モンストル・ワールド! ~魔物、妖怪、怪物、天使や悪魔――モンスターの支配する街や国を旅して、家族を迎えていく~

初美陽一

プロローグ

 魔物、妖怪、怪物、天使や悪魔――闇の世界から現れたモンスター達によって、とっくのとうに人の世は終わり。



 ――― 世界は今や、モンストル・ワールド! ―――



 力あるモンスター達に対し、ほとんどの人間には、対抗の術などなく。

 人間にとって生存の道は、甘んじてモンスターの支配を受けるのみ。


 今やモンスター達の楽園と化した世界の、道ならぬ荒野を。



 巨大な棺桶を背負った―――青年が、歩いていた―――



「………………ふう」



 巨大……いや、異様な大きさの棺桶は、明らかに一人分どころではなく、優に10人は入れてしまうだろう。高さ・幅・奥行まで、下手をすれば小ぶりな建物ほどありそうだ。


 それを背負って歩くのは、灰色がかった銀髪が目にかかりそうな、やや不健康そうな色白の青年。

 明らかに線が細い体型なのに、巨大な棺桶を良く背負えるものだ。


 更に、そんな青年の隣に立つのは、一見すればメイド風の女性。けれどその顔つきは、まるで神が造り出したかのような美貌。全くの無表情を崩さないのも、作りものじみて感じる理由かもしれないが。


 艶やかな長い銀髪が、月明かりに反射して煌めく中、美貌のメイドは口を開く。


「マスター・アイン、お疲れでしょうか?」


「ロゼ。ああいや、少しだけな。やはり徒歩の旅っていうのは大変だよ、には世知辛いな。ハハハ」


 アインと呼ばれた青年と、ロゼと呼ばれたメイドが、軽い口調で対話しつつ――


「さて、も終えたし――旅を続けようか、ロゼ」


「イエス、マスター・アイン――」


 月明かりに照らされながら、二人は改めて歩き始めた。


 一歩でも外を出れば、そこはもう、跳梁跋扈ちょうりょうばっこするモンスターの世界。

 狂猛きょうもう、暴威の魔獣も闊歩かっぽし、獰悪どうあくの賊徒も蔓延はびこる、人のためならざる険阻けんそなる旅路に。


〝ただの人間〟と口にした青年が担ぐ、巨大に過ぎる棺桶の――その陰から。


『ウ、ウゴゴ……クケ~ッ……』

『ば、馬鹿な、おれらモンスターの大盗賊団が、こうもあっさり……』

『チーーーーン………』


 月光にさらされたのは、魔鳥コカトリス巨人ティタン屍人ゾンビ、etc,etc――そのいずれもが傷だらけで地に臥せ、立ち上がることも出来ないでいる。


 モンスターが支配する世界には、あまりに異常なその光景に――振り返りさえせず歩を進める、そんな二人の背を隠す、巨大な棺桶を。


『な、何者だ、アイツら……タダモノじゃねぇ……』


 倒れたままのモンスターは、ただ畏怖をもって見送るしかなかった。


 ……さて、そんな恐れられる〝ただの人間〟の旅人、アインが一言。


「……ところで少し腹が空いたな。ロゼ、何か食べるものはあるか?」


「ありません」


「そうか。まあでも、その内どこかで手に入るだろう、何とかなるさ。ハハハ」


 やや暢気のんきというか楽観的なことを、アインは軽めに呟くのだった。

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