第5話
画面には髪を短く刈り込み、明るい髪色に染めた筋肉質の若い男が映っていた。
最初は絶対好きになれないって思っていたサークルの先輩、隆章だった。
耳にはピアス、チャラついたその雰囲気に最初は嫌悪感すらあった。そんな男の身体に覆い被さり、慈しむように舌先で舐め回している女がいた。
『上手くなったな…』
『…ん、はぁ…もぉ、言わないで、ください…』
男とは対照的に黒髪のストレートをポニテにまとめ、雪のように真っ白な身体は発育がよく、けれどまだあどけなさを残した顔立ちの女子大生、七年前の雫がいた。
「こ、こんなもの撮っていたなんて…最低…」
雫はワナワナと震え、そう吐き捨てた。けれど、朝の不満もあって暫く見入っていた。止められなかった。
動画の二人は今の二人より遥かに引き締まっていた。特に隆章は腹が出ていない。雫の七年前は肌の艶が違っていた。
「はぁ、はぁ、ん、はぁ…」
再生の量を示す時間は約二時間。
雫は嫌悪しつつも自慰に耽った。
だがそれは、達する前に止めることになった。
◆
徐々に思い出す当時の記憶。それをおかずに雫は貪るように左手を動かし、薬指の結婚指輪が光を鈍く乱反射させていた。
だがあるパートでおかしなシーンがあった。真っ暗で音声だけが篭ったように響いていた。
『しかし先輩がねー』
『んだよ、悪いかよ』
『はぁ…こんな事なら最初に味見…』
『殺すぞ?』
声の主は隆章とおそらく誠太だ。そして画面はガタガタと忙しなく動き、誠太の顔がアップで映った。
『はいはい。先輩、ここでいいんすか?』
『あー? ああ、そこでいいぜ、ばっちり見えるだろ』
誠太がフレームアウトすると、部屋の全貌が露わに映った。それは風情のある和室だった。
「どこか…見覚えが…」
そんな雫の呟きに被るようにして、隆章と誠太の会話は続いた。
『ほんっと鬼畜っすね』
『ああ? これは優しさだろ。何言ってんだ』
『俺、居た堪れなくて…ぷぷ、あっはははは』
誠太は膝を叩いて笑った。大学時代、雫がよく聞いた爽やかな笑い声ではなく、どこか馬鹿にしたような声色だった。
『かっ、思ってねーじゃねーか』
『いやいやそんな事ないすよ。いい奴でしたから』
何の話だろうか。そしてこれはどこだろうか。
『良いやつ? だからだよ』
『うわ、何それちっせえ! いだっ! あははっ、冗談っすよ…』
『いいから早く消えろ。あいつが来るだろ。こっちは三日ぶりなんだ』
『昨日頼子ちゃんとしこたまやったじゃないすか…絶倫過ぎっしょ』
(頼子…?)
今はまったく知らないが、当時映画研究会に所属していた女の子だった。時折雫のサークルに参加していた子でそれなりに仲良くなった子だった。噂では地元で結婚したと聞いたのだが、隆章と関係を持っていたようだ。
(そんなこと全然知らなかった…)
『うっせ。あ、そうだ。そいつのアドレス教えろよ』
『え? もう完堕ちしたんだし直ポスっしょ?』
『アホか。Liveに決まってんだろ』
『マジすか…ひくわー、めっちゃひきますわー。あっはははは』
かんおち、じかポスにライブ。意味もわからず、繋がらない単語が並び、雫の左手は完全に止まっていた。
『お前…いいから早く行けよ。もう上がってくんだろ』
『へいへい、まあ、編集の際は言ってください。優しく加工するんで』
『しねーよ。とりあえず見張っとけよ。自殺しないようにな』
『ほーい』
自殺。隆章の言った意味が、雫にはよくわからなかった。状況が認識に映らないのだ。
誠太は帰ったのか、画面にはその和室と物音だけが響いていた。
「ただいま…戻りました…」
するとそこに聞き覚えのない女の声が聞こえた。そしてそれは見覚えしかない顔をしていた。
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