1街:Epilogue 大切な家族が入るための

「といっても、野宿なんてイヤなワケよ、アタシは」


「なるほど?」


 ハロウィン・タウンを旅立ったその日の晩、新たなる仲間・トゥーナが言うと、アインは簡潔に頷いた。


 だから、とトゥーナは話を続ける。


「簡単な家とかは、まあアタシの魔法で出せるからね。カボチャ型だけど、そこはカワイイし別にイイでしょ? キッチンとか細かいのは、さすがにイチイチ作るの面倒だけど……旅をしながら風雨ふううしのげるだけ、上等じゃない?」


「ああ、その通りだと思う。だが魔法で家を出すにしても、魔力や体力の消耗は、それなりに大きいのでは?」


「ん~、まあね! でも背に腹は代えられないっていうか、今までも魔力切れとか起こしたコトないし……まあ念のため、省エネでがんばるわよ」


「ふむ。……いや、旅にはどんな不測の事態が起こるか分からない。いざという時に備えて、無駄な魔力消費は避けるべきだろう」


「行き倒れたヤツが不測の事態への備えを語るとか、ジョークとしちゃ上等だけど……でもそしたら、家で寝れないじゃない。イヤよアタシ、野宿とか――」


「? いや……家なら、用意できるぞ?」


「えっ。……アンタ、魔法まで使えんの? それとも一から造るの? まあアンタのパワーなら、出来なくもなさそうだけど……」


「いや、俺もロゼも魔法は全く使えないし、一から造るのもさすがに手間だしな。というか、家は……目の前にあるぞ。大切な家族のための、な」


「それって……は? その……でっかい棺桶のコトよね? ……えっ、その中でってコト? シュールすぎない?」


「フフッ! ……いや、見せた方が早いか。よいせ……っと」


 棺桶に並んで就寝している所を想像したのか、アインはややウケていたが――それはそれ、荒れた道の端に、巨大な棺桶を下ろすと。


 ガキンッ、と金属質の錠か何かが外れた音がし――立て続け、棺桶の枠組みが解放されると、重々しい鉄製の板がスライドしていき。


「は? ……へっ、えっ、はっ?」


 目を白黒させる、トゥーナの目の前で。


 アインは、巨大なルービックキューブを操るかの如く、複雑な機構を迷いなく回転・展開・構築させて。

 結果。



 荒野の道端に―――ドンッ、と一軒家が出現することとなった。



 その信じられない光景を目にして、トゥーナは口をパクパクとさせ――色々と言いたいことはありそうだが、真っ先に出たツッコミは。


「――――つまりアンタ、家を背負って旅してたってコトになんの!? 道理であんな馬鹿力なワケよ、どうかしてんじゃないっ!? てかこの家、最初の棺桶より面積はデカいってコトは……この鉄の板とか、棺桶の中にギッチギチに詰まってたって話じゃん! アンタの力、どうなってんのよ!?」


「? いや、リリィにも言ったが、そんなに重くないぞ。慣れれば楽だし」


「重くないワケあるかモンスターでしょアンタもはや! ……ハッ。もしかして、この棺桶に入る家族って……死んでからとかの話じゃなく、〝棺桶=家〟って意味!? 紛らわしいのよ――」


「いや別に、例えば俺が死んだらここに保管してもらいたいし、皆もいつか入ってくれるなら寂しくないな、と思っているが」


「アンタやっぱサイコさんね! とんでもねーヤツに付いてきちゃったモンだわアタシ! ああもー、これから先、ホントに大丈夫なの~~~!?」


 荒野の夜も、元気一杯に(ツッコミで)快活な声を響かせる、ハロウィン・タウンの魔女娘さんである。


 と、一先ひとまず家が組み上がったところで、アインの忠実なるメイド・ロゼが入り口に歩み寄り、扉を開くと。


「……マスター・アイン、トゥーナ様。どうぞ、中へ」


「ん。ありがとう、ロゼ。まあ積もる話は、腰を落ち着けてから、だな。この棺桶ハウスも俺が開発・創造したモノだが、設備も色々とあるし、使い方を説明しておこう。……無いのは食糧だけ、ってな、フフッ!」


「なに笑ってんのよ、笑いごとじゃなかったでしょアンタ。……うわ中、広っ。キッチンもある……ん? なにこれ、かまど……じゃなく、? 火が付く? へ? どーゆー仕組み? ……貯蔵してたガス? なにそれ、魔法かなんか? ??」


 さて。


 こうして、を招いた、アインの棺桶に。

 最後にロゼが扉を閉める、その直前に。


「………………」


 外へ向けてだろうか、この〝モンストル・ワールド〟へ向けてだろうか――それともどこかの誰かさんへ向けてだろうか。


 美しきメイドは、ぽつり、一言。



「―――おやすみなさいませ」



 パタン、と扉を閉じ――扉にはちょうど、リリィから贈られた花束が。


 ―――エントランス・スワッグのように、飾られていた―――

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