1街:第6話 リリィの家に、恐るべき魔女娘が――!

 リリィの家に戻り、中庭に巨大な棺桶を置き、アインとロゼは人心地ひとごこちつく。


 リリィのれてくれたカボチャのミルクティーを傾けるアイン。

 ロゼも、マスターの許可を取ってからだとかそういうことは一切なく、カボチャのクッキーをマイペースに食べ続けていた。


 何とも穏やかな時間の中、、リリィがアインへと尋ねる。


「えっと……ハロウィン・タウンは、どうでしたか? 色んな国を回ってる旅人さんとしては、もしかすると田舎っぽいかもしれませんけど……」


「ん、そんなコトはない。俺の住んでいた場所など、街どころかポツンと屋敷があるだけの田舎以下の環境だったし。それに、俺たちが辿り着いたのは。

 このハロウィン・タウンが、だしな」


「えっ。……えっ、あの……あ、アインさんとロゼさんは、旅人さん……なんですよ、ね?」


「ああ、その通りだ。俺たちは、旅を続けている……〝本物の家族〟を迎えるための、長く果てしない旅を、な」


「そ、そうなんですか、えっとぉ……」


 言いにくそうにしながらも、リリィはやがて、重ねて問うた。


「あの……アインさんとロゼさんって、どれくらいの間、旅をしてるんですか?」


「十日くらい」


「行き倒れてたことといい、蝉の一生みたいな旅ですねぇ……」


「フフッ! リリィ、フフフッ!!」


(笑いのツボがおかしい……)


 大人しい顔をして割と容赦ないリリィに、変な笑いで返すアイン。

 と、アインもアインで気になったのか、問い返すのは。


「そういえばリリィは、一人暮らし……なのだろうか? ご両親などは?」


「あ、ええと……その、色々と事情があって、いないんです」


「ム。……そうか、不躾ぶしつけかつ無神経な質問、すまなかった」


「あっ、いえいえぜんぜんっ、謝らないでくださいっ。最初からでしたし……わたしにとっては、ここのお花が家族みたいなものですからっ。それにこの街はパンプキン・モンスター一家の皆さんのおかげで、住みやすいですしっ」


「ああ、なるほど。確かに面倒見が良さそうだったな」


「はいっ。えへへ、特に―――あっ?」


 と、アインとリリィが和やかな談笑を続けていた、その時――玄関から鈴の音のように凛と響く声が。


『―――リリィ、お邪魔するわよっ! ん~っ相変わらずカワイイお花がいっぱい、さすがリリィねっ! えーと、リビングかしら? おーいリリィ~っ』


 遠慮なく、我が家の如く踏み入ってきた、来訪者が――姿を見せると同時に。


「あっ―――いたいた! お邪魔してるわよっ、リリィ。どう、何か変わりない? 困ってるコトとかあったら聞くけど?」


「あっ、とぅ……。えっと、あのね?」


「はー? もーなによっ、他人行儀ねー。二人の時は呼び捨てでも〝ちゃん〟付けでもイイって言ってるでしょー? あ、お土産もってきたわよー。アタシ特製、パンプキンとミートのパイと……あと、大量の飴が……」


「あっあのね、その、うん、落ち着いて聞いて……っていうか確認してほしいんだけどね、っていうか、その」


「へ? なに言って………ウオッ」


 美少女の口からちょっぴり尖ったうめき声が上がり。

 目が合ったアインが、軽く手を挙げて挨拶する。


「どうも、さっきぶり。気のせいか、随分と雰囲気が砕けているな」


「…………………………」


「ム。どうしたのだろうか、あんぐり口を開けた状態で固まってしまったぞ。カボチャのモノマネだろうか。ウーム、さすがハロウィンの魔女娘だな」


「…………な、ななっ、なっ」


 ようやく再起動(?)したらしく、トゥーナがアインを思い切り指差し、叫ぶのは。


「なっ―――何でアンタがここにいるのよっ!? はっ、そういえば行き倒れてたトコを、リリィに助けられたって……まさか泊まるつもりなワケ!? 一人暮らしの女の子の家に!? あのねえ、リリィはまだ14歳なのよ、変なコトしたらアンタ承知しないからねっ!?」


「ん。宿泊そこまでの話は、まだしていなかったが……ああ、だとしてもロゼもいるし、男が一人でもないから少しは安心では――」


「いっいいいきなり三人でっ!? こっこのド変態ッ! 許されざるわよ、この倫理観ブッ壊れモンスタぁ~~~!」


「全く分からない方向に話が進んでしまっているのだが、どうしたのだろう。思春期だろうか。大変だな」


 何やら一気に騒がしくなった、リビングで。

 今まさにいわれなき中傷をアインが受ける中、忠実なる美しきメイド・ロゼは。


「もぐもぐ。……リリィ様、クッキーのおかわり、頂けますでしょうか」


「アッハイ。……えっと、あの……目の前の大騒ぎに、何か言うこととかは……?」


「特にないです」


「アッソッそうですか。そう……ですか……」


 ひたすらマイペースなロゼに、リリィはもはや、微妙な表情をするしかない。

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