ、ごめんなさいね。

     話の腰を折っちゃって。


●アンジェリカ:い、いえ……それに自分自身も龍人りゅうじん族の血が入っています。

        親族以外に、純血の方にお会いするのは初めてでしたので……


☆レオン:アナタは真面目過ぎるヒトですねぇ。

     今でも申し訳なさそうな顔を浮かべている。

     大丈夫ですよ、リー刑事に悪意があった訳ではないこと

     を理解しています。


●アンジェリカ:お気遣い、感謝します。


☆レオン:いえいえ。

     ――それよりも、今は目の前のことを考えましょう。

     アンジェリカ・リーさん、アナタはこの九龍クーロンにおいて世間を騒がす

     大罪人として王立警察に追われる身となっている。

     そうですね?


●アンジェリカ:はい、それは理解しています。

        ……なら、どうして私を助けてくれたんですか?

        アナタ方にとって何も良い事が——


☆レオン:そりゃあ、ワタシたちも商売をしていますから。

     無償むしょうのボランティアは致しません。


●アンジェリカ:なら、何が目的……?


☆レオン:ご安心を取って食おうなんでマネはしませんし、

     アナタの身を警察に売るようなことはしません。

     ――簡単なことです、依頼を受けたのです。


●アンジェリカ:えっ?


☆レオン:あっ、クライアントのプライバシーは絶体順守としていますので

     明かすことは出来ません。

     ですが、依頼内容は教えることは出来ます。

     ――「アンジェリカ・リーの命を守り、彼女の冤罪えんざいを証明せよ」、と。


●アンジェリカ:えっ!? それは……私にとっては有難い話です。

        ですが……


☆レオン:そう簡単に信用することは出来ない、というわけですね?


●アンジェリカ;(※頷いて応える)


☆レオン:それは捜査官として当然の帰結きけつに至ります。

     もちろん、望まれなければ今回の依頼を取り下げましょう。

     しかし……アンジェリカさん、アナタには選択肢がない事も

     理解していますよね?


●アンジェリカ:……ええっ、その通りです。


☆レオン:アナタが殺害したとされているのは、総督府そうとくふの行政長官と、

     そして龍頭商会ドラゴンヘッド・ソサイエティの上級幹部のひとり。

     ――大物2人を殺した罪を総督府そうとくふ、警察そして……商会しょうかいは黙っている

     訳にはいきません。


●アンジェリカ:…………。


△サクヤ:それにクライアントは冤罪えんざいだと信じているけど、肝心かんじんなそれを示す

     証拠しょうこが見つかっていないのが現状。


◇シャーリィー:それに、むしろ刑事さんが殺した証拠しょうこだけは揃っています……


☆レオン:――つまり、九龍クーロン全体がアナタの敵となります。

     ワタシたちを除いてね。

     アナタの未来は二つです。


●アンジェリカ:ひとつは「冤罪えんざいを証明できずに最後は誰かに始末しまつされる」か、

        もしくは「冤罪えんざいを証明し、真犯人を見つけ出す」か。


☆レオン:その通りです。

     だから、アナタには選択肢が無い訳です。


●アンジェリカ:くっ……


☆レオン:そう落ち込まないで下さい。

     ――少なくともワタシは、アナタが罪を犯したとは思っていません。


△サクヤ:私は、そんなことないと思うけ――


◇シャーリィー:はーい! サクヤちゃん、ストーップ!!

        空気読んでね? ね?


△サクヤ:はーい、わかりましたー


●アンジェリカ:私は……


☆レオン:それとも……リー刑事、本当にアナタが2人を殺したんですか?


●アンジェリカ:断じてそんなことはありません!

        私は警察官として、九龍クーロンを守る人間として!

        決して法を背く馬鹿な真似まねなんて絶対にしない!!


◎N①:涙目なみだめを浮かべ、りんとした真っすぐな表情を浮かべるアンジェリカを

    見て、レオンはどこか寂しそうな顔を浮かべる。


☆レオン:ああっ……やっぱり、その瞳は。


●アンジェリカ:えっ? 今、なにか――


☆レオン:ですよね、わかっていますよ。

     すいませんね、意地悪なことをしてしまって。

     ――アナタは実に幸運なヒトだ!


●アンジェリカ:幸運?


☆レオン:事件の捜査というのは、いわば警察の仕事なんですよ。

     探偵たんてい日陰者ひかげものですから表舞台に立ってはいけない。

     でも、今回はそうも言ってられない。

     警察が否定する事を証明しなければいけませんからね。

     特別出血大サービス!

     アンジェリカ・リーさん、アナタが私たちの手をとれば、

     必ずや冤罪えんざいを晴らし真犯人を見つけ出してみせましょう。


◎N①:そう言って、レオンは手を差し出した。


●アンジェリカ:――本来、警察官が事件捜査を探偵に

        依頼するのはあってはならない。


△サクヤ:カッチーン。


◇シャーリィー:どうどう! 刀を抜かないでー!!


●アンジェリカ:学校でそう教わってきました。

        ですが……今の私にはそんなことを言っている場合じゃない!

        裁かれるはずの者が裁かれない、そんな理不尽りふじん

        失くすために私は警察官になったんです!!


☆レオン:なら、答えは決まりましたね。


●アンジェリカ:はい。


◎N①:そして、アンジェリカはレオンと握手する。


●アンジェリカ:私に力を貸してください、よろしくお願いします!


☆レオン:――了解しました。

     この依頼、我ら、レオン・ロー探偵社が責任をもってお受け致しましょう。



☆レオン:アークホルダー・フラグメントレコード、エピソード2


●アンジェリカ:レオン・ロー探偵社たんていしゃ事件簿じけんぼ


△サクヤ:九龍クーロンはつ探偵活劇たんていかつげきエクスプレス


◇シャーリィー:第1話! 『逃避行とうひこうランデブー』!!



【Ⅰ】

<リューネブルク王国領九龍半島・首都『中環』 / 九龍半島総督府・総督執務室>


◎N①:九龍クーロン半島総督府そうとくふ

    九龍クーロン半島を支配するリューネブルク王国が設置した統治機関。

    そのトップである九龍クーロン総督そうとくの執務室に、

    アンジェリカ捕縛を命じられた男性警察官がいた。


□九龍総督:――それで状況は如何ほどだ、ヤン刑事副部長。


▲ヤン:はっ! 刑事部の大部分を中環セントラルの主要部に配備しております!

    逃亡犯、アンジェリカ・リーを逮捕するのは時間の問題かと

    考えております!


□九龍総督:時間の問題、か……とは言っても、ヤン副部長。

      前回は路地裏の奥まで追い詰めたが、まんまと逃げられたようだが?


▲ヤン:お、おそらくは協力者がいたのではないかと考えてます!

    今回は龍頭商会ドラゴンヘッド・ソサイエティの上級幹部も殺害されており、

    商会しょうかいうらみを持つ他組織が関わっている可能性があります!!


□九龍総督:ふむ……


▲ヤン:ですが、我々はこれを好機と捉えています!!


□九龍総督:好機だと?


▲ヤン:はい!

    今回の事件で裏社会の浄化に着手することが出来ると考えます!!


