第11話 荒野の木造集落その3
あの時、リアムの後方では大量の砂塵が数キロに渡って宙に舞い上がっていた。その光景を目の当たりにした男は、リアムを集落に避難させるためにそう促したのだ。この砂嵐は自然発生したものではなく、リアムが全力疾走したことにより発生した人為的なもの。しかし、発生源である少女はそのことについて全く気づいていなかった。
彼らに案内された自宅は屋外にいるよりかは、多少マシな程度のオンボロ掘っ立て小屋。砂塵ならともかく、暴風が吹いたらひとたまりもないだろう。広さもリアムの実家の四分の一ほどだ。その狭い空間にベッドやテーブル、イスが四脚、それと小さな棚が置かれていた。
リアムは玄関口まで進んだところで、無意識にピタッと足が止まった。ドカドカと実家のように他家にお邪魔するのはマナー違反。日々言い聞かせてきたおもちの努力の賜物であった。ただ人形のように瞬き一つしなくなるのが、少々不気味ではあるがそれもまた一興。
男は手に持った拳銃を机上に置くと、直立不動で動こうとしないリアムに話しかける。
「で、お前はどうしてこんな不毛な土地に来たんだ? ここに人が来たことなんて、生まれてこの方無かったからよ。それとだな、他のやつらにもお前のことを説明しねぇといけねぇからよ。嘘だけはつくんじゃねぇぞ、面倒ごとはお前も嫌だろ?」
「――リアム、リアム」
「うん、なんだって?」
「お前じゃない。お母さんが名付けてくれたリアムっていう大事な名前がある」
「……あ~、それは悪かった。俺の名前はダート、そしてそっちの二人は俺の子供で、男がレイで女がライってんだ」
「ダート、レイ、ライ――記憶した。リアムが来訪した理由は、ある人にここを紹介されたから――」
リアムはダートにこれまでの経緯を手慣れた様子で話していった。これは集落に訪れるたびに毎回行う恒例行事。はじめのほうはリアム本人が考え説明していたが、グダって結局何の話だったのかと困惑させることが多々あった。その無駄な時間を省くためにおもちはあるものを用意した。それは暗記してそのまま話せば、どこの集落でも何とかなる万能原稿。少女の一人旅という補正が加わり効果絶大、場合によっては物資なども無償提供されるというオマケ付き。今回も成果は上々なようで、人間たちの反応は悪くなかった。
ダートは目頭を押さえ、少女に対してどう言葉を返せばいいのか悩んでいた。見たところ自分の子供と同世代、つまりまだ十歳程度の子供だということだ。その少女が一人でどこにいるのかすら分からない母を探して旅をしている。子供を持つ親として、なかなか衝撃的で受け入れがたい内容。レイとライが集落を出て行くなんて考えたこともない。まだあいつらならば兄妹で協力し合えるかもしれないが、目の前にいるリアムという少女はたった一人。ここまで誰にも頼らずに旅をしてきたのだろう。そして、これからも一人だけで旅を続ける気なのだろう。
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