1街:第3話 いざ、ハロウィン・タウンへ!

 アインとロゼはリリィの家から出て、くだんの〝ハロウィン・タウン〟へと向かっている。

 案内を買って出てくれたリリィは、恐る恐るアインに尋ねた。


「え、えーと……アインさん、その棺桶、うちに置いたままでもよかったんですよ?」


「いや、いつか俺の家族と入るコトになる、大切なモノだからな。出来るだけ手放したくないし……それにから、問題ない」


「そ、そうですか? そういえば、軽々と背負ってますもんね……ええと」


 言いながらリリィが、棺桶の天辺てっぺんに目を向けると――そこには月明かりを浴びて座る、美しき銀髪のメイドが。


「……ロゼさんも、ますし……」


「歩き疲れましたので」


(忠実なるメイドとは一体……)


 主人を移動手段に使う、忠実なるメイドらしい。


 さて、そうこうしている内に、辿り着いた。




 ―――照明は、街の至る所に備えられた、カボチャをくりぬいて作られた、数え切れないランタンが。

 夜にあって煌々と、昼間のように明るく照らす、闇を知らぬ町並み。


 人間が暮らしているだろう家々も、まるで顔のある巨大カボチャを模して造られた、尋常ならざる不可思議な様相ようそう


 道行く人々は、人間でありながらモンスターにふんしているかの如き、されどそれこそがとばかりで。



 嗚呼、ここはまさしく――――――!



〝カボチャの街〟とでも形容すべきか、アイン達がそこへ足を踏み入れた瞬間、リリィに気付いた知り合いとおぼしき中年の女性が声をかけてくる。


「アラアラ、リリィちゃんじゃないのぉ~! ンマー男の子なんて連れて珍しい! 見ない顔と妙にデッケェ棺桶なんか背負っちゃってるけど、一体どこで引っ掛けてきたのかしら~!」


「あっ、こんばんは、おばさまっ。街の決まり事で仮装しなくちゃいけないとはいえ、さすがにミニスカはキツいと思います!」


「ンマーッ内気な顔して相変わらず意外な遠慮のなさ! 逆に気持ちいいわ~オーホッホッホ!」


(なるほど、リリィの思ったコトを素直に口にしてしまうのは、環境がはぐくんでしまった結果なのだなぁ……)


 何となくアインが納得していると、知り合いと思しき女性は、続けて一言。


「あっ、そうそう、大変なのよ~。ほら、この街で有名な自称・オシャレおじさんの家が……今、燃やされちゃっててねっ。ウフフッ」


「わあ。……わあ、ぁ……それ、ついでの世間話っぽくしちゃって、いい話なんでしょうか……?」


「ン~でもマア~、この街の支配者のモンスター様のやることだから、どうしようもないわよ。ね~?」


「ああ、それはまあ……モンスターさんのやることじゃ、仕方ないかもですね……」


 なかなか諦めが早く感じるが――実際、人間と大きく異なる感性を持つモンスターの行動は、常識では計り知れない。

 大なり小なりという違いはあれど、モンスターによっては、それこそ癇癪かんしゃくひとつが天災のようなもの。力なき人間は、どれほど理不尽でも諦めるしかない、というのも珍しくない考え方なのだ。


 さて、そんな話を聞いて、アインはといえば。


「ああ、じゃあこの街を支配するモンスターは、そこにいるってコトだな。ついでだし、挨拶していくか」


「わたしが言うのもなんですけど、アインさんも大概たいがいマイペースですよねぇ……で、でもそうですね、事情によっては止められるかもしれませんし、いきましょうっ」


「俺は挨拶したいだけで、他人の家が燃えてようと、別にどうでもイイのだが……まあ恩人のリリィが言うなら、場合によっては、しようか」


 いっそ薄情なほど淡白な発言だが、何にせよアインの同意を受けて、リリィは先導するように先駆けていった。

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