□九龍総督:なるほどな。


◎N①:そう言って、九龍クーロン総督そうとくは立ち上がり歩き始める。

    そして、彼はある女性の肖像画の前へと立ち止まった。


□九龍総督:――貴様らの国と戦争をし、そして我らが勝利した。

      九龍クーロン半島を手に入れた我々は、この未開の地を

      文明的な地へと開拓した。

      それはわかるな?


▲ヤン:それは承知しております!


□九龍総督:ならば心せよ。

      先人達の見返り無き貢献こうけんによって、慈悲深き女王陛下が

      貴様ら、九龍クーロン人の組織に「王立」の名誉を下賜かしされたのだ。

      ……かつて黒社会との癒着ゆちゃくがあり、「黒警こっけい」と揶揄やゆされ堕落だらくした

      組織を我らが建て直した!

      しかし! またお前たちは再び過ちを犯した!!

      なんたる屈辱くつじょくだ!!


▲ヤン:…………。


□九龍総督:そこらへんの下級警察官であれば目をつぶれるが、よりによって

      精鋭せいえいである特殊機動捜査隊とくしゅきどうそうさたいの隊員が!!

      しかも、我らが妥協して隊長を任命した九龍クーロン人だ!!

      貴様のかつての部下だぞ! ヤン!!


▲ヤン:しょ、承知しております!

    女王陛下よりたまいし「王立」のかんむりにこれ以上

    ドロるような真似まねは致しません!

    粉骨砕身ふんこつさいしんとし、総督そうとくに必ずや吉報きっぽうを届けられるようにします!


□九龍総督:――女王陛下も、本国政府も今回の件について

      大きな関心を寄せている。

      それに、ここのところ左派の連中も事件で活気ついてきている。

      その心、努々ゆめゆめと忘れるな。



                (間)



<リューネブルク王国領九龍半島・首都『中環』 / 九龍半島総督府>


▽王立警察官①:ヤン副部長、お疲れ様です。


◎N①:ひとりの王立警察官がヤンに声をかけ敬礼する。

    一方で、彼は疲れたような顔でにらみつけた。


▲ヤン:おまえか……


▽王立警察官①:大丈夫ですか?

        どこかお疲れのようですが——


▲ヤン:当たり前だろ!

    お前たちがヘマをしたせいで総督そうとくしかられたわ!!


▽王立警察官①:あっ……はい、すいません……


▲ヤン:それで! 状況はどうなっている!


▽王立警察官①:その……未だ、リー督察長ていさつちょうを発見出来ていません……


▲ヤン:何故だ!?

    中環セントラルの主要部全てを配備しても捕まらないだと!!

    この役立たず共めが! 私の出世に響くだろうがァ!!


▽王立警察官①:も、申し訳ございません……!!


◇ケリー:――あらあら、野蛮やばんですこと。


▲ヤン:あっ? っつ!

    ア、アンタは……


◇ケリー:ここは親愛しんあいなる女王陛下の総督府そうとくふの中なのですよ。

     大きな声で荒げるのは控えたほうがよろしくってよ?


▲ヤン:……ウォンさん。


◇ケリー:ご機嫌よう、ヤン副部長。


◎N①:どこかおびえたかのように青ざめた表情を浮かべるヤン

    とは対照的に女性は慈愛が込められた笑顔を浮かべていた。


▽王立警察官①:…………。


▲ヤン:おい、何をほうけている。


▽王立警察官①:えっ?


▲ヤン:さっさと署に戻って、ヤツを捕まえる方法を考えろ!!


▽王立警察官①:ハッ! し、失礼しました!!


◇ケリー:――あらあら、そうやっていじめるのは可哀そうじゃありません?

     部下は大事にされたほうがよろしくってよ?


▲ヤン:御忠告を感謝しますよ……それよりも、我々が

    接触しているのを見られるのはあまり良くない。

    場所を変えることは出来ますか?


◇ケリー:ええっ、そうですね。

     ちょうど、都市計画課長との面談がありまして、

     会議室を一部屋確保しています。

     そこでお話しましょ?


▲ヤン:あ、ああっ……わかった……



                (間)



<リューネブルク王国領九龍半島・首都『中環』 / 九龍半島総督府・会議室>


◎N①:ウォンと呼ばれる女性と共に、ヤンはある会議室に入る。


▲ヤン:ウ、ウォンさん、先程はとんだ――


◇ケリー:ミスター・ヤン。


◎N①:ウォンの冷たく鋭い声に、ヤンはさらなる恐怖を覚える。

    彼女はそんな彼に気にすることなく言葉を続ける。


◇ケリー:まだ、小鹿ちゃんを捕まえることは出来ないのかしら?


▲ヤン:も、申し訳ない!

    だが、刑事部の総力を挙げて中環セントラル主要部全てに検問を張っている!

    ヤツを捕まえるのは時間の問題――ぐはっ!


◎N①:鳩尾みぞおちに蹴りが一発入れられる。

    ヒールによって突き刺さるかの様な激痛にヤンはその場でうずくまった。


▲ヤン:があっ……ぐう……


◇ケリー:そんなことは当たり前です。

     何を言っていらっしゃるのでしょうか?


▲ヤン:す、すまない……


◇ケリー:それで、特殊機動捜査隊とくしゅきどうそうさたいのほうは?

     ちゃんと足止めをしているのかしら?


▲ヤン:ああっ、もちろんだ……公安局長命令で謹慎きんしんを命じ――ぐあっ!!


◇ケリー:早く! 早く!!

     アイツと同じことを言ってんじゃないわよ!!

     あの御方が早くしろって要求しているのよ!!

     こんの! こんの!!


▲ヤン:わかった、わかったから! ちゃんと約束する!!

    アイツに連絡をして、商会しょうかいを動かすようにする!!

    頼むから! これ以上、蹴らないでくれ!!


◎N①:怒りの形相ぎょうそうを浮かべていたウォンが、先程見せた慈愛の笑顔へと戻る。


◇ケリー:――そうですか、ならいいですわ。

     あの小鹿ちゃんに、証拠のデータが手に渡ってしまった以上、

     なんとしても取り返さないといけません。

     ……理解していらっしゃいます?

     アレが世に出てしまえば、アナタは終わりなのですよ?

     わかっていらっしゃいます?


▲ヤン:ヒィ!


◇ケリー:もちろん、私にも大きな痛手を被ることになります。

     ですが、アナタの場合は社会的制裁だけで済みますでしょうか?


▲ヤン:あっ……あっ……


◇ケリー:商会しょうかいの人間に手を出したとなれば、アナタは骨の髄まで奴らに

     食い尽かされてしまうのでしょうねぇ~?

     最初は死なない様に拷問され、そして色々と有効活用されて、

     それで――


▲ヤン:もう止めてくれ!!


◇ケリー:…………。


▲ヤン:わかってる……わかってるから!!

    必ず証拠も取り戻すし、リーの奴も必ず消してみせる!!

    アンタたちを失望させることはしない!!

    だから……だから、頼む……私を見捨てないでくれ!!


◇ケリー:――よろしいですわ。


▲ヤン:本当か?


◇ケリー:ええっ、もちろんです。

     ですが、覚悟してくださいね。

     貴方たちが相手にしているのは、地獄の獄卒すら逃げ出す

     『赤い笑いの正体クラースナヤ・ストラーフ』であることをお忘れなく。

     ……それでは良い報告を期待しています。



【Ⅱ】

<リューネブルク王国領九龍半島・首都『中環』 / レオン・ロー探偵社>


△サクヤ:――で、これからどうするんですか?


