モンストル・ワールド! ~魔物、妖怪、怪物、天使や悪魔――モンスターの支配する街や国を旅して、家族を迎えていく~

初美陽一

1つ目の街 ハロウィン・タウンの魔女娘《ウィッチ・ガール》(全・三章)

第一章 花の少女と、ハロウィンの魔女娘との出会い

1街:第1話 さっそくの野垂れ死にから始まりまして

 魔物、妖怪、怪物、天使や悪魔――闇の世界から現れたモンスター達によって。

 に、人の世は終わり。



 ――― 世界は今や、モンストル・ワールド! ―――



 力あるモンスター達に対し、ほとんどの人間には、対抗のすべなどなく。

 人間にとって生存の道は、甘んじてモンスターの支配を受けるのみ。


 今やモンスター達の楽園と化した世界の、道ならぬ荒野を。



 ―――を背負った、一人の青年が、歩いていた―――



「……………………」



 巨大な……いや、の棺桶だ。明らかに一人分どころではなく、優に10人は入れてしまいそうな棺桶。高さ・幅・奥行まで、下手をすれば小ぶりな建物ほどありそうだ。


 それを背負って歩くのは、灰色がかった銀髪が目にかかりそうな、やや不健康な印象を与える色白の青年。


 明らかに線が細い体型なのに、巨大な棺桶を良く背負えるものだ、が――

 そんな彼が、今。


「――――――ぐふっ」


 道ならぬ道のど真ん中で、前のめりに倒れ伏す。入ることを想定しているだろう棺桶に、し潰されるとは何たる皮肉。


 さて、横倒しの状態になって、なお巨大な棺桶の――陰から、メイド服を身にまとった女性が現れて。


「大丈夫でしょうか、


 涼やか、を通り越した、いっそ無機質な声音こわねで問う。


 一見すればメイド風の女性、その顔つきは、まるで神が造り出したかのような美貌。全くの無表情を崩さないのも、作りものじみて感じる理由かもしれないが。


 艶やかな長い銀髪は、月明かりを反射してきらめいている。

 そんな美貌のメイドに、アインと呼ばれた青年は、棺桶に潰された状態のまま返事した。


「見ての通り、大丈夫じゃない。腹が減って、死にそうだ」


「そうですか」


「ああ、そうだ。……食糧のストックは、何かあるか?」


「ありません」


「……フッ、そうか」


 地面と棺桶の間で、笑っているのだろうか、アインは一言。



「齢、十八にして、俺の旅も―――のようだな」



 今、謎の青年・アインの旅が、人知れず終わろうとしていた。


 そんな妙にいさぎよい彼へと、メイド姿の美女は、相変わらず無感情な声音で声をかける。


「マスター」


「……フッ、どうしたロゼ。別れの言葉を聞くだけの時間は、まだ残って――」


「歩き疲れたので、棺桶に乗ってもよろしいでしょうか?」


「オヤオヤ、ぶっ倒れている俺の姿が、どうやら見えておいででない?」


 アインは皮肉っぽく返すが、メイド――ロゼと呼ばれた美女は、特に気にする様子もなく、棺桶に飛び乗った。非常にマイペースである。


 結果、青年を潰す棺桶が墓標のようになってしまった、その上で――メイド風の銀髪美女が綺麗に背筋を伸ばして座る、シュールな絵面が完成してしまう。


 まあ、何にせよ、空腹が解決するわけでもなし。

 謎の青年・アインの旅は、壮大に何も始まらず、静かに終わる―――


 ―――――かと思いきや。


「……あ、あのぅ……だ、大丈夫、ですか? 行き倒れ、なのかなぁ……なんだか綺麗なお姉さんが、上に乗っちゃってますけど……」


「……………………」


「えっと、そのう……お腹、減ってるなら」


 棺桶に潰されたまま、ほとんど姿の見えないアインに。

 かけられる声は、どことなく内気そうな、少女の声で。


「大したものは、ありませんけど……うちに、来ます?」


「――――――!!」


「へ? ……ひゃ、ひゃわぁぁぁぁっ!?」


 瞬間、巨大な棺桶が、垂直に持ち上がり――それでも座ったまま微動だにしない銀髪メイド・ロゼも、堂に入ったものだが。


 とにかく、驚いて尻餅をつく、白のワンピースを着た内気そうな少女へと。


 アインは両手で棺桶を抱え上げたまま、快諾の返事を出す。


「ありがたく、ご馳走ちそうになる―――キミの名と、家はどこに?」


「あ、あわわ……え、あ、わたしは、リリィ……家は、えっと」


 ライトブラウンのセミロングを飾る、花のヘアピンが特徴的な少女、リリィが口にしたのは。




「パンプキン・モンスターが支配する――

 ――――に――――」

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