1街:第12話 囚われの少女〝たち〟 ★魔女娘SIDE

 ハロウィン・タウンのカボチャをした建物でも、一際大きな店構え――酒場の中で、盗賊団の中心であるオーガが大酒をがぶがぶとあおる。


『ンゴッ、ゴッ、ゴッ……プハーーーッ! ヘヘッ、一仕事の後の酒はたまんねぇなァ、大収穫もあるとくりゃなおさらだぜ! へへ、ふう……ところでよ、そろそろカボチャの酒は飽きたから、バーボンでも持ってこいやァ!』


『スイヤセン、オーガの兄貴ィ! カボチャのしか見当たりやせんッ!』


『……そう……。……んじゃよォ! 肉だ、肉でも持ってこいやァ! 酒場なら少しは置いてんだろォ!』


『スイヤセン、オーガの兄貴ィ! 食料保管庫に、マジでカボチャ以外なんにもないッス! マジです……カボチャ以外、なにもッス!』


『どうなってんだこの街は! クソが!!』


 勝手に襲っている盗賊団の身勝手な言い分だが、真には迫っている気がする。


 ……と、店内ではなく、建物内の一部屋で。


 ―――後ろ手に縛られた状態で、気を失っている少女に呼びかけた。


「リリィ、リリィっ……しっかりなさい、何があったの!?」


「……ん……。……ぇ……あっ!? とぅ……トゥーナちゃん!? わたし、モンスターの盗賊団にさらわれて……とぅ、トゥーナちゃんは、何で?」


 同じく後ろ手に縛られているリリィが問いかけると、トゥーナは苦々にがにがしい表情で返事した。


「っ。アタシは……わからないの。どうやら眠ってる間に、さらわれたみたいで……でも、そんなの異常よ。まるで魔法にでもかけられたような深い眠り……だけどこのアタシに、簡単な魔法なんて通じるはずないわ。でもない限り……」


「えっ。……じゃあ、マーマさんの魔法だったんじゃ……?」


「えー、そんなワケないでしょ? ママがアタシに魔法をかける理由なんて無いじゃない。おかしなコト言うわねーリリィってば★」


「いや、う~ん……たとえば気がたかぶったりして、寝付けなかったから、とか……ほ、ほら、昨晩は色々あったし……」


「いやいや、そんなまさか―――っ、静かに、リリィ!」


 突然に沈黙を促す、トゥーナ――二人に聞こえてくるのは、木造りの床がきしむ音。廊下を誰かが、いかにも重そうな音を立てて歩き、そして。


 扉が開かれ―――顔を覗かせたのは、大きな腹と巨躯きょくを隠さぬ、オークだった。


「………………」


「っ、な、なによアンタ……はっ!? まさかアンタ、アタシ達に……何か妙な真似するつもりじゃないでしょうね!?」


「……えっ!? そ、そんな、いやっ……怖いよ、トゥーナちゃんっ……」


「っ……リリィ、アタシの後ろにいなさいっ。このっ、それ以上近づいたら、タダじゃおかないわよっ……このっ……ケダモノッ!」


「………………」


 威勢よく上げたトゥーナの声も、明らかに震えている――無理もない。拘束されている状態で、彼女たちに抵抗の術など、ありはしないのだから。


 しかも相手は無法者の盗賊団、その一員たるオークを、止めることなど――!


「ごはん、くう?」


「アッイエッ。……今は、いいです……」


「ん~……」


 オークは―――それだけ確認して、扉を閉めて、去っていった。


 少女二人、暫く沈黙し……先に口を開いたのは、リリィ。


「……トゥーナちゃんは、さんなの?」


「そっそそそんなんじゃないわ別に! 仕方ないでしょ今の状況じゃ、相手は盗賊団だっていうし! アタシはおかしくないわ、むしろアッチよおかしいのはっ! こんな超ド級の美少女二人を前にして、ごはんは予想できないでしょ、ごはんは!」


「……うぅ~ん……」


「とっとにかく! この状況、何とかしなくちゃ……ていうか、そうよ、アタシがさらわれてきたってコトは……パパや、ママは? 屋敷は……無事なのかしら。っ、何とかして脱出を……はっ!?」


 焦燥するトゥーナが、顔を上げると――再び扉が開かれ、そして。


「ごはん、くう?」


「なんなのよアンタは一体っ!!」


「ザツにあつかうなって、なかまが」


「素直か!!」


「ん~……」


「なんなのよホント………―――ッ!?」


 瞬間、トゥーナの顔色が変わる――それは明確な、恐れの色で。

 オークの後ろから、その巨躯より更に巨大な、異形の体格のが。


『………………』


(っ。……コイツ、他の奴らと……格が違う。恐らく、コイツがボス……)


 その異形が、目深まぶかにかぶったフードの口元から――うめくような重低音で、一言。


『………連レて、イけ』


「ん~」


「っ。……リリィ……」

「とぅ、トゥーナちゃん……」


 互いを思いやる少女二人の意思も、そでにされ。

 トゥーナとリリィは、オークに軽々と担がれ、店内の方へ連れていかれるのだった。

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