●アンジェリカ:恐らくは私を捕まえる為に、中環セントラルの主要箇所を

        集中的に配置していると思います。


◇シャーリィー:主要箇所と言うと……九龍ハイウェイのインター・チェンジ

        がある『女皇丘クイーンズ・ヒル』、国際空港の玄関口の『急庇利クレバリー』に、

        大陸横断高速鉄道の始発駅がある『威霊頓ウェリントン』とかかな~?


●アンジェリカ:海上からの逃亡も考えるなら、『海鐘アドミラル・シティ』も

        入っていると思います。


△サクヤ:警察なら出し抜くことは出来るかもしれないけど、

     問題は商会しょうかいも追ってくるということよね。


◇シャーリィー:まさに八方塞はっぽうふさがり!


△サクヤ:どうします、社長?

     かなり絶望的な状況ですよ。


☆レオン:……まあ、中環セントラルからの脱出はムリでしょうねぇ。

     どうしようもない!


◇シャーリィー:ちょっとー! ちゃんと考えてよー!!


☆レオン:わかっていますよっと。

     さて、リー刑事。

     警察と商会しょうかい捜査網そうさもうについては予想は出来ますか?


●アンジェリカ:警察の捜査網そうさもうなら大方の予想は出来ます。

        しかし商会しょうかいについて最高幹部『二路元帥イーロンユンシー』のひとりである

        草蛙チャオハイが構築した高度な情報ネットワークについては 

        警察ですらつかめずにいます。


◇シャーリィー:どうしてです?


●アンジェリカ:商会しょうかいはプロだけじゃなく、素人しろうとも利用するんです。

        そのため、多くの人間が情報提供者となります。

        下手をしたら、子供ですら……


△サクヤ:なら、九龍クーロンにいる人間を全員敵と考えないといけない、か。


☆レオン:耳が痛い話だと思いますが、アナタは商会しょうかいとは縁があるはずです。

     それでもわからないのですか?


△サクヤ / ◇シャーリィー:えっ?


●アンジェリカ:……痛いところを突かれましたね。

        ですが、私は商会しょうかいとは縁を切った身です。

        その上、敵対組織の人間です。

        教える訳ないでしょう。


☆レオン:そうですよね……

     という訳で、ワタシ、ちょっとお出かけをしてきます。


◇シャーリィー:どこに?


☆レオン:そんなの決まっているでしょう。

     ――『龍のはらわた』ですよ。


●アンジェリカ:なっ!?

        アナタはご自身が何を言っているのか理解しているのですか?!

        相手は、あの――


レオン:――九龍クーロン半島の真の支配者『龍頭ドラゴンヘッド』、ですよね?

    もちろん、わかっていますよ。


●アンジェリカ:なら、自ら火中に飛び込むような真似をするのは!


☆レオン:安心してくださいよ、何も気が狂ったわけじゃありません。

     ただ――


●アンジェリカ:ただ?


☆レオン:お願い事をしてくるだけですから。


●アンジェリカ / ◇シャーリィー:おねがいごと?


☆レオン:ええっ、そうです。

     ――〝探偵社が事件を解決する代わりに、龍頭商会ドラゴンヘッド・ソサイエティ

     探偵社員およびアンジェリカ・リー刑事には手を出さない〟ってね。     


●アンジェリカ / ◇シャーリィー:えっ!?


△サクヤ:ハハッ、これはおもしろくなってきた。

     本当にやれるの?


☆レオン:なーに、安心してください。

     龍頭ドラゴンヘッドとは長い付き合いがありますので……


●アンジェリカ:それでも無謀むぼうすぎます!


△サクヤ:まあ、大丈夫でしょ。


●アンジェリカ:ツクヨミさん、何を言っているんですか!


△サクヤ:社長、安心して。

     死んじゃったら骨は回収しておくよ。


☆レオン:それは心強い。

     それじゃあ、その時は頼みましたよ。


△サクヤ:んっ、わかった。


☆レオン:――そういえば、サクヤさん。


△サクヤ:んっ?


☆レオン:出かける前にいくつか確認したいことが。


△サクヤ:――どうぞ。


☆レオン:Westウェスト地区の依頼は進捗しんちょくは?


△サクヤ:花屋の店主に頼まれていた件ですね、完了していますよ。


☆レオン:Internationalインターナショナル通りのレストランオーナーの探し物は何だったんです?


△サクヤ:あれだけ必死だった癖に、とんだくだらない代物しろものでした。


☆レオン:Raymondレイモンドのサインでしたっけ、アイドルの。


△サクヤ:知っているのなら確認する必要はないでしょ。


☆レオン:それは、サボり魔のアナタがちゃんと仕事をしているのかの確認ですよ。


●アンジェリカ:――ふたりは一体何を……


◇シャーリィー:しっー!


●アンジェリカ:えっ?


◇シャーリィー:今はとりあえず、ふたりに会話をさせてください。


●アンジェリカ:わ、わかりました……


●アンジェリカM:――なんでメモなんかとっているんだろう?


☆レオン:Easternイースタン交易社長の依頼は?


△サクヤ:それは断った、あんなの探偵の仕事じゃない。


☆レオン:TAPタップ……ダンスの相手でしたっけ?

     まあ、しょうがないですよ。

     探偵業だけでは食っていけませんから。

     ――おっと、それじゃあ行ってきますよ。

     あっ、リー刑事。


●アンジェリカ:な、なんでしょう!


☆レオン:こっからはお祭り騒ぎとなります。

     爆竹ばくちく、持っていますよね?


●アンジェリカ:えっ?


☆レオン:――使い時を間違わないように、それでは。


●アンジェリカ:…………。



【Ⅲ】

<リューネブルク王国領九龍半島・首都『中環』 / 龍頭商会本拠地『龍の腸』>


☆N②:中環せんとらるの中心街から外れた場所にある巨大なスラム街、通称『龍のはらわた』。

    無秩序むちつじょに建設された多くの建築群によってその様相ようそう城塞じょうさいのようだった。

    通路には住民が勝手に引いた電線、電話線、アンテナの同軸ケーブル、

    下水道といったライフラインが無計画にくだとなり縦横無尽じゅうおうむじんに張られている。

    日の光は入らず、昼夜関係なく暗く混沌こんとんとした雰囲気ふんいきただよう。

    そして、その中心部には——


◎草蛙:――首領しゅりょう、説明させて頂きました通り総督府そうとくふとは、新空港建設に

    おける業者斡旋あっせんについて取引を進めていきたいと思います。


☆N②:他とは異なる、清潔で華美なエリアが存在する。

    ――九龍クーロン半島最大の犯罪組織『龍頭商会ドラゴンヘッド・ソサイエティ』の本拠地。


□龍頭:あぁ、そのように進めておけ。


☆N②:玉座のような椅子に鎮座ちんざするひとりの男性。

    右顔には民族風の刺青いれずみがあり、上等なスーツを着こなした精悍せいかんな大男。

    『龍頭商会ドラゴンヘッド・ソサイエティ』を総べる者、その名は『龍頭(ドラゴン・ヘッド)』。


◎草蛙:はい、了解致しました。

    そして、国際東洋開発集団インターナショナル・オリエンタル・ホールディングスの都市開発部長、ケリー・ウォン氏が

    会談を求めていますが……如何いかがいたしましょう?


