第2話

管理等へと戻ってきた俺は、厨房エリアへと向かった。

厨房エリアは、一階にあり搬入口が併設されている。

食材の納品から冷蔵・冷凍保管場所である倉庫もここにある。

納品は、午前のうちに済まされる。


「あ、支配人。お疲れ様です」

「お疲れ様です。モエ」


コック服を纏う真っ赤な髪におでこから小さな突起のような角が出ている。

彼女は、厨房の総監督であるモエ…知重ともえである。

厨房エリアには、様々な人種が働いている。

搬入では、力自慢の竜人種や牛獣人種などが働いている。

下拵え・解体などは、器用な鬼人種が多く働いている。

モエも、その鬼人種である。


「納品はどう?」

「滞りなく済んでいます」

「それはよかった、ほかに問題は?」

「えっと…」


彼女が視線を逸らす。

視線の先を俺も追う。

厨房の片隅に、モクモクと煙が上がるところがあった。


「ああ。やっぱりか」

「はい、紬副支配人はいつも通り朝からあの調子で」

「あははは、彼女らしいな。お腹いっぱいになったら帰ると思うから」

「はい…いつも通りですね」


今日休みの紬…ムギは喰っちゃ寝が趣味の竜人種の女の子である。

休みの日は、うつらうつらとしながら厨房の片隅でキャンピングチェアとバーベキューグリルを設置してモクモクと食べている。

まあ、彼女との就労契約でOKにしている。

ムギは、食費がかかるだけで普段はまじめに業務をこなしてくれる。

休日だけだらけている。

モエとの業務報告を終えた俺は、一度ムギの所に行くことにした。

彼女の周りには、幾つかのローテーブルが広げられ肉の塊がトレーに載せられている。

ムギは、シースナイフでその肉塊を削ぎながらバーベキューグリルに載せながら焼いている。

ただ、俺は知っている。

半分眠りながらやっていることに。

いつも思うが、良く怪我をしないものだと感心する。

彼女曰く、やわなナイフじゃ肌に傷などできないし、これくらいの火じゃ火傷もしないと。

竜人種であるムギの見た目は、細身な女性で透き通るほどの青い髪をしている。

まるで、流水のようである。

肌は、雪のように真っ白である。

頭部には、流れる様な尖がった黒い角が生えている。


「ムギ、今日も美味しい?」


ムギは、開け切っていない瞼を俺に向ける。

やがて、スーッと瞼が開いていく。

そして、瞼を両手で擦る。


「クォ?美味しいよ」


ムギは、俺の事を「クォ」と呼ぶ。

この世界では、敬称が名前の前か後ろを二文字にする傾向がある。

だから、「紬」を「ムギ」と俺は呼んでいる。


「クォも食べる?あーん」


俺の口に、トングで掴んだ肉が運ばれてくる。

仕方なく口を開ける。

「あーん」と言いながら。

そして、咀嚼する。

クセと脂が多くない肉だった。


「あれ?これ何の肉?」

「鹿だったはず、美味しい?」

「ああ、美味しい。そうか、今日は鹿が入荷したのか」


ムギは、休みの日にこうして焼肉を楽しんでいる。

名目としては、味見だ。


「さて、俺も昼に行ってくるよ」

「うん…クォ。また夜にね」

「ああ、夜に」


俺は、厨房から出て食堂へと向かった。

まあ、厨房の隣である。

スタッフ達が午後のチェックインに備えて昼食を食べている所だ。

俺が、やってくると奥の席に座るミヤとシズが手を振っていた。

いつもの俺達の席である。

普段は、その席にムギも座っている。


「クオくん」「クオさん」


2人が声を揃えて俺を呼ぶ。

くん付けがミヤで、さん付けがシズである。

テーブルには、配膳が終わって俺の分の料理が置かれていた。

今日は、冷しゃぶとトマトのうどんに揚げ玉とネギのマブされたたぬき冷奴、きな粉と黒蜜がたっぷりかけられたわらび餅が置かれていた。

とてもヘルシーな昼食だ。


「ミヤ、シズ。2人共、お疲れ様」

「クオくんもお疲れ様」

「クオさん、お疲れ様です」


僕は、2人の対面の席に座る。

シズのケモ耳がピコピコ動いている。

よく見ると、背中で灰色の尻尾が左右に揺れている。


「それぞれのエリアは問題なかった?」

「「問題ないよ」」

「ならよかった。お昼食べたらミーティングをしよう」

「「はーい」」


俺達は、手を合わせて食べ始める。

うどんは、濃い口のだし醤油で味付けがされているがトマトのさっぱりした酸味が心地いい。

たぬき冷奴は、豆腐がずっしりと目が締まっていてなかなかに重量感を感じた。

わらび餅は、黒蜜の甘味が際立って美味しかった。

俺は、あっという間に食べ終わるのだった。

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