第10話 荒野の木造集落その2
暫くすると「何の用だ!」と高圧的な声が集落内部から聞こえた。足音を聞く限りその人間以外にも、二人ほど息をひそめ防扉付近まで来ているようだ。あの声の主はたぶん人間の男、残り二人は足音から判断するに子供だろう。こういう組み合わせの場合、親子の可能性が非常に高い。相当なヘマをしない限りは集落に入れてくれそうだ。ただこの完璧な組み合わせに出会った時の難点は、お母さんを思い出して、少しだけ哀しい気持ちになってしまうこと。
「旅をしていて、その道中でここを見つけて――入ってもいい?」
「その声の感じ……お前以外に誰か付き添いはいるか?」
「リアムひとりで旅してる」
「……そうか、お前一人か。ちょっと待ってろ、いま扉を開けてやる。ただし、手のひらが見えるように両手は必ず上げておけよ!」
「分かった。両手上げて待機しておく」
人間の指示に従い両手を上げるリアムに対して、おもちは呆れた様子で「チュウ……」とひと鳴きし胸ポケットに潜っていった。閂を引き抜く鈍い音を聞きながら、おもちの言葉について思案する。
「チョロい――ね。リアムはそんな人間のほうが良好、好都合。お母さんのことも尋ねやすい。ただこういう集落は、再訪できなくなるかもしれないのが欠点」
木製の壁に小窓もない脆い扉、監視塔もなく来訪者の姿も確認せずに声だけで判断しての開扉。それはつまり危険察知能力が絶望的だということ。二人は数多くの集落がこの世から消滅したことを聞き、実際にこの目で何度も見てきた。そのほとんどがこういったお人好しな人間ばかりがいる集落だった。だからといって、立ち寄った集落でそういった助言をしたことは一度もない。一番重要なことはお母さんをいち早く探し出すことであり、それ以外は彼女にとって取るに足らない些細な問題なのだから。
リアムがそんなことを考えているなど露知らず、男は少女を迎え入れるため扉を開けた。
「ちゃんと両手を上げているなって、それどころじゃねぇ! さっさと集落に入れ!」
「荷物検査とかしなくてもいいの?」
「荷物も何もお前、何も持ってねぇじゃねぇか!」
「腰にポーチを付けてるんだけど?」
「わざわざ説明ありがとうな! それはあとで確認するから、まずは集落に入れ!」
「――えっと、お邪魔します」
必死の形相で手招きする人間をよそに、呆けた表情で扉に向かうリアム。
男はリアムが扉を通り抜けたのを確認すると、すぐさま閉扉して閂を差し込んだ。その後、一安心したのか「ふぅ……」とため息をつき額を汗を拭うのだった。
「これでひとまず安心だ……つうかお前、よくあんな状況で平然と会話してたな」
「あんな状況って、どんな状況?」
「おい、嘘だろ……気づいてねぇのかよ。お前の真後ろまで砂嵐が迫ってきてたんだぞ。って、ここで悠長に話し込んでる場合じゃねぇな。とりあえず俺の家に来い、話はそれからだ!」
「――分かった、あなたに追従する」
「いい返事だ。レイ、ライお前たちも家に戻るぞ!」
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