□龍頭:白紙扇バックジーシンが紹介してきた女狐めぎつねか……

    わしはあのような者は好かん。

    対応については、白紙扇バックジーシンに一任する。


◎草蛙:わかりました、先方にはそのようにお伝えします。


□龍頭:のう、草蛙チャオハイ


◎草蛙:なんでしょう?


□龍頭:今回の件……本当に、アイツの仕業なのか?


◎草蛙:……にわかに信じがたいですが。


▲白紙扇:おや? おやおや?

     身内びいきはいけませんな~?


◎草蛙:……白紙扇バックジーシン


▲白紙扇:我々が手に入れた証拠から、アンジェリカ・リーの

     仕業で間違いないでしょう。

     王立警察も今回の事件の犯人は彼女であると断定しています。

     ならば、結論は明白でしょう?


◎草蛙:口を慎め、白紙扇バックジーシン

    そんなことは貴様に言われなくとも理解している。


▲白紙扇:いいえ? 理解されていないじゃありませんか~

     アナタの情報ネットワークと能力を駆使すれば、

     簡単にリーの捕まえることが出来るはず。

     ですが……尻尾しっぽを掴めずにいるのはどういうことでしょう?


◎草蛙:…………。


▲白紙扇;ククッ、実にわかりやすい反応をなさいますねぇ。

     裏社会の人間ならば、鉄のおきてがあるのはご存じでしょう?


◎草蛙:……少しだけ。


▲白紙扇:んっ? 何か?


◎草蛙:あのバカの気持ちが理解できるな。


▲白紙扇:おやおや、やめてくださいよ~

     紅棍ホングンのことですよね?

     アイツの話題を出すなんて反吐へどが出てしまいます。


◎草蛙:少なくとも、お前よりかは幾分いくぶんマシだ。


▲白紙扇:へぇ……ケンカ、売ってます?


◎草蛙:だったらどうする?


□龍頭:――やめろ、お前たち。

    下の者たちも見ている、二路元帥イーロンユンシーならば醜態しゅうたいさらすな。


◎草蛙 / ▲白紙扇:申し訳ございません。


□龍頭:そして白紙扇バックジーシン、ここに足を運んだとあれば何か報告があるのだろう?

    早う話せ。


▲白紙扇:その通りでございます、首領しゅりょう

     ――くだんのアンジェリカ・リーの居場所をつきとめました。


◎草蛙:なっ!?


□龍頭:ほぅ、どこにいる?


▲白紙扇:……レオン・ロー探偵社。

     絶滅寸前と言われる、数少ない龍人りゅうじん族の生き残り

     がやっている弱小探偵社ですよ。


□龍頭:なるほど、仕龍シーロンのところか……


▲白紙扇:おや、驚きはしないんですね。


◎草蛙:それだけのことを報告しに来ただけか?


▲白紙扇:まさか、獲物えものの発見したのを報告するだけなんて子供でも出来ます。

     ひとつ許可を頂きたいのです、首領しゅりょう


□龍頭:許可?


▲白紙扇:はい。

     ――探偵社への襲撃しゅうげき許可を頂きたいのです。


◎草蛙:なっ! 探偵社を襲撃しゅうげきするのは協定違反だ!


▲白紙扇:そんなことはわかっているのですよ!

     それに協定違反をしたのは、探偵社が先じゃありませんか!


◎草蛙;それは……


▲白紙扇:安心してくださいよ……別に殺しはしません。

     ちょーっと、痛い思いをして頂くだけですよ。


◎草蛙:くっ!


□龍頭:――襲撃しゅうげきを許可する。


◎草蛙:よろしいのですか?


□龍頭:構わん。


▲白紙扇:流石です、首領しゅりょう

     この白紙扇バックジーシン、必ずや良き報告をお持ち致します。

     では……


□龍頭:――――草蛙チャオハイ


◎草蛙:何でしょうか?


□龍頭:紅棍ホングンに連絡をしろ。

    お前たちに〝ある指示〟を出す。



【Ⅳ】

<リューネブルク王国領九龍半島・首都『中環』 / レオン・ロー探偵社>


◎N①:時間をレオンが出て行った直後の時間へと戻す。


●アンジェリカ:行ってしまった……


△サクヤ:それじゃあ、私達も準備をしますか。


◇シャーリィー:そうだね!


●アンジェリカ:えっ、準備? 

        何を——


◇シャーリィー:じゃじゃーん!


◎N①:シャーリィーはそう言って、メモを見せる。


◇シャーリィー:パーティーの準備です!!


◎N①:メモには——「反応しないで、盗聴されてる」

    それに対してアンジェリカは驚きながらも無言で頷いた。


◇シャーリィー:あっ、そういえば買い忘れたものがあるので

        買い出しに行ってきます!

        ――サクヤちゃん、そっちはよろしくね。


△サクヤ:わかったわ。


◇シャーリィー:それじゃあ、いってきまーす!


◎N①:そして、シャーリィーは車のキーを持って部屋を出た。

    部屋にはアンジェリカとサクヤのふたり。


●アンジェリカ:あ、あの……


△サクヤ:お巡りさん、私達も準備をしましょ?


◎N①:同時にサクヤはメモを見せる。

    ――「囲まれてるみたい、シャーリィーが車を出して先に待ってる」


●アンジェリカ:っつ!


△サクヤ:まあ、色々と準備をするのはめんどくさいので……失礼しまーす。


●アンジェリカ:うひゃあ!?


△サクヤ:意外と可愛い反応するんですね。


●アンジェリカ:い、いいきなり何をするんですか!!


△サクヤ:何ってお姫様抱っこですよ。

     さっ、落ちないようにしっかりと捕まってくださいね。


◎N①:そして、サクヤが走り出す。

    彼女が向かう先には——


●アンジェリカ:って、ちょっと! そっちは扉じゃなくて窓!!


◎N①:そして扉が突然開き、黒スーツ姿の集団が部屋に入り込んできた。


▽商会構成員:いたぞ!!


●アンジェリカ:あれは!


△サクヤ:だから言ったでしょ、囲まれているってね!


●アンジェリカ:そうだけども!


△サクヤ;だから――


▽商会構成員:逃がすな! 撃てぇー!!


△サクヤ:下にまいりまーす。


◎N①:サクヤはアンジェリカを抱きかかえ、ガラスを打ち破った。

    探偵社はビル四階に位置し、突然の光景に下で待機していた

    黒スーツ姿の集団は呆然と見ていた。


●アンジェリカ:きゃああああ! おちるううううう!!


△サクヤ:よっと!


◎N①:すぐさま近くにある建物の壁に備え付けられている室外機に着地し、

    軽い足取りで室外機や看板にアスレチックをするかのように

    飛び乗っていく。


▽商会構成員:おまえたち、なにをボーっとしている!

       奴らを逃がすな!!


◎N①:呆然としていた集団は我に返り、慌てて彼女たちを追いかけ始める。


△サクヤ:これは楽しくなってきた。


●アンジェリカ:は、早く下に……


△サクヤ:今、下に降りちゃったら奴らに捕まっちゃいますよ?


●アンジェリカ:わ、私は……高いところが……!


△サクヤ:あらら、高所恐怖症だったんですね。

     次からは覚えときますね、っと。


●アンジェリカ:きゃ!


◎N①:下から黒スーツの集団が次々と彼女を狙って発砲し、

    危うく当たりそうになったところを彼女はかわした。


△サクヤ:あっぶなー

     うーん、困ったな……私、ひとりなら問題ないけど、

     お巡りさんがいるからなー


●アンジェリカ:なら……これを使いましょう。


△サクヤ:なにそれ?


●アンジェリカ:ツクヨミさん、後ろを振り返らず、

        そのまま前に進んでください。


△サクヤ:どうし――


●アンジェリカ:いいから、今は私の言う事を聞いてください。


△サクヤ:んっ、わかりましたー


◎N①:アンジェリカが何かを投げつける。

    そして次の瞬間、眩い閃光が放たれる。


●アンジェリカ:よし! 無効化できた!


△サクヤ:何を投げたんですか?


●アンジェリカ:――爆竹ばくちくですよ。


△サクヤ:えっ?


●アンジェリカ:電磁パルス・グレネードです、通称「爆竹ばくちく」。

        集団の無効化にはもってこいですから。

        ローさんは、持っていることに気付いていたので。


△サクヤ:ああっ、それであの発言ね。納得。


◇シャーリィー:こっち! こっち!!


◎N①:車のクラクションが聞こえてくる。

    少し先に黄色のコンパクト・カーの窓から

    1シャーリィーが顔を出して手を振っている。


◇シャーリィー:鬼ごっこは終わったのー?


△サクヤ:シャーリィー、サンルーフを開いて!


◇シャーリィー:はいよ!


△サクヤ:それじゃあ、お巡りさん、また落ちるから。


●アンジェリカ:ま、まって! 心の準備が——


△サクヤ:おちまーす♡


●アンジェリカ:いやあああああああ!!


◇シャーリィー:――うわっと! ナイス着地!!

        わぁ、お姫様抱っこしながら来たんだね!

        刑事さん、だいじょ――


●アンジェリカ:ああっ……ああっ……


◇シャーリィー:き、気絶してる……!?


△サクヤ:高所恐怖症だったみたい。


▽商会構成員:見つけたぞ!


◇シャーリィー:あっ、ヤッバ!


△サクヤ:もう追いつてきた。

     シャーリィー、出発して!


◇シャーリィー:オッケー!


△サクヤ:安全運転でね。


◇シャーリィー:安全に、爆速で運転するね!!



【Ⅴ】

<リューネブルク王国領九龍半島・首都『中環』 / 龍頭商会本拠地『龍の腸』>


▽商会構成員:報告します! 襲撃しゅうげき計画は失敗!!

       ネズミは逃げられました!!


▲白紙扇:くっ!


□龍頭:そうか、そうか!

    まあ、そう簡単に捕まっては面白くないからならァ!!

    カッカッカッ!


▲白紙扇:笑いごとではありませんよ!

     くそっ! 新たに人員を——


□龍頭:その必要はない。


▲白紙扇:何を言っているん——


□龍頭:ヤツが来たからのう。


◎N①:ゆったりとした足音が聞こえてくる。

    龍頭ドラゴンヘッド以外は全員、警戒態勢に入った。


☆レオン:――どうも、龍頭商会ドラゴンヘッド・ソサイエティの皆さん。

     そんな怖い顔をしないでくださいよ~

     善良で平凡な一市民なんですから、ワタシは。


□龍頭:ハッ!

    お前が平凡ならば、この世のおおよその者たちは平凡以下だ。


☆レオン:これは、これは龍頭ドラゴンヘッドさん。

     ご機嫌麗しゅう、お褒めの言葉を頂き恐悦きょうえつ至極しごくでございます。


▲白紙扇:レオン・ロー!


□龍頭:お前ぐらいだ、わしを恐れずに言う事を聞かないのは。

    それに首領しゅりょうと呼べと言ってるだろう。


☆レオン:えっ、嫌です。

     てか、首領しゅりょうとかダサすぎません?

     それに私は商会しょうかいの人間じゃありませんし。


▲白紙扇:一介いっかいの探偵風情ふぜいがなんたる無礼を!!


□龍頭:よいよい、白紙扇バックジーシン


▲白紙扇:しかし、こんなことを黙って——


□龍頭:白紙扇バックジーシン


▲白紙扇:うっ!


□龍頭:わしが良いと言ったであろう?


◎N①:突然の豹変ひょうへんぶりに白紙扇以外の商会しょうかいの者たちも恐怖におびえる。


□龍頭:お前は……わしの言う事を聞けん、ということか?


▲白紙扇:い、いえ! そんな滅相めっそうもありません!!


□龍頭:なら、黙っておれ。


▲白紙扇:はい……申し訳ございません……


☆レオン:これはこわいですねぇ~

     相変わらずの迫力はくりょくっすね~


▲白紙扇:………………。


□龍頭:仕龍シーロンよ、ウチのもんが失礼をしたな。


☆レオン:あら、そっちの名で呼んじゃいます? 別にいいですけど。

     まあ、「一介いっかいの探偵風情ふぜい」というのは間違っていませんから。

     それよりも別件のことで謝罪を頂きたいですね。 


□龍頭:別件?


☆レオン:――とぼけるなよ、どうしてウチを襲撃しゅうげきするような真似をした?


□龍頭:…………。


▲白紙扇:どうしてお前がそれを——


☆レオン:やっぱりアンタの差し金だったんですね。

     部下にちゃんと指導しておいたほうがいいですよ。

     盗聴器をしかけていたようですけどバレバレでした。


▲白紙扇:あんの役立たずがァ……!


□龍頭:その件についてびよう。

    しかし、お前はアンジェリカ・リーだけじゃなく、

    助手たちにも我々の手が及ぶ可能性があることに気付いていた筈だ。

    なら、何故、おまえは此処ここにいる?


☆レオン:それは簡単ですよ、ウチの子たちは優秀なんです。

     例え、商会しょうかい襲撃しゅうげきされようとも簡単にはやられませんから。


□龍頭:フッ……カッカッカッ!

    安心せい、お前さんところの助手どもは無事だ。


☆レオン:龍頭ドラゴンヘッドさん、どうしてそこまでリー刑事を殺したいんです?

     ――アナタの大事な孫娘でしょ?


□龍頭:仕龍シーロンよ。

    わしら、裏社会に生きる者たちには決して破ってはいけないおきてがある。

    それに同胞殺しは死罪に当たる重罪だ。


☆レオン:彼女は警察官であり、アナタたちと違ってオモテの人間です。


▲白紙扇:クククッ……


☆レオン:んっ?


▲白紙扇:警察官だからオモテの人間とは……

     いやはや、無知蒙昧むちもうまいな発言をするもんだから片腹痛い!


☆レオン:おやおや、いきなり元気になりましたね。

     アナタ、小物臭いと言われません?


▲白紙扇:貴様の挑発には乗らんぞ!

     アンジェリカ・リーは確かに警察官だが、裏社会とは

     蜜月みつげつの関係にある黒警こっけいだ!!

     現に、ヤツは『赤い笑いの正体クラースナヤ・ストラーフ』と繋がっている情報を我々は掴んだ。


☆レオン:『赤い笑いの正体クラースナヤ・ストラーフ』……!

     いやはや、そいつは困りましたね。


▲白紙扇:奴らは我らに代わり、この九龍クーロンの裏社会を支配しようとしている!


□龍頭:その上、我らが同胞を殺した。

    鉄のおきてに背く者は、例え身内であろうとも容赦ようしゃはしない。

    これは死守せねばならぬ事だ。


▲白紙扇:王立警察もリーの仕業だと断定している!

     だが、ヤツの最終的な処罰は我々が行うのだ!!

     これは龍頭商会ドラゴンヘッド・ソサイエティのメンツにも関わる!!


☆レオン:……龍頭ドラゴンヘッドさん、アナタ、本気で彼女が殺人を犯した

     と思っているのですか?


□龍頭:現実はそれを示している。


☆レオン:両親の死でアナタと黒社会に絶縁をたたきつけた程のヒトです。

     いばらの道とわかっていながらも高潔こうけつに生きようとした。


□龍頭:ヒトと言うのは、姿形すがたかたちと同様に中も変わり続ける生物だ。


☆レオン:だが、本質は変わらない。


□龍頭:ほう……なら、お前は、アンジェリカ・リーが

    今回の騒動の首謀者ではないと?


☆レオン:ええっ、そうですねぇ……とは言っても推測の段階ですよ。


□龍頭:そうは言いつつも、随分ずいぶんと自信がある。


☆レオン:――まあ、私の勘がそうささやいていますので。


▲白紙扇:ハッ……アハハハハハハ!

     勘だと? 笑わせてくれるなァ!!


☆レオン:――アナタ、空気読めないって言われません?


▲白紙扇:はっ?


☆レオン:女性経験が無さそうな顔をしていらっしゃる!

     まあ、見た目だけじゃなく行動や言動も童貞どうていそのものっすね。


▲白紙扇:貴様ァ!!


□龍頭:やめんか、みっともない。


▲白紙扇:うぐっ……も、申し訳ございません。


□龍頭:――仕龍シーロン


☆レオン:なんでしょう?


□龍頭:お前は……アンジェリカ・リーの無実を証明できるのか?


☆レオン:そうですねぇ……まあ、ここ九龍クーロンにおいて

     レオン・ローが解決出来ない事件はありませんから。



【Ⅵ】

<リューネブルク王国領九龍半島・首都『中環』 / 裏路地(場所詳細不明)>


☆N②:シャーリィーの暴走車が裏路地をけ抜ける。


◇シャーリィー:ひゃっほー!


●アンジェリカ:スピードを落として!

        ちょっと、アナタの仲間でしょ!?

        止めるように言って!


△サクヤ:それはムリですよ。

     シャーリィーがハイになっちゃうと止められないですから。



●アンジェリカ;このままだと事故が起きる!!


△サクヤ:まあ、その時はその時です。

     ちなみに、この車、八代目です。


●アンジェリカ:まさか……


△サクヤ:ええっ、今までの7台分すべてをシャーリィーが壊してます。


●アンジェリカ:事故、起こしすぎ!!


◇シャーリィー:あっ……


△サクヤ:あっ。


●アンジェリカ:どうしました!?


◇シャーリィー:ハンドル……とれちゃった……!


●アンジェリカ:…………えっ?


△サクヤ:あっ、シートベルトをしておいたほうがいいですよ。

     下手したら、マジで死ぬんで。


☆N②:――走行不能となった暴走車は、ゴミ袋の山へと突っ込み、

    そして停まった。



                (間)



◇シャーリィー:――あちゃー! やっちゃったー!!


△サクヤ:今度こそは流石に社長に怒られるわよ。


◇シャーリィー:大丈夫、大丈夫!

        パパにお願いして、新しいの買ってもらればオール・オッケー!


△サクヤ:いいわね、お金持ちって。


●アンジェリカ:ふたりとも……


△サクヤ / ◇シャーリィー:んっ?


●アンジェリカ:助けてください……エア・バックのせいで車から出ることが……


△サクヤ:そういえば、お巡りさん、おっぱい大きいですもんね。

     そのせいで出れないんじゃないんです?


◇シャーリィー:そんな呑気のんきなことを言っている場合じゃないよ!

        ごめんね、今、助けるから!!


△サクヤ:んっ?


◇シャーリィー:サクヤちゃーん! 手伝ってよー!!


△サクヤ:…………。


☆N②:サクヤは腰に差していた刀に手をかける。


◇シャーリィー:サークーヤーちゃーん!


△サクヤ:――来る!!


☆N②:次の瞬間、大きな金属音が鳴り響く。

    暗闇から突然現れた赤髪の男が握る三節棍さんせつこんの打撃を、

    サクヤは素早い抜刀ばっとうで防いだ。


△サクヤ:くっ!


▽紅棍:(口笛を1回吹く)


◇シャーリィー:サクヤちゃん!!


△サクヤ:シャーリィー! アンタはお巡りさんに集中して!!


▽紅棍:――やるなァ、アンタ。

    頭を叩き割ったつもりだったんだが……まさか、ふせいだのか。


△サクヤ:それは、どうも!


▽紅棍:よっと!

    その太刀筋に、櫻刀さくらかたな……まさか、侍に出会うとは思わなかったぜ!

    予想外だが、少しは楽しめそうだなァ!!


△サクヤ:アンタ、誰?


▽紅棍:おっと、名を名乗っていなかったな。

    龍頭商会ドラゴンヘッド・ソサイエティ二路元帥イーロンユンシー! 紅棍ホングン様だァ!!


△サクヤ:へぇ……これは強敵そうだね!


▽紅棍:んっ、消え——


△サクヤ:――もらった、月景流つきかげりゅう抜刀術、飛梅とびうめむらくも


☆N②:サクヤの高速斬撃ざんげき紅棍ホングンに襲いかかる。

    並大抵なみたいていの者であれば一瞬にして勝負は決する。

    しかし——


▽紅棍:おいおい……意外と血の気が多いんだな、女。

    けどよ、もう少し殺気を隠したほうが上手く行くぜ?

    反対にどこを攻撃しようとしているか丸見えだァ!!


△サクヤ:うーん……おっかしいなぁ……

     15回ぐらいは斬り付けたはずなんだけど……

     その武器、厄介な動きをするんだね。


▽紅棍:おうよ! かっこいいだろ!!


△サクヤ:別に。


▽紅棍:こいつはな、三節棍サァン・ヂィエ・グェンだァ!


△サクヤ:求めていない九龍クーロン語の授業、ありがとう。


☆N②:刀と三節棍さんせつこんがぶつかり合い、激しい音と共に周囲に衝撃波が走った。

    これが常識外れの力を持つ者同士の戦いであるのを誰もが理解できる。

    白熱とした戦いが繰り広げられる一方で――


◇シャーリィー:よいしょーっと!


●アンジェリカ:ぐぬぬ……うわぁ!


◇シャーリィー:脱出できたー!!


●アンジェリカ:なんとか……生きている……わたし……


◇シャーリィー:アハハ……ごめんねぇ~!


●アンジェリカ:ゴメンで済んだら警察はいらないですよ……


◇シャーリィー:ちょっと楽しくなっちゃって……

        それに逃げなきゃいけなかったし!


●アンジェリカ:そうですけど……んっ? あれは!!


△サクヤ:ハアッ!


▽紅棍:オラァ!!


◇シャーリィー:うっわ……サクヤちゃん、めっちゃ楽しそうにしている!


●アンジェリカ:何を呑気のんきなことを言っているんですか!


◇シャーリィー:んっ?


●アンジェリカ:彼女が戦っている相手は、龍頭商会ドラゴンヘッド・ソサイエティの最強の男です!

        今すぐ助けなければ!!


◇シャーリィー:待って!


●アンジェリカ:ちょっと、何をするんですか!


◇シャーリィー:行っちゃダメだよ。


●アンジェリカ:仲間を見捨てるつもりですか!


◇シャーリィー:ううん、その逆……今のサクヤちゃんに近付いたら、

        リーさんが斬られるよ?


●アンジェリカ:えっ?


◇シャーリィー:……それに安心して!

        サクヤちゃん、めっちゃくちゃ強いから!!



                (間)



▽紅棍 / △サクヤ:ハァ……ハァ……


☆N②:互いに強烈な一撃を放ち、そして互いを弾き飛ばす。

    そして倒れることなく、すぐさま追撃をする。

    これを繰り返し、やがて拮抗きっこう状態となった。


△サクヤM:流石に……そろそろ決めないとマズい……

      封印を解除――いや、それだとシャーリィーたちを巻き込む。


▽紅棍:オイ……


△サクヤ:んっ……なに?


▽紅棍:ワリィが、そろそろ時間だ。

    これ以上、お前らに付き合う訳にはいかねぇ。


△サクヤ:つれないわね。


▽紅棍:女、名前は?


△サクヤ:なに、ナンパ?


▽紅棍:誰がオメェーみてぇなガキをナンパするんだよ!


△サクヤ:あら、こう見えても結構モテるんだよ?


▽紅棍:自分で言うなよ、ボケがァ!!


△サクヤ:はいはい……月詠つくよみ 咲夜さくやよ。

     よろしく、おにいーさん。


▽紅棍:よっしゃ! ツキヨミ!!


△サクヤ:早速、間違えているんじゃないわよ。


▽紅棍:うっせえ、黙ってろ!

    今からテメェにすげえもんを見せてやるよ!


☆N②:紅棍ほんぐんは持っていた三節棍さんせつこんを放り投げ、バタフライナイフを取り出した。


▽紅棍:よーく見てろよ?


☆N②:そして自らの右手首を切る。

    深く切ったのか鮮血の液体が勢い良く噴き出す。


△サクヤ:えっ、いきなりのメンヘラ行動に若干引く。


▽紅棍:ちげーよ!

    さっきから、いちいち馬鹿にしやがってよォ!!

    ――まあ、いい……すぐに黙らせてやるからよォ……!


△サクヤM:なっ……消え——


▽紅棍:オラァ!!


△サクヤ:っつ!


▽紅棍:ちっ、防ぎやがったか。


△サクヤM:殺気が強かったお陰で防ぐことが出来た。

      でも……後、数秒遅れていたらやられていた。

      それにしても――


△サクヤ:――それがアナタの言う、「すげえもん」なの?


☆N②:紅棍の右腕が凶々しい赤黒い鎧を纏っていた。

    そして爪は獲物の命を狩り獲るような鋭いモノとなっている。


▽紅棍:あぁ、そうさ。


△サクヤ:なるほど……アナタ、アーク・ホルダーなのね。


▽紅棍:正解だァ!


△サクヤ:まあ、特殊能力者であろうとなかろうと私は叩き斬るだけ。


▽紅棍:ソイツは嬉しいなァ!

    女でもサムライというのは厄介やっかいなモンだなァ!


△サクヤM:武器から格闘による近接。

      破壊力とスピードは段違いにあがったけど、

      ふところに入り込みやすくなったのも確か。

      なら——


▽紅棍:なっ、消え——


△サクヤ:はぁ!


▽紅棍;くっ!


△サクヤ:お見事、首を斬り落としたと思ったんだけど。

     それ、盾にもなるんだね。

     ……でも、次は斬り落とす。


▽紅棍:ハッ!


△サクヤ:ん?


▽紅棍:残念だったな……お前はこれで刀を使うことが出来ねぇ!


△サクヤ:なっ! 刀が食い込んで——


▽紅棍:終わりだ。


☆N②:すると鎧の一部が鎌へと変化し、サクヤに斬り付ける。

    なんとかかわしたが、頬にかすり傷がついた。


△サクヤ:くっ……


△サクヤM:危なかった、腕を斬り落とされるところだった。


▽紅棍:驚いた、腕を斬り落とすつもりだったんだけどな!


△サクヤ:残念でし――えっ?


☆N②:身体全体が弛緩し、サクヤはその場で倒れ込んだ。


△サクヤ:なにこれ……うそ、力が入らな……い……


▽紅棍:これ以上、戦いを伸ばしてもジリ貧だからな。

    悪いが、こんな姑息こそくな手を使いたくはなかったが仕事なんでな。


△サクヤ:まさか……さっきの鎌に……?


▽紅棍:あぁ、そうだ。

    俺の血には、麻痺毒が含まれている。

    まあ、訓練したことで俺には効かねえけどな。


△サクヤ:なに……ソレ、手品みたいね……


▽紅棍:諦めろ。

    少量とは言え、ゾウですら数日は動くことが出来ねえ代物しろものだ。


△サクヤ:意外……ね、アナタのようなヒト……がするような戦い方じゃない……


▽紅棍:――大人の世界では自らの矜持きょうじを捨てなきゃいけねえ時がある。

    責任を果たすためならば尚更なおさらだ、ガキのテメェにはわからねぇさ。


△サクヤ:そっか……それで、殺すの?


▽紅棍:当たり前だろ。

    黒社会の人間に手を出した以上、そういう運命だ。


△サクヤ:そっか……それは残念。


▽紅棍:安心しろ、女をいたぶる趣味はねぇ。

    俺の爪で首を斬り落としてやる。


☆N②:紅棍ほんぐんの右腕の鎧が剣へと変化する。

    やいばがサクヤの首筋に触れ、死を覚悟した彼女は目を閉じた。


●アンジェリカ:――――動くな。


☆N②:一発の銃声が鳴り響いた。

   紅棍ほんぐんの背後に銃を構えたアンジェリカの姿があった。


▽紅棍:おいおい、お嬢……折角の――


●アンジェリカ:彼女から離れなさい。


▽紅棍:俺が言う事を——


●アンジェリカ:従わなければ、頭を撃つ。


▽紅棍:(※溜息を一回ついてください。)


◇シャーリィー:ななな、なにをしているんですか!?

        相手はアーク・ホルダーなんですよ!


●アンジェリカ:安心して、私もアーク・ホルダーだから。


◇シャーリィー:ふえっ?


●アンジェリカ:それに、彼はこれ以上能力を使わない。

        いや、使わせない。


▽紅棍:どちらにせよ、動きを止められた時からタイムオーバーだ。

    そろそろ、解除しないと俺の命が危ないからな。

    お嬢……アンタっていうヒトは……どうして、邪魔するんだよ。


●アンジェリカ:アナタたちのねらいは私でしょ?

        だったら、今すぐ彼女から離れなさい。


▽紅棍:だけどよ、お嬢――


●アンジェリカ:離れろ。


▽紅棍:どうして、親父殿おやじどのと同じ眼をするのかねぇ……

    わーったよ。


☆N②:紅棍ホングンは能力を解除し、右腕も元の姿へと戻る。

    手首の傷も回復しており、出血は止まっていた。


△サクヤ:能力を解除して良かったの?

     私が斬り付ける可能性があるかもしれないのに?


◎草蛙:――そのような事態を我々が想定していないとも?


◇シャーリィー:えっ? もうひとり、現れた……


●アンジェリカ:草蛙チャオハイ……


◇シャーリィー:えっ? 知り合いなんですか?


◎草蛙:お初にお目にかかります。

    龍頭商会ドラゴンヘッド・ソサイエティ二路元帥イーロンユンシーのひとり、草蛙チャオハイと申します。


◇シャーリィー:ぎゃー! 最高幹部がもうひとりー!!


●アンジェリカ:何しに来たの?


◎草蛙:銃を下げてください、アンジェリカ様。


●アンジェリカ:拒否したら?


◎草蛙:――この女を殺します。


●アンジェリカ:本気なの……?


◇シャーリィー:で、でも、サクヤちゃんの拘束こうそくは解かれて――


▽紅棍:無駄だ、俺が仕込んだ毒はそうそう抜けねえよ。


△サクヤ:さっきは偉そうなことを言ったけど……

     薬の効果が……まだ、残ってるみたい……


◇シャーリィー:あっ……


△サクヤ:でも、流石に動けなくなった非力な女子を殺すなんて……

     趣味が悪いわ……


◎草蛙:ええっ、そうでしょう。

    私もそう思っています。


△サクヤ:なら——


◎草蛙:しかし、我らは裏の人間です。

    残念ですが、そんな悪趣味なことを平気でやり遂げる人種なのです。

    ――アンジェリカ様、アナタなら最適解を導き出すことが出来るはずです。


☆N②:アンジェリカは悔しそうな表情を浮かべ、構えていた銃を降ろした。


◎草蛙:賢明な判断、感謝致します。

    アナタの弾丸は私たちにとっては毒だ。


●アンジェリカ:…………。


◎草蛙:行くぞ、紅棍ほんぐん


▽紅棍:行くって、どこに?


◎草蛙:帰るんだ。


▽紅棍:はっ!? おいおい!

    お嬢を連れて行かねぇのかよ!!


◎草蛙:先程……商会しょうかい探偵社たんていしゃはある協定を結んだ。


▽紅棍:協定?


◎草蛙:――「事件の解明とアンジェリカ・リーの身柄はレオン・ロー探偵社

    に一任し、事件解決までは我々、商会しょうかいは彼女には手出しをしない」


▽紅棍:つまり、それは……首領しゅりょう命令だな?


◎草蛙:そうだ。


▽紅棍:……わーったよ。

    おい、ツキヨメ。


△サクヤ:ツクヨミだって言ってるでしょ。


▽紅棍:そんなのどうだっていい!

    次、テメェと戦うときは絶対に叩き潰してやる。


ツクヨミ:……うん、いいよ。

     でも、叩き潰すのは私だから。


▽紅棍:はんっ! ふらつきながら立っているヤツが

    生意気な口を叩きやがって……ほらよ。


△サクヤ:おっと……これは……


▽紅棍:解毒剤だ、飲んでおけ。


△サクヤ:……意外と優しいところがあるんだね。


▽紅棍:言っただろ、そこまで鬼じゃねえって。

    ――お嬢!


●アンジェリカ:な、なに?


▽紅棍:その……なんというか……じゃあな!


●アンジェリカ:えっ……う、うん……


◎草蛙:それでは失礼いたしました。


●アンジェリカ:――本当に行ってしまった。


◇シャーリィー:ふぅ……なんとか助かった……

        社長……もっと早くやってよぉ……



【Ⅶ】

<リューネブルク王国領九龍半島・首都『中環』 / 龍頭商会本拠地『龍の腸』>


◎N①:数時間前――。


□龍頭:カッカッカッ! 随分ずいぶんと大口を叩くもんだな!

    我らだけじゃなく、王立警察ですらアンジェリカ・リーが

    今回の事件の犯人だという確固たる証拠を掴み、犯人だと断定している。

    この現実をお前にくつがせることが出来ると?

    ……本気で思っているのか?


☆レオン:まあ、アナタにそこまで言われちゃうと気が引けちゃいますが……

     ワタシ、負け戦はしない主義なもので。


□龍頭:ほう? 此度こたびの勝負は、お前が勝つと申すのだな?


☆レオン:ええっ、もちろんです。

     それにわかっているでしょう?

     ねぇ、老大ラオ・ダ――


□龍頭:それは言わぬ約束であろう。


☆レオン:おっと……いけませんねぇ~

     つい興が乗ってしまって余計なことを言ってしまいました。

     ――話を戻しましょう。

     実は折り入ってひとつお願い事があるんです。


□龍頭:なんだ?


☆レオン:事件解決のご協力をお願いしたいんです。


□龍頭:…………。


☆レオン:そんなしかめっ面しないでくださいよ~

     単純なことです。

     ――商会しょうかいは今後、リー刑事に手出ししないでください。

 

▲白紙扇:なっ!? 貴様、調子に乗るのは大概たいがいに——


□龍頭:いいだろう。


▲白紙扇:首領しゅりょう!!


□龍頭:だが……もし、今回の事で解決出来なかった場合はどうする?

    ――アンジェリカ・リーの命とは別に、お前は何を差し出す?


☆レオン:うっわ……いきなり、裏社会のボス感を出しちゃいますかぁ~

     ――まあ、ワタシだって生半可な気持ちでここに来た訳では

     ありませんから。


□龍頭:ほう?


☆レオン:もしワタシが解決を出来なかった場合、差し出すのは——



                (間)



<リューネブルク王国領九龍半島・首都『中環』 / レオン・ロー探偵社>


☆レオン:――随分と派手にやってくれましたねぇ。

     探偵社がメチャクチャだ……

     しばらくは表の仕事は休業しなければいけませんねぇ。

     こりゃあ、事件解決後には商会に弁償費用を請求しなきゃ――

     んっ? もしもし?

     ああっ、アナタでしたか。公衆電話だから警戒しちゃいましたよ~

     彼女? リー刑事のことですか? もちろん、無事ですよ?

     アナタの方はどうです?

     そうですか……まあ、あのヤン総警司そうけいしなら

     自分の出世のために頑張るでしょうねぇ……

     こちらですか?

     そりゃあ、商会しょうかいのほうは抑えておきました。

     なので、気を付けてくださいね。

     もし商会しょうかいと一緒に動く奴がいれば――真犯人はソイツですね。

     ええっ、王立警察のほうは頼みましたよ――副隊長さん。

    

   

(To be continued.....)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

【声劇台本】レオン・ロー探偵社の事件簿 ~九龍発探偵活劇エクスプレス~(アークホルダー・フラグメントレコード Ⅱ) 家楡アオ @aoienire